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浮遊図書館の魔王様  作者: るーるー
魔王なります 編
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第十話 消し飛ばしました

「えぐ、ぐすぅ」


 泣き止む気配がないレキさんは彼女の妹に任し、わたしは城の中を見学することにした。

 さすがに一人で場内を自由に動くわけにいかないとのことなので先ほど眼をなおしてあげたマーテが一緒に来てくれることになった。

 今はもう包帯を外しており、薄茶色の瞳で周りの物をわたしと一緒に物珍しそうに見ていた。


「あれはなに?」


 わたしは城に入ってからいくつも見た、台座の上に浮いている透明な本を指差し、マーテに尋ねた。

 マーテはうーんと首を傾げながらも、


「えっとね。姉様がいうにはてんいそうちって言ってた」


 恐らく自分で言っても自信がないのだろう。尻尾が無意識のうちに?ね形になってた。

 かわいすぎる。

 わたしは屈み、彼女と同じ視線になると頭をなでなかと頭を撫でた。


「よしよし、マーテは賢いな〜」


 彼女は頭を撫でられるて頬を朱に染めながら恥ずかしそうに笑う。

 そんな感じに歩きながら気付いたことが幾つかある。

 まず、マーテ達の姉妹以外人影がない事、この城にはかなりの魔力が満ち溢れているという事と、空の本棚が異様に目立つという事だ。

 マーテに聞いてもこの城には自分達以外は見たことがないという。ただ、見られてる気配は感じるとのこと。不気味だ。

 次にこの城に満ち溢れている魔力、これはおそらく台座に浮かぶ透明な本のためだろう。転移装置ということだが本で読んだ限り転移装置というのは魔法使いの中でもかなりの魔力喰らいと言われる魔法だ。その魔力を工面するためにあの透明な本には周辺の魔力を集める仕掛け、もしくは魔法がかけられていると睨んでいる。

 そして、空の本棚。これは私の願いが中途半端にかなえられた結果だと推測できる。

 私が魔導書に願ったのは床の抜けない図書館という建物であって本の納めてある図書館ではないということである。


「なかなかにずる賢いな」

「なにが?」

「ん? なんでもないよ」


 魔導書に願ったことはほぼ叶ったことになる。

 ということは、


「魔王になっちゃうんだろな〜」

「レクレ、魔王になるの?」


 前を歩いていたマーテが振り返り、なんかキラキラした目でこっちを見てるんだけど。


「ん〜このままなら魔王になるんだろうね」


 正直な話、わたしは魔王なんてなりたくないんだけどね。

 ただ、こんな馬鹿でかい城もったら確実に冒険者とか正規軍とかが来るだろうしね。

 迎撃してたらそのうち魔王とか呼ばれそうだよ。


「そういえば、この城ってどこにあるの?」


 庭園には季節を無視していろいろな花が咲いてたからいまいちどこにあるかわからなかったんだよね。だから、国外だと推測したんだけど。


「お空の上だよ」


 予想の斜め上だった。そして思考が止まる。

 そうか、この城、浮いてるのか。魔法ってすごいよねー。

 どうやら自分の常識で語るのはやめたほうがいいかもしれない。

 首を振り、思考を変えよう。そう思い、わたしはかなり先に歩いて行ってしまったマーテを追いかけた。




 マーテを追いかけ、違う扉を開けて入ると。中はかなり広く作られており、先ほどと同じで紅い絨毯が敷き詰められていた。そしてところどころに空の本棚、そして天井は美しいステンドグラスがはめ込まれていた。

 広間の丁度真ん中あたりにはレキ達姉妹がすでに並んで待っていた。

 まだ目が赤いみたいだけど触れないおこう。


「マーテ、レクレ様をきちんとご案内できましたか?」

「で、できた」


 ちょっとオドオドしながらマーテは答える。自分も楽しんでたからね。


「マーテはちゃんと案内をしてくれたよ」

「そうですか、そう聞いて安心しました」


 少しほっとしたような顔をしたレキ。まぁ、目が見えるようになったわけだし多少ははしゃぐとは思っていただろうから、無礼がなかったか心配だったんだろうな。

「ではレクレ様、こちらに」


 レキ達が一歩横に動くと奥にはなにやらキラキラと輝く物が目に映った。

 なんだあれ?

