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教えて!スノウ先生!

《大陸編》


平成31年3月10日(日) 改編完了。

平成31年3月14日(木) 読みやすいように多めに行間を開けました。

 紅茶を飲み終えて、クッキーを摘まんでいるとスノウが部屋にキャスター付きの黒板を持ちこむ。これも神の愛し子の一つらしい。その名称をどうにかできないものなのかと問うが、彼らは神の名付け方はよく分からないと匙を投げた。


 スノウはチョークで絵や文字を記していく。日本語や英語とはまったく違う言語だけど不思議とすらすらと読めた。

 そうしてスノウは器用に四つの土地を描く。四角だ。それぞれの土地の位置を大ざっぱに線を繋げると土地同士が角の役割となってそう見える。差異はあるもののぴったりだ。地球のように長い年月をかけて陸が切れ切れになったのかと思ったけど、偶然四つに分れて、それが特定の位置にあるようなことが起こるのだろうか。


「よし出来た!」


 スノウが全部書き終わったようだ。聞くタイミングを逃してしまい、大人しく話に耳を澄ませる。


「まずは俺達の世界について教えようか。世界に名前はないが、魔法と呼称される力、異形の血を持つ者など様々な種族がいるのが特徴か? あとはまあ、四つの大陸と存在するか分からない神の国くらいか」

「それが私にとって普通じゃないんだけどなあ」

「あー、そうだな……とりあえず説明するか」


 スノウはまず右側上部の大陸を指し示す。木の絵が土地の半分以上を占めており、端のほうに《ラグナロク》と記した家々の絵が追いやられている。


「木が描かれているところがあるだろう。そのほとんどがここ《祈りの森》だ。魔素と呼ばれる魔力の塊……まあ世界に漂うエネルギー源といったところか。ソイツが多く、濃度も高くてな。この森に入ると体内の魔力と魔素が衝突する。そうすると発狂し、最悪の場合は死に至る」

「え、でも私やスノウたちも平気そうだけど。それに魔力と魔素ってどう違うの?」

「……あーそこからか。さっき魔素が世界のエネルギーって話したよな。それに晒され続けているとすぐに死ぬ。だから生物は生きるために魔力という新しい力を体の中で構築したんだ」

「そうなんだ~……あれ? それなら魔力と魔素が違う理由にならないんじゃない? だって生物が魔素に耐えるために魔力を作ったんでしょ。だったらこの森にも耐えきれるんじゃないの」

「アヤナ、ゴミだらけの(くさ)い場所と少し(にお)うが気にならない場所ならどちらがいい」

「それならやっぱりあんまり臭いがしないほうがいいけど……でもレオ、それがどうしたの」

「あーつまり、レオが言いたいことはあれだよ。場所によって息が出来るところと出来ない所がある。魔素もそれと一緒で、普通なら魔力を持つ生物が耐えきれるんだが、この森みたいな所だと魔素が重すぎて体が拒否反応を起こすんだ。それに対応しようとした体が魔力を増大させていくんだが、それよりも早く魔素が体の中に追加されていくから、次第に耐えきれなって体をぶっ壊すんだよ」

「こわっ……――でもなんとなく分かったよ。辛い物を食べて、臭さで鈍っていた鼻を刺激させて、さらに大惨事を起こすんでしょ」

「なんか違うが、まあその通りだな。……んで、俺やスノウはその強い魔素を魔力に変換できるんだよ。だからこそ、この森に平然と居られる。けどアヤナはよく分からん。たぶん、異なる世界から来たからなんらかが作用したんだろ。ほらこのままじゃ(らち)が明かん。次に進むぞ――それとそこ、あんまり食い過ぎるなよ」

「別にいいだろ、栄養分だ」


 いつの間にかレオがクッキーをもくもくと食べ進めていた。すでに皿には2,3枚しか乗っていないようだ。驚いてレオとクッキーを見比べると、私が食べたいと思ったのだろうか。あーんと1枚寄こしてきた。それを反射的に含むと、しっとりとした優しい甘みが口に広がって笑みが零れた。


