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浮遊図書館の魔王様  作者: るーるー
魔王なります 編
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第二十三話 考えました

「負傷者は直ちに後方に回せ! 敵がいつくるかわからないから気を抜くなよ!」


 もといた野営地点に戻ってきたウフクスはすぐさま負傷者の手当ての命令をだした。

 どちらにしろ今攻め込まれたら勝ち目などない。ならばいっそ負傷者の治療を行い、敵が来ないほうにかけるしかないと考えたからだ。

 レクレは楽観的に考えていたが黒腕の衝撃波だけでもかなりの重軽傷者がでていたためだ。


「ウフクス様、治癒魔法を使える魔法使い、そして薬品が足りません」

「重症な者を優先にしろ。軽傷なものはがまんしてもらうしかない」

「わかりました」


 部下が立ち去った後、ウフクスは司令官用の天幕に入り、椅子に座り込み頭を抱えた。

 先ほどの戦闘、時間にすれば十分もなかった。いや、戦闘にすらなっていないのだ。一方的に被害を受けたのはこちら側で、敵はなにも被害を被っていないのだから。


「追撃をしてこれば殲滅は容易だったはずだ。なぜしなかった」


 いくら考えても敵の行動がちぐはぐすぎるのだ。

 いきなり現れ、奇襲が成功したら追撃はしない。

 戦場ではありえない。


「だが、今は生きている事をを喜ぶべきなんだろうな」


 とりあえずはだが、と自嘲気味に笑う。


「ウフクス様」

「どうした? 」

「ベアトリス様がお見えになっています」

「ベアトリス卿が?」


 戦場にまるで興味を示さなかった彼女がなぜ?

 内心そう思いつつウフクスは天幕の外にでた。


「これはウフクス卿、戦功はいかがじゃ?」


 気だるげな瞳をウフクスに向けベアトリスは一応の礼をする。鮮やかな朱色のキモノを着込み、従者には日傘をささしている。


「痛みいる。ベアトリス卿。なぜこちらに?」


  明らかに戦いに来たという装いではないこてからウフクスは尋ねる。


「遠見の水晶という魔導具で見させていただきました。おこまりの様子でしたので治療魔法の使える魔法使いと薬品をお届けにきたでありんす」


 そういうと細い指でおそらく乗ってきたであろう馬車を指差す。たしかに薬品が我が軍の兵によって降ろされており、先ほどまで見られなかった魔法使いも増えているようだった。

 このような行動、敗戦で撤退している間に準備できたとは思えない。つまり、ベアトリスは初めからこちらが敗北する前提で準備していたということだ。


「数々のご好意感謝いたします。このご恩は……」

「わっちからのではないので気にする必要はないでありんす」

「といいますと?」

「こちらの品々と魔法使いの増員は皇太子殿下より申し付けられたものゆえ」

「皇太子殿下が⁉︎」


 ウフクスは驚愕に目を見開いた。まさか、皇族がこの戦闘に関わるのか。

 そうなると手に入れた物が全て皇族の物となってしまう。


「ああ、心配ぬよう。皇族の皆様方は関わる気はなさそうじゃから」

「では、なぜ皇太子が?」

「そこまでは知らんのう」


 ベアトリスはさして興味がないように欠伸をしている。

  これ以上はなにも知らないのだろう。

 ならば、もう興味がないと離れようとした時、


「そういえば、援軍というか人を一人連れてきたんじゃがな」


 ベアトリスの声が響く

 この女狐が! つまりは監視役か。ウフクスは表情には出さないが内心で毒づく。


「ほう、どなたです」


 ベアトリスがスッと横に動くと重なって見えなかった金の髪人物がウフクスの目に入った。


「ウフクス卿、紹介しる。監察部、魔法使いを狩る魔法使いの」

「ファス・クリスナーです よろしくお願いしますね」


 にこやかに笑ながらファスは握手を差し出してきた。


「監察部が介入すると?」


 ファスの差し出してきた手を籠手部分を外し応じながらウフクスは尋ねる。


「いえ、今回のは個人的な事です。そのためベアトリス卿に頼み、一緒に遠見の水晶で見さしていただいていました」

「ファスとわっちは知り合いゆえにな」

「なるほど。ファス殿は個人的な事という事ですがどういった用件で?」

「あの浮遊城の主の確認です。遠見の水晶で銀髪ということしかわからなかったですから」


 つまりは罰する対象の有無の確認か。

 ウフクスはファスの言葉にそう考えた。


「あの銀髪の少女を執行対象とするということでしょうか?」

「まだ、わかりませんが。少女ですか」


 ファスはまるで悪い予想が当たったかのようにがっかりした表情を浮かべる。そのまま頭に手を当て考えるような仕草をする。


「ウフクス卿、あの城の主と交渉する気はありますか?」

「交渉?」

「ええ、現場のこちらと敵の戦力差は歴然です。ならば傷が浅いうちに交渉をし、ある程度の譲歩を手に入れたほうがいいと考えますが」


 ファスの提案にウフクスは考える。

 確かに案としては悪くない。悪くはないが、


「残念だが、ファス殿。こちらは一方的に被害を被っている。死者は二万はくだらないだろう。貴族の意地として引き下がるわけにはいかない」

「あなた個人の考えで部下も一緒に死ぬと?」

「私の部下だ。その覚悟はあろう」

「それなら心配ないじゃろ」


 ファスとウフクスが睨み合っている中、ベアトリスが割って入る。


「どういうことだ、ベアトリス卿。部下の死がどうでもいいと?」


 ウフクスがベアトリスに殺気を放ち、腰の剣に手を伸ばす。

 しかし、ベアトリスは相変わらず気だるそうな視線を向けまるでウフクスに関心がないようだ。


「おんしの部下や他の貴族どもならファンガルム皇国の王都に転移させられとる。それと同時に汚職が書かれた書物が複製されて空から降ってきたからの。今頃は牢屋に放り込まれておるじゃろ」

「嘘を付くな!」

「いや、嘘じゃないかの? ほれ」


 そういい、ベアトリスは自分の持っていた遠見の水晶をウフクスに放って投げた。

 ベアトリスに警戒しながらもウフクスは受け取り遠見の水晶を覗き込むと、映っているのは手に縄を掛けられ牢屋に放り込まれている貴族の面々だった。その中には悪態をつきながら兵士にどなるバァースの姿も映っていた。


「な? わっち嘘ついてないじゃろ?」

「……確かに、死んではいないようだ」

「ならばどうします? 戦争を続けますか?」

「今回はあの城の主に情けをかけられたようじゃが次は死ぬんじゃないかの?」

「……向こうが交渉の席についてくれあるては限らないのでは?」

「ああ、そのことなら気にしなくても大丈夫ですよ」


 ファスの言葉にウフクスとベアトリスは怪訝な表情を浮かべる。


「なぜだ?」

「ウフクス卿がみた人物が私の知っている人物ならば交渉は確実に受けるでしょう」


 彼女は疲れたような、呆れたような苦笑を浮かべ、


「あいつはめんどくさがりですからね」


 と呟いた。

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