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浮遊図書館の魔王様  作者: るーるー
女神編
117/135

第108話 かつてない熱気を感じました

 

「やっぱり今日は変だよ」


 お目当ての新刊を買い漁り両手な大量の本が入った袋を持ちながらわたしは思っていることを口に出した。


「……新刊が少ないことにですか?」

「そうじゃない、いやそれもあるんだけどね」


 今回の新作は不作だよ。とりあえず数が少ない。たった二十冊。足りない。これじゃ二日位しかもたないよ。がんばれ、ライブラリ作家諸君。


「……二十冊で少ないと?」


 ビリアラが両手に持っていた紙袋を軽く見た後に驚いたような顔を浮かべわたしを見る。少ないよ?二十冊。


「いい? ビリアラ。真の読書家たるものはいついかなる時も本を読みことを忘れたらいけないんだよ?」

「……わかりましたからとりあえず本を読みながら歩くのはやめましょう。フラフラしててこちらがこわいです」

「危ないよ?」


 いや、これがわたしのスタイルだから曲げる気はないよ。

 パラパラと手元の本のページを捲りながら歩くわたしをマーテが後ろから押す。


「ん?」

「あだ」


 わたしが急に立ち止まったことによりマーテがぶつかってきた。


「どうしました?」

「あれ」


 突然止まったわたしに怪訝な顔をしこちらを見てきたビリアラにわたしは視界に入った奇妙なものを指差した。

 わたしの指先に興味を持ったのかビリアラがそちらに視線を向ける。


「あれはなんです?」


 ビリアラが疑問の声を上げる。


「わからない」


 わたしとビリアラの視線の先には何故か人が泡を吹いて転がっていた。それも一人や二人じゃない。かなりの数だ。


『おおおおおお!!!』


 突如として怒声のような雄叫びが響わたった。あまりの大きさに顔をしかめながらわたしは耳を抑えた。続き地響きのようなモノが響き地面が軽く揺れる。


「な、なにごと⁉︎」

「うるさーい」

「魔王様あれ!」


 マーテとビリアラが顔をしかめ耳を抑えながら前方を指差す。


「な、なにあれ」


 もう今日だけで何度目になるかわからない言葉が口から零れた。


『おい! おい! おい!』


 私達の目の前に広がっている光景は異様なものだった。

 ピンクの服を着た人達が一矢乱れぬ隊列を組みながら踊っているのだ。とてつもなく異常だ。というかこの地響きは彼らが原因か。人が大勢動くとこんなにも大地は揺れるのか。


『姫! 姫! 姫!』


 次第に熱を帯びながらの姫コール。

 なにこれ、怖い。騎士団でもここまで乱れない隊列なんて組めないよ。なにかの狂信者といわれても誰も疑わないと思うし、現に街の人たちもすごいすごい怖がっているように見えるよ。


「姫きたぁぁぁぁぁぁ!」

「姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あいしておりますぅぅぅぅぅ!」


 口々に熱のこもった愛の言葉? のようなものを叫びながら隊列を組んでいた人々が滝を割ったかのように二手に分かれた。


「今度はなんなんだよ」


 もう何が起こっても驚かないぞ? 今までで十分驚いたからね? 今更何が来たとこで読書で想像力を鍛えられたこのレクレ・フィンブルノが驚くわけが、


「ヤッホーみんな?元気してた? みんなのアイドル、ハピるんだよ~!」

『ハピるん! ハピるん! ハピるん!』

「なんなんだよ! その服装は!!」


 狂信者たちが大きな声を上げハピるん? を称えるかのように名前を連呼していた。

 いかん、思わず突っ込んでしまった。予想斜め上の衣装だったからつい。でもあんな服装を見たらだれでもツッコこむよ!


『今回のこの衣装はななななんと! 金貨五百万枚かかってるんだよ~!』

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』


 ハピるんの言葉に一々驚愕する狂信者たち。というかあの衣装そんなにするの!?

 ハピるんが着ている衣装は金とエメラルドグリーンという見ていてやたらと目がちかちかするような色合いの衣装だ。さらにハピるんの衣装の後ろにはなんの鳥からはわからないがかなりの数の羽根が取り付けてありハピるんが動くたびにファサファサと揺れているのだ。


『ファンのみんなのためにハピるんも頑張るよ〜』

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』


 もうこいつらハピるんが話したらなんでもいいんじゃないだろうか?