「アヤナー、《ラグナロク》についてだ」


 スノウに告げられて黒板を見つめる。ラグナロクといったら、神々の黄昏とも呼ばれる週末の日のことじゃないか。

 奇しくもそれを起こした関係者たるフェンリルが横にいるけど。私の世界のことだから気にしなくもいいか、うん。


「ラグナロクは街の名前だ。魔物、魔族、エルフ、妖精、獣人といった種族が定在している。人間もやって来るが、そもそも長時間も魔素に耐えられないからそこに住むことさえ叶わない。あとは――どうせラグナロクにも行くから、着いたときにでも説明するか」


 別の大陸について説明しようとするスノウに、口を挟む。彼は首を傾げつつも膝を曲げて私の目線に合わせてくれる。


「どうした? 分からないところでも合ったか」

「えーっと気になることがあってね。どうして《祈りの森》と《ラグナロク》って名前なの?」

「さあな。神々のお言葉ってやつだ。俺も詳しいことは知らんが。レオ、お前は知ってるか」

「知らん。だがどちらかの名前を世界神様が名付けたと聞いたことがある」

「へえ、そうなのか。俺は初耳だな。誰が言ったんだ?」

「ネコだ」

「あー、アイツか。なら知っててもおかしくないな」


 とんとん拍子で会話する二人に置いてけぼりにされて、私は残り少ないクッキーを口に含みながら黒板に目を向けた。四つの大陸が描かれている。だけどスノウが口にした《神の国》がどこにもない。もしかしたら別の名称なのかもしれない。


 

 スノウが黒板に描かれた大陸を示す。そこは祈りの森から斜め下――四角い角の左側下部に位置するところだ。


「今度はレオが統一する大陸・シオルツェリだ。シオルツェリはさっきも言ったとおり、フェンリルが代々魔王を務める。その下に魔族や魔物がついていて、それらは全て力による上下関係で成り立っている。そこには魔族も魔物も関係ない」


 おそるおそる手を上げると、スノウが教師みたく私を名指しした。


「あのー、質問いい? 魔族と魔物の違いってなに? 私のイメージだと魔族が常に人型で知性があって、魔物は知性がなくて獣型なんだけど」

「んー当たってるっちゃ当たってるか」


 レオが顎を擦り、答えに迷っている。私は無理に言わなくてもいい、と慌てて口に出そうとした。

「また脱線するが、いいか」とスノウが尋ねてきた。私が反射的に首を縦に振ると、彼は話を続けた。


「魔族はさっきアヤナが言った通り、本性が人型や二足歩行の種族を指す。獣人やエルフ・妖精なんかもその部類に入るんだが、別のモノとして扱ってくれ。それで本題だが――そもそも魔物っていうのは2種類に分けられている。1つは神が産み出したとされる存在、つまりは俺達のような特別な血筋のことな。……そしてもう1つは自然発生や人間の負の感情により、発生した魔物だ。アヤナ、分かるか?」

「うーん、なんとなく想像つくけど……ねえスノウ。それってどう分けるの? 意思疎通とかはスノウたちにみたいに出来るの?」

「そうだな――俺達みたいなのの特性はすごい強い力を持っているってことだ。そうしてもう一つ、記憶を所持していること」

「記憶を所持しているって……さっき言ってた世界の記憶?」

「そうだ。どういう生まれ方をしてようと、生まれてすぐに自我が目覚め、見聞きしたことのない記憶を持つ。良いのも悪いのも含めてな。そうして世界の調停を行う」

「分かった! 調停って、善と悪を分けるとか、人が増えすぎないように調整するんでしょ。魔王みたいに」

「いいや、違うな。でもなんで魔王なんだ?」

「な、なんでもないよ。ただちょっとテンプレがね……うん」

「まあいいか。調停ってのは世界を管理する世界神様より賜った使命みたいなもんでな。それぞれ記憶を持つ者をトップに置き、世界の進行や減耗を記録するんだよ。そうして世界が終焉を迎えるときまで繰り返す」

