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浮遊図書館の魔王様  作者: るーるー
魔王なります 編
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第十一話 あわてられました

 とてつもない轟音が響いたことによりファンガルム冒険者ギルドに緊張が走っていた。

 また、同時にファンガルムの魔法学園、校長室では領主、騎士団、魔法学園、冒険者の代表による緊急の会議が開かれていた。


「これは緊急事態ですぞ!」


 無駄にヒゲだけが立派でふくよかな体格した領主が怒鳴り立てる。

 会議をしている皆が思っただろう。


(だから緊急会議なのだろう)


 そう思いながらも周りは誰も口には出さない。一応は貴族様であり領主だからだ。

 ため息をつきながらユリウスは周りを見渡す。怒鳴り散らしてる領主はもともと数に入れていない。所詮はお飾りだ。部下に目線を配ると部下は頷き、眠りの魔法を領主にかけた。


「では、緊急の会議を始めたいと思います」


 領主が静かになったのを確認すると胃がキリキリと痛むのを我慢しながらユリウスは仕方なしに会議の進行役を務めることとする。


 ソファーに座った騎士団の鎧姿の男、冒険者ギルドから派遣されてきた大きな杖を持った女らは無言で頷く。

 気が進まないが言うしかない。


「すでに知ってるかもしれませんが国境近くの山が吹き飛んでいます」

「な⁉︎」


 驚きの声が二人からあがる。


「国境付近であったこと、そしてなにより人がすくない所で行われたため、情報不足は否めない。現在は消し飛ばしたものの姿は影も形もみえないようですが」

「私は魔法にそんなに詳しくはないのですが現在の魔法でそんなことが可能なのですか?」


 ユリウスはおずおずといった様子で手を上げて質問してきた鎧の男(確かゴラックと言った)を見る。


「大人数で行う大規模戦略魔法ならば可能、としかいえませんが一人で行うというのは無理だと思われます」


 大規模戦略魔法は戦争時に考案された魔法である。魔力の少ない魔法使いであっても数を揃えれば発動でき、戦場をひっくり返すだけの力がある。


「おそらくだけど、大規模戦略魔法ではないわよ」


 今まで黙っていた杖を持った女の発言に全員の視線がそちらにいく。女は長い黒髪をうっとおしそうにかきげる。


「それはどうしてでしょう? カーノ殿」


 ユリウスは黒髪の女性カーノに尋ねた。


「轟音が響いてから、冒険者ギルドでも魔法使いを何人か派遣して調査してるわ。結果からいうと大規模戦略魔力が使われたと思われる場所で魔力波長の測定で引っかかったのは一人分だけだったわ」

「なんという……」


 ゴラックは絶句し、ユリウスはため息をついた。

 魔法使いには一人一人違う魔力波長というものがある。これは魔法を発動する時に輝く色が違ったりするなどとあるが詳しくは解明されてはいない。ただ古の魔導具などを使って調べるとよくわかるのだ。魔法学園の校長であるユリウスはそれをよく理解している。

 大規模戦略魔力はあくまで大人数で発動さすのが前提である。つまり、魔力が残留している場所で使えばいくつもの魔力波長が観測されないとおかしいのである。

 それが観測されないということは、


「大規模戦略魔法を一人で使ったということか」

「もしくは新たに作られた魔法という線も考えられるけど」


 どちらであったとしても敵として現れたなら絶望的である。この街の冒険者、騎士団を総動員しても勝てない程の敵。

 会議室に重い沈黙が訪れる。


「ファンガルム魔法学園の生徒達で大規模戦略魔法を相殺するというのは……」

「不可能でないでしょうがおそらく一度だけでしょう。二発目を撃たれた場合は迎撃は無理です」


 あくまで生徒たちは学生だ。学生であるうちは彼らを守るのが大人の務めだとユリウスは自負している。


「例えばですが一人で大規模戦略魔法を行使したと考えてその人物の魔力総量はどれほどとお二人はお考えでしょうか?」


 ゴラックが再びたずねてきた。

 それにユリウス、カーノは表情を暗くしながら考え込んだ。


「現段階の魔力の一番強いものでSランク。そのSランクの魔力を持つ魔法使いでも一人でも大規模戦略魔法は発動が不可能です。そこを踏まえて考えるならばSSランク。神話などで聞かれる魔王級と呼ばれるクラスだと思われますな」


