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浮遊図書館の魔王様  作者: るーるー
魔王なります 編
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第二十話 試してみました

 ファンガルム皇国の貴族達が宣戦布告をしてきて二日。わたしは遠見の水晶と呼ばれる古代魔導具アーティファクトを使い浮遊城の前に陣を構える大軍を謁見の間より見ていた。

 その数軽く見積もって三万。

 普通にやったならまず勝てないような数字である。


「すごい数だね」


 最近わかったのだが人間ある一定以上のことが起こると笑いしか出てこなくなるみたいだ。

 恐怖という感情がもういろいろ振り切って笑うしかないというのが、正しいかもしれないな。


「国の総力というか貴族権力に物を言わせた軍ですね」


 横に立ち同様に遠見の水晶を眺めていたアトラが淡々という。いや、三万って立派な数の暴力じゃないかな。

 パッと見た感じ、

 騎士二万

 冒険者八千

 神官五百

 魔法使い五百

 といったところかな。

 本気で戦争しかけてきやがったよ、あの貴族。


「やっぱりあの場で首を刎ねればよかったのでは?」

「やだよ、城が汚れるし」

「えっそこが問題だったんですか?」


 なんか返答がおかしかったのかな?


「しかし、敵として前に立ったのです。斬り捨てましょう」


 うちのレキは好戦的な笑みを浮かべ、腰の剣を触ってるけどここでは抜かないよね? ちょっと距離とろう。


「いかにレキ様が強いと言えども三万に一人は無謀では?」

「私の力が信用ならないと?」


 場の空気が凍る。ビシリッという音が聞こえた気がした。いや、よく見ると床にヒビがいってる。

 子供三人は隅で震えてるし。


「アトラ様は私の実力を過小評価しているようですね」

「レキ様は自分を過剰評価しているようですね」


 二人の間に挟まれてるわたしには凄まじい圧力がかかってるからやめてくれませんかね⁉︎


「シッ!」

「フッ!」


 二人が息を吐いた瞬間、わたしの頭上でけたたましい金属音がなりハラハラと数本の髪が目の前をゆっくりと落ちていった。

 恐る恐る上に視線を向けるとレキは剣を抜きはなった姿勢で立っており、アトラは拳を突き出した姿勢だった。

 どうやら、レキの放った剣撃をアトラが拳で弾いたようだけど。わたしには一瞬で全く見えないよ。


「口だけではないようで」

「そうですね」


 二人は何かに納得したのか剣と拳を下げる。

 殺気立ったこの二人に囲まれると生きた心地がまったくしない。

 わたしの立場はどちらかというとあちらのおびえている三人組のほうが正しいと思うんだけど……


「めんどくさい」

「まあ、戦争なんて武勲の奪い合いと昔から決まってますからね」

「ええ、その通りです。だからレクレ様はただ一言命令して下さればいいのです『殲滅せよ』と」


 笑顔でぶっそうなこというなーと半笑いになりながらレキを見ると眼がね、本気なんだよね。


「でも、三万もの軍勢に攻め込まれたらこの図書館も一溜まりもないんじゃない?」


 現状、こちらの戦力と言えるのはわたし、レキ、アトラ、そしてマーテ、アル、ビリアラの子供三人組、つまりは総勢六人だしね。


「? 普通に一人五千人片付ければいいだけでしょう?」


 レキさん、頭に疑問符を浮かべながらいうのはいいんですけどそれ、普通じゃないです。

 やっぱり彼女はどこかズレてる気がする。


「一人五千人は冗談として、実際問題はいかに数を削るかということでしょう。流石に図書館内に三万の軍勢丸々入り込まれると後後の掃除がめんどそうですし」


 そうなんだよね。というか殲滅する前提の話だから怖いよ。


「なら、アルテミスの槍を使いましょう。あれならば、」

「却下」


 レキの提案をすぐさま却下する。

 あれは戦略魔法クラスの攻撃力だし、なにより地形が変わるし。

 あんなもの軍隊に向かって放ったならば肉片一つ殘らないだろうしね。かといって他にもあるこの城にある古代魔導具アーティファクト武器はどれも過剰殺戮オーバーキルしそうなものばかりだし。