「でもそうしたら疲れない? ずっと記憶を覚えているなんて」

「はは、確かにな。でも全部覚えてるっていっても別のヤツの記憶だから俺としては面白いんだ。他のヤツは知らないが劇を見てる感覚なんだよ」

「へぇー」


 私が頭のなかで少しずつ整理していると、スノウが黒板の空いたスペースに絵を加えはじめた。羊みたいな絵と棒人間がある。スノウはそれらを指さした。


「自然発生した魔物は、動物と呼ばれる(しゅ)が元だと伝えられている。世界神様がこの世界の管理が変わったときに動物が消え、魔物が現われはじめたそうだ。それが自然発生する魔物の元」

「管理が変わるってどういうこと? 最初からその世界神様が管理してたんじゃないの?」

「いいや、最初に世界を作ったとされるのは創造神様だ。だけど数百年もしないうちに世界神様が管理を交代した。俺はそう“記憶”している」

「この世界ってよく分からない……」

「アヤナが不可思議な世界にいたのは“神の愛し子”から想像つくが、俺はアヤナがこの世界を好きになってくれたら嬉しいな」

「うーん、まだ分からないけど、スノウとレオは信用してるよ」

「そっか。まあ今はそれでもいいか」


 ぐしゃりと髪を掻き乱すように撫でられ、思わずスノウの手を掴もうとしたが、そうする前に彼が離れたのでそのまま私の手は空振りした。


「次は人間の感情から生みだされる魔物だよな。正確にはソイツは魔物じゃないんだが、俺達はカゲと呼んでいる」

「カゲ……?」

「そっ、感情は種族問わず存在するが、カゲは人間の負の感情だけから生みださるんだ。原因は不明だが、諸説によると属性神が堕ちたときに力の弱かった人間が影響されたとされている。カゲは実体や意思が存在しないが、嫉妬や憤怒みたいな負の感情を摂取しているんだ。だけどソイツの厄介なのは人間から生みだされたモノにも関わらず、生物に取り憑いて死に至るほど感情や魔力や生命力なんかを奪うことだ。俺達が守ってやるが、アヤナも気を付けろよ」

「分かった……」


 私はスノウの気迫に押されて頷く。そんな恐ろしいモノが存在しているなんてと思ったが、現代でも危険なモノはいくらでもあった。便利な半面、危ないモノだってそこかしこにある。


(ちょっと気になるなあ。属性神が堕ちるなんてよっぽどだし。ケータイ小説みたいに属性を司る神様なのかな? あとカゲか……まあよっぽどのことがない限り遭わないでしょ)


 少しフラグっぽいな、と考えつつ、ちらちらとレオとスノウを見た。

 端正な顔立ちを見つめ、出会いは“あれ”だったけど、保護者が出来たことは幸いしたなと思い返した。

そうしているとぼうっとしていると思われたのか、スノウが声をかけてきた。


「アヤナ、話を聞いていたか?」

「ごめんなさい、聞いてなかった」

「そうか。素直なのはいいが、きちんと聞くこと。これはアヤナがこの世界で生きるために不可欠な常識なんだからな」

「はい!」


 スノウは甘やかすことが多いけど、きちんと叱るお母さんみたいな人だなと解釈した。

 今度からお母さんって呼ぼう、心のなかでだけど。


 スノウの指は祈りの森がある大陸から上に上がった。《イリアナ》と書かれた大陸には耳が尖った棒人形と(はね)の生えた棒人形がある。なぜか翅にリアルな模様まで描かれていて芸が細かい。そこまで綺麗に描けるならどうして棒人形にしたんだろうと声に出さないで唱えた。


「《イリアナ》はエルフや妖精たちが暮らしている。この祈りの森と同じように森が全体の半分を締めている。あと特徴的なのは用途が不明な古い遺跡が点在していることだ。その遺跡で神の愛し子が発見されていて、世界神様や創造神様を奉った遺跡が観光場所となっている」