 ユリウスの見解にカーノも同意するように頷く。


 基本的な魔法使いはC~Bランクが一般的である。実際問題、冒険者ギルドに所属する魔法使いはCランクが一番多い。

 Bランクで一流と呼ばれ、Aランク、Sランクは天才と呼ばれるレベルである。

 そして神話などにたびたび現れる魔王。

 今の代では三人の魔王が確認されており、その魔力は計り知れないものがある。(何より観測した者の大半が死人であるからだ)

 魔力の計測不能、そのため魔王級と呼ばれ魔王として恐れられているのである。


「隣国、魔導国家アズガルドの新しい魔導兵器の可能性はないのでしょうか?」


 ゴラックの言い分もまあ一つの可能性でもある。

 魔導国家アズガルドはほかの国に比べて魔法、古代魔道具アーティファクトを専門に研究している国である。そのため、どの国よりも魔法、古代魔道具アーティファクトに対しての理解が深い。

 つまり、ゴラックはアズガルドが新しい魔導兵器を作ったのではないのか? と疑っているのだ。


「……現場では判断できません。しかし、もしアズガルドの新型魔導兵器ということも考慮して首都のほうにも連絡を入れておくことにします。それから騎士団、冒険者ギルドのほうにも依頼を出すことになると思いますので協力をお願いします」

「まあ、当面は警戒態勢にするしかないですしね」

「異議なーし」


 そういうと二人はソファーから立ち上がり、扉から姿を消す。

 ユリウスは体にどっと疲れが溜まるのを自覚する。


「それで、君はどう思うかね? 監察官」


 誰もいないはずの部屋の隅に向かいユリウスは言葉を投げかける。


「なんとも言えませんよ。ユリウス校長」


 なにも、なかった所から徐々に金髪の女性、ファス・クリスナーが現れる。


「監察官なら魔王を否定してくれるかと思ったんだがね」


 疲れた笑みを浮かべながらユリウスはそう呟く。

 ファスは苦笑を浮かべる。


「すべてにおいて判断材料が少ないとあなたがいったばかりではないですか」

「たしかに言ったさ。だが、王都より派遣されてきた監察官に否定されたなら幾分か気分が軽くなっただろうからね」

「私に過度の期待をかけすぎですよ」

「監察官とそういうものだろう?」


 ユリウスの言葉にファスは肩をすくめた。

 監察官。

 この名称は魔法使いにとっては特別な意味を持つ。

 魔法を使い悪事を働く者を取り締まる事を専門〈監察部〉に所属している魔法使いのことを指す。

 別名、魔法使いを殺す魔法使い

 今、ユリウスの前に立つ女性はその監察部のエリートでもあるのだ。


(だからこそ彼女に否定をしてもらいたかったんだが)


 流石に、世の中はそううまくはいかないらしい。


「まぁ、いい。それで、君は今後どうするかね? 彼女は卒業したわけだし王都に戻るのかね?」

「そうですね。この三年間、教師をやっていて面白かったのもありますが、やはり本職に戻ろうと思います」

「元々が彼女が卒業するまでという約束だったからね。我が学園は有能な教師を一人失うわけか。」


 ユリウスは椅子に持たれながらしみじみという。


「そう言っていただけるて嬉しいです。ただ、もう少しの間はこの街にいようと思います。では」


 そう言うとファスは軽く礼をし部屋から退出する。

 部屋に残る眠りこけた馬鹿領主を見ながら今後のことを考えたユリウスは頭をかかえるのだった。

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