「ねえねえ」


 ビリアラがピョンビョン跳ねながらちらに向かってきた

 さっきまで怖がってたのに立ち直りの早い子だ。


「どうしたの? ビリアラ」

「えーと、レクレ様が魔法を使って吹き飛ばしたらいいんじゃないの?」


 ビリアラの発言にレキとアトラがなるほどと頷く。


「確かにビリアラ様の言うとおりこの図書館備えつけの古代魔導具アーティファクトよりはマシでしょう。環境的に」

「ビリアラ、頭が良くなってお姉ちゃん、嬉しいわ」


 アトラは冷静に分析し、レキは妹の成長に涙し、どこからか取り出したハンカチで涙を拭っていた。


「つまり、わたしに数を削れと?」

「ええ、これがレクレ様の魔王デビューですね」


 瞳がキラキラ輝いてるし、世界征服とか魔王とかまだあきらめてなかったのか。


「そんなに言うならレキが魔王になればよかったんじゃないの? 強いんだし」

「わたしでは格不足なので」


 ……レキの判断基準がわからない。

 まぁ。数を削らないとわたしの快適読書ライフ計画にも支障が出るだろうし、いや、削っても削らなくても支障が出るような気がしてきた。


「つまりは、やった後に考えないといけないということかな」

 ぼそりと言うとわたしは王座からゆらりと立ち上がり本棚のほうに向かいダラダラ歩く。


「ご主人?」

「レクレ様?」


 二人が疑問の声を上げるが無視。

 本棚の前まで来るとわたしは一冊の魔導書を手にとり開く、途端に幾つもの魔法陣が展開され、漆黒の籠手が現れた。わたしそれを掴むと右腕にはめ込み、手を動かし具合を確かめる。うん、いい感じ。


「これは魔道書。武器庫の魔道書アーマリーブック。いくつもの魔導具が収められてる本だよ」

「魔導具が収められた魔導書」


 驚愕の表情を浮かべ二人がわたしの手に収まる武器庫の魔導書アーマリーブックを見つめる。


「じゃ、削ってくるよ。転移テレポート


 図書館に溜まった魔力を喰らいわたしは魔法を発動。

 周辺の景色がねじれるように揺れ、一瞬で荒野のような場所に変わる。

 先程まで充満していたインクの匂いはなく埃っぽい土の匂いが鼻をくすぐる。


「さてと」


 遠視の魔法を使うと少し離れた前方には三万のファンガルム軍が広がっているのが見えた。

 わたしはさっき腕に装備した漆黒の籠手に視線を向ける。籠手の甲の部分には真紅の宝石がはまっておりまるで血の塊みたいだ。

 魔力束の籠手。

 それがこの魔導具の正式名称だ。体に流れる魔力を集め攻防一体となる魔導具だ。

 魔力を集めるだけならわたしにもできるけどこの魔導具にはもう一つ、とても使いやすい理由がある。


「じゃ、やるかな」


 ため息をつきながら魔力束の籠手を頭上に掲げる。


「収束」


 そう唱えると魔法陣が一つ真紅の宝石に浮かび、体から適当に放たれていた魔力が右腕の籠手に集まり始める。

 魔力は徐々に密度を増しておりすでに籠手の周りには高密度の魔力が精製されている。


「形態変化」


 二つ目のワードを唱えると再び真紅の宝石に魔法陣が浮かび上がる。すると右腕に集まっていた高密度の魔力が徐々に形を変えていく。

 それは大きく伸びると三つ叉にわかれ指のように曲がる。まだ、イメージが不安定だな。集中しないと。

 目を閉じ、わたしがイメージするのは腕。魔力によって作られた腕。

 再び眼を開くとイメージ通り巨大な漆黒の腕が生成されている。


「できた」


 わたしは魔力で作った腕を眺めにやりと笑うと視線をファンガルム軍のほうに向ける。

 突然現れた巨大な腕にファンガルム軍は動揺したように見えたがすぐに隊列を直し雄叫びを上げながらこちらに突撃を始めたようだ。このままじゃ、潰されちゃうかもね。だから、


「先に叩き潰そう」


 自分の指をワキワキと動かすと同様に黒腕の指も動いた。

 自分の腕を後ろに軽く構えると黒腕もさがった。


「あ、一応念のためにと」


 わたしはもう一つの魔法を黒腕にかける。人殺しはごめんだからね。

 黒腕に新たな魔方陣が浮かんだのを確認したわたしはニタァと笑うと、


「せぇぇぇの!」


 虫を潰すように腕を振り下ろした。その軌道をなぞるように黒腕もこちらに突撃してくるファンガルム軍の中央に振り降ろされたのだった。

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