「エルフかあ……きっと綺麗な人ばっかりなんだろうね。でも閉鎖的なイメージがあるからそう簡単に会えないよねえ」

「エルフは騒がしいし、笑顔が胡散臭いからあそこは好きじゃない。スノウ、お茶」

「おいおい、それくらい自分でやれよな。ほら、コップ貸せ」


 レオのコップを受け取りながら部屋を出るスノウを見送る。すると隣に座っていたレオが体を捻り、私を膝に抱えた。


「わっ」


 あまりの手際の良さに抵抗する暇もなく、大人しく捕まる。すぐに戻ってきたスノウはその光景に呆れて口を開けている。

 私の肩に頭をぐりぐりと擦りつけると、満足したように息を吐いた。その不思議な行動に為すがままにされていたら、スノウがレオの前にコップを置いた。


「アヤナ、すまんがそのままにしておいてくれ。ただ甘えてるだけだから」

「えっちょっと待ってよ」


 マドレーヌを目の前に差し出されて反射的に食した。解けるような柔らかい感触に舌鼓を打ちつつ、定位置である黒板の前に立ったスノウがにこにことこちらに微笑んでいる。

 誤魔化されたんだ。悔しくてギッと睨むが効果が今ひとつのようで、スノウはほのぼのしい雰囲気を漂わせてさっさと次に進んだ。


「んで最後が《アリシア》、人間のほとんどがこの大陸で暮れていて、幾つもの国が存在する。特に王国『フィリオ』は人間のなかで最大とされる規模を誇っている大国で、他の大陸の者達もやってくるほど知名度が高い。国で世界神様を奉っていて、それに関する資料も膨大だ」

「へえ。ねえ、それって神の愛し子についても分かるかな」

「行きたいのか、アリシアに」


 スノウが苦々しく口元を歪ませている。何気なく口にしたものがスノウの地雷を踏んづけたらしい。


「ううん、ちょっと気になっただけ」

「そうか。――これで大陸について終わりだ。そうそう、アヤナの生活に必要なものとか買わないといけないな。今日は遅いし、明日にでもラグナロクに行くか」

「うん、分かった。でもラグナロクってどんなとこ? さっきも聞いたけど、色んな種族がいるってことしか分からなかったよ。賑やかなところかな」

「まあ騒がしいな。時々他の大陸からも来るから人も多いし。でもま、どうってことないだろ」

「他の大陸ってアリシアからも」


 すんっとスノウの表情が変わった。むりやり感情を押し殺したようなその顔を見て、やはりアリシアに何かあるな、と推測した。

個人的にはアリシアに行ってみたいけど、スノウの憎々しい顔は目の当たりにして、自分の希望を出すことが出来なかった。


「アヤナ、腹減ってないか? 少し遅いが、飯でも用意するが」

「うーん、お菓子食べてお腹いっぱいになっちゃったからいいや」

「そっか。ここから出て右側の角部屋を使えよ。明日は朝から早いからな」

「分かった。何から何までありがとう」


 私はスノウに礼を言って、私に与えられた部屋へと向かおうとした。けれど、がっちりと固められた腕に身動きが取れない。自然すぎてすっかり忘れていた。


「アヤナは俺と一緒に寝る。ベッドも用意しなくてもいい」

「はあっ。レオ、ちょっと待て!」


 スノウが怒鳴ったけど、その威圧も利かずにレオが私を自室に連れ込んだ。ベッド、机、椅子と最低限しかない部屋だが、ほこりっぽさはほとんどない。履いていた靴を放られ、照明を消したレオは私を先に寝かし、本人も上着と靴を脱いでベッドに上がり込んだ。


「アヤナ、おやすみ」


 そうしてぎゅうっと私を抱き込んで、そのまま寝息を立て始める。力が強くて体を起こすこともできない。すぐに諦めのパラメーターを全開にした。

 疲れていた体に温かな体温が影響されて、ふっと力が抜けてきた。頭がぼうっとして眠気も襲ってくる。


「おやすみなさい……」


 私はレオの腕を枕にして意識を手放した。


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