 疑問に思いながらもその光るもののほうに歩き出す。その後ろにレキ達姉妹が続く。

 その光る物に近づいていくにつれ、それがなんだか分ってきた。

 椅子だ。しかも王族が座ったりするような豪華な椅子。俗に言う王座と呼ばれるものだ。

 しかもやたらと装飾華美。無駄に黄金と宝石で飾りつけられてるし。

 正直、かなりの悪趣味だ。

 でもなんか背中から期待するような視線が来るし、


「はぁ~」


 結局わたしはため息を付きながらもその王座に腰を下ろし脚を組む。

 まだ髑髏とかなにかの骨を使ってなかっただけマシという風に考えることにした。


「ではレクレ様、なんなりとご命令を」


 そう言いレキ達四姉妹は王座に座ったわたしに片膝を折り頭を下げた。


「と言ってもね」


 わたしは腕を組み考える。

 いきなりあなたは魔王になりました! と言われても困るしね。


「レクレ様のしたいようにしたらいいですよ?」

「まおうはぼうぎゃくぶじんだってみんないってた」


 薄茶色の髪、紅い瞳のビリアラとマーテが首を傾げながら不思議そうにしていた。つまり、わたしに国を落とせと言ってるのか君たちは。


「世界征服しようにもさ、まずこの浮遊図書館、武器ないでしょ? まあ、図書館に武器があるのもおかしいけどさ」


 あっても使わないけどね。こう言えば諦めそうだし。


「武器ですか」


 レキが顔をしかめながら答える。どうやらないみたいだね。これで世界征服なんてしなくてすむかな。


「しいて武器の一つを挙げるならば、アルテミスの槍でしょうか」


 なんだかやばそうな名前が出ました。


「ちなみにどんな武器?」

「この浮遊図書館にある魔導兵器のひとつです。まぁ、牽制用の兵器ですが」

「魔導兵器?」

「ええ、魔力を砲弾として使用する兵器です。 使用者の魔力によって破壊力が変わります」


 使用者の魔力によって威力が変わるって兵器として欠陥品な気がするけど。

 なんか前に読んだ本にもそう書いてたし。

 兵器は誰が使っても一定の力が発揮されなければ兵器たり得ないって書いてたっけ。


「どうやって使うの?」

「こちらを使います」


 レキが台座に浮いていた透明な本を取りわたしに差し出してきた。

 取れるんだ、それ。


「こちらに魔力を込めると砲弾として発射されます」

「なるほど」


 この透明な本からは欠片も魔力を感じない。魔力を集めてるのは台座のほうかな。


「目標はどこにしましょう?」

「人のいないとこにしてね」

「なら北部山脈あたりにしましょう。映すマジックミラー


 レキは魔法を唱え、直径ニメートルほどの鏡を二枚出現させた。

 見たことのない魔法だなあ。

 わたしが興味深そうに現れた鏡を凝視しているとレキの目の前にあった二枚の鏡がスーと動き姉妹とわたしの見える位置に移動する。

 鏡にはうっすらと白い雪が積もっている山、そして浮遊図書館の外縁部に直径が一メートルほどの丸い鏡がいくつも付けられているのがそれぞれ別の鏡に映し出される。


「あの鏡がアルテミスの槍?」

「はい、あの鏡が魔導兵器アルテミスの槍です。」

「はい」


 あんなしょぼい物が魔導兵器か。ちょっとガッカリしたな。


「魔力を込めるだけでいいんだよね?」

「はい、それであとは自動的にアルテミスの槍が発動します」

「よし!」


 わたしは手に持った透明な本に手を置くと恐ろしい勢いで体内の魔力が吸い出されるのを感じた。


「ちょっと⁉︎ すごい勢いで魔力が吸われてるんだけど!」

「ええ、レクレ様が退屈しないように最大出力に調整さしていただきました」

「言ってない! 退屈とか言ってないから! あと最大出力って」


 そんなことをレキに怒鳴っている間にも魔力は座れ続けており、鏡に映ったアルテミスの槍が禍々しい紅い光を灯し始めた。


「ちょっと! あれやばい!すでに魔力の色がやばい」


 わたしはアルテミスの槍が映る鏡を見ながらレキに声をかけるが、


「大丈夫です。狙いはただの山ですからなんの被害もありませんよ」


 と、きょとんとした表情で言ってきた。か、会話にならない。

 そうこうしているうちにアルテミスの槍が映っている鏡が爆発的な光量を放ち、玉座の間にいた全員の視界を奪い、なにも見えなくなった。


 ゴォォォォォォォォォォ⁉︎


 それと同時に鼓膜が破れるんじゃないかというほどの爆音が響き渡る。


「なんて音よ、え…………」


 耳を抑えながらもわたしは徐々に光が収まってきた鏡をみて呆然とした。

 先ほどまで確かに存在していた山が何かにえぐり取られたかのように消滅していた。


「え〜」


 思わずわたしはうめいてしまった。

 これは兵器は兵器でも虐殺兵器じゃないだろうか? あきらかに過剰殺戮オーバーキルなんですけど。

 アルテミスの槍。これ一つで世界の地図を書き換えるくらいの兵器だ。


「どうです? これなら世界征服も簡単だど思うんですが」

「は、はははは」


 学園では先生達はわたしを常識がない問題児と言っていたが、そうか、これが問題児を前にした心境か。


「そしてレクレ様、あなたこそがこの浮遊図書館の主にして、魔王に相応しいと思っています」


 わたしは頭痛がする頭を抱え、どう説明するかを悩むのだった。

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