「これがアイドル……宗教みたいだね」


 もしこれが教会で公認されているような宗教活動なら教会には近づくまいと心に違う。


『では路上ライブ始めるよ! 』

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』


 雄叫びが上がるがしかし、それは一瞬で静まった。そしてハピるんの横には一人の男が椅子に座っており何かを取り出し構えていた。


「楽器?」


 男が取り出し構えたのは大きな梨を半分に割り、そこに幾つもの糸のようなものを取り付けているものだ。あ、多分木でできてるかな。


「あれは本でしか見たことがないけどリュートかな」

「あれが?」


 わたしの呟きにビリアラが興味深げに男を見つめている。マーテは関心がないのかあくびをしてるし。

 男は音を調整してるのか何度か糸、いや、確か弦だったかな? を弾いてなにやらしている。

 それに合わしたかのようにハピるんが前に出て、魔法陣を空中に展開さしていた。


「見た感じでは増幅魔法だし、あのリュートの音や歌声を増幅させるんだろね」

「それより他の人達の動きが変なんですけど……」


 マーテに言われ周りの狂信者達の動きに注目してみると確かに妙な動きをしていたなんかみんな耳元を弄ってるみたいだし、


「ではいくよ〜」


 リュートの音が鳴り始めそれに合わせハピるんが大きく息を吸い込み吐き出した瞬間、


 空気が振動する。


『♩〜♩〜♩〜♩♩〜』


 音が響く。

 リュートから奏でられる音とハピるんが歌う音とが絶妙にマッチぜず外されなんとも言えない不快感を誘う音が、


『きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!はっはぁぁぁぁぁぁぁ!』

「ぎぃがぁぁぁ!」


 音が悲鳴が、狂喜の声が鳴り響く。それも暴力的な音だ。空気が振動することで体のいたるところに衝撃が走る。それだけでなく街の至る所でビシビシという音が響き始めていた。


「痛い〜!」

「なんですこれ!」


 マーテとビリアラも座り込み耳を抑えていた。獣人種である彼女達はわたしより聴覚が鋭敏だからより辛いのかもしれない。すぐさま防音魔法をかける。それでもまだ聞こえてくるんだけどね。


「これで多少はマシでしょ?」

「ありがとうございます。魔王様」


 ビリアラが礼をしてくる。

 しかし、あの狂信者共はなんで平然としてるをだか…… 倒れているのはライブラリの住人ばかりだし。

 そういえばあいつらなんか耳元触ってたな。

 何の気なしに狂信者共の耳元に視線を向けると耳元に何かがついていた。


「あいつら耳栓してる⁉︎」

「え、ずるい!」


 そうか、耳栓をしてたらこんな暴力的な音の中でも絶叫していられるわけか。でもそれって、


「本末転倒なんじゃ……」


 なんのために曲聴いてるのかわからないし。

 あとさっきからビシビシ言ってる音なに? 周辺を見渡すけど特になにも変わってないんだけど。


「なんか家にヒビが入ってるよ?」

「ヒビ?」


 マーテが指差す建物を見ると確かに小さなヒビが入っていた。しかも徐々に広がっていってるし。ビシビシいう音も大きくなってる。


「まさか!」


 わたしは慌てて他の建物も見る。すると建物の至る所にひび割れがあり広がっていた。


「マーテ、ビリアラ! 逃げるよ!」

「「え?」」


 困惑の声を上げる二人の首元を掴みすぐさま引き寄せる。


次元魔法ムーブ!」


 次元魔法ムーブで上空に逃げ、広域治癒魔法エリアヒールを唱えた瞬間、


 ドォォォォォォォン!


 お腹に響くような重い音を鳴らしながら周囲の建物が倒壊を開始する。

 パリンっとガラスが破壊される音が立て続いて聞こえ、ヒビの入っていた石でできた壁が崩れていく。爆音とともに街の一角が次々と破壊されていき、みるみる残骸ばかりが目立つようになってきていた。


「……歌で街って壊れるんだね」

「いえ、普通は壊れません」

「キュー」


 わたしの独白にビリアラが答え、マーテは気絶することで返事をしてきた。相変わらず次元魔法ムーブが苦手みたいだね。


「しかし、大惨事だ」


 見下ろすと下ではあちこちで悲鳴が上がっている。一応は広域治癒魔法エリアヒールを使ったから」そこまでやばいことにはなってないと思うけど。


「ユールさんが頭を痛めますね」


 ため息をつきながらビリアラがこぼした。確かにユールとベアトリスの仕事は増えそうだ。さて大惨事を引き起こした張本人はと……


「逃げ足速いな!」


 発見した時にはすでに視界から消えつつある集団を見ながら思わず叫んでしまった。


「今日だけですでに変なことに三回あってるよ」


 それも変な女に遭遇するのが三回もだ。

 これが何かの前兆なのかそれとも……不安だ。



若干迷走気味です


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