プロローグ
小説を書かせていだたきました。初心者ですがよろしくお願いしますm(__)m
改編版投稿完了
H31.2.4(月)
H31.3.2(土)
青空に雲が流れて、太陽が眩しいくらいに光を放っている。
赤色が鮮やかな自販機で私はコーヒーを買い、その心地よく冷えた缶に瞼を慌てて、ブルーライトで疲れた目を冷やした。
ふいに子どもの笑い声を耳にする。このままじゃ変な目で見られるかもしれない。慌てて顔から缶を離した。
「ちょっと、あたしの帽子返してよ!」
「へへん、やあだよ」
ちょうど私の後ろを小学生くらいの男の子と女の子が通りすぎていった。他にもキャッチボールをする親子や散歩中の老夫婦もいる。
今日は日曜日。本来は私も休みだったが、他の同僚が体調を崩して私に仕事が回ってきた。
そうして今は昼休みを利用して、会社近くの小さな公園にいる。ずっと机に向かっているよりも気分が変わるし、のんびりとした感じがして心が休まりそうだ。
だけど最近近くにテーマパークができたことで公園前の車通りが激しくなっている。町の活性化に良い影響かもしれないけれど、ここを利用する老人や子どもが特に危険だ。しかも車がすれ違うには車道が少し狭いので、万が一事故でも起こったら公園の方にも被害が及ぶ。それを重く見た公園の管理人が新たに出入口を作り、私たちはそこから行き来している。
私はコーヒーのプルトップを開けて缶を傾けて飲み干した。少しぬるくなってるのは愛嬌と考えよう。
中身が空になった缶をビン・缶ボックスに放り込んだら、腕を伸ばして凝り固まった体を解した。
「んーっ。そろそろ会社に戻らないとなー。先方への連絡まだしてなかったからそれやって。あ、あと浅井さんにもらった饅頭。あれ食べないと」
声に出しながら頭のなかで予定を組み立てていく。あれもこれもとどんどん浮かび、げんなりと気分が下がった。
「あーあ、こういうときこそ恋人がいてくれればなー……いい、やっぱりいい。なんか自分が恋人に甘える姿が想像できない。しばらくは仕事に集中かなあ。でも癒やしはほしい。そう! 小動物に癒されたい!」
叫んだ途端、周りの視線が一気にこっちに集まった。私は愛想笑いを作り、そそくさと自販機から離れる。
するとちょうど入り口側に設置されたベンチの一脚に、子猫が丸まっているのを見つけて自然と足が止まった。
--小動物がいる!
毛づやがよく丸みを帯びた体を伏せて、しなやかな手足がちらりと見てる。長い尻尾は体と同様に白と茶色と黒が交じっている。アーモンド型の目はじっとどこかを眺めていた。ぴくぴくと動く三角の耳は何かを感じているのだろうか。
「小動物! 三毛猫だ、猫だ、子猫だ。小動物だ!」
同じようなことを言っている気がするけど、そんなことはどうでもいい。
私は子猫を撫でようと1歩、また1歩と足音を殺して近付いていく。ベンチまであと数歩程度まで縮めたところで、子猫が警戒するように辺りを見回した。そして私に目を向けると、毛を逆立てて威嚇してくる。
思わず足を止めた私を気にしながら子猫はベンチを飛び出して、生け垣の向こうへと消えていってしまった。
「そ、そんなあっ」
私はベンチによろよろと寄り、座席に顔を埋める。
「ね、猫が……もふもふが、小動物があ!」
私が子猫のぬくもりを感じようとベンチにすがりついているときに、「先輩?」と聞き覚えのある声に呼ばれた。
「ちょっとなにしているんですか。大の大人がベンチに擦り寄ってるなんて見るに堪えないですよ」
「後輩がいじめる」
私が子どもみたいに口を尖らせて上を仰げば、意地悪な後輩と目が合った。
彼女は私と違ってパンツタイプのスーツを身に纏っており、ほっそりとしたくびれを強調するように手をやってわざとらしく息を吐いた。
「間中先輩は、今年で28歳でしょ? アラサーの女が子どものように喚くなんてみっともないです。どうせまた小動物に近づけないからって泣いてるんでしょ。いい加減諦めたらどうですか」
スカートについた砂を払って立ち上がり、後輩を少しだけ見上げる。
「嫌。もしかしたら私のことを怯えない子に会えるかもしれないんだよ。可能性があるのに諦められないよ」
「ふーん、そうですか。あ、先輩の机の上にいつもの置いといたんで見てください」
「ありがとう、日下部さん」
「別にお礼を言われるようなことじゃありません。今回は狼なんで。子どもの狼可愛いんで」
この後輩は私が小動物が大好きなのに動物に避けられる体質だと知って、仕事で疲れていたときに動物の写真集を差し入れてくれた。それ以降もこうして写真やらグッズやらをくれる。口は悪いけど、思いやりのできる優しい子だ。
「いやあ、日下部さんがこんなに良い子だと先輩として鼻が高いなー」
わざと大げさに言えば、照れて頬を赤らめた後輩が踵を返して背中をこちらに向けた。
「早く会社に戻らないとお局様と課長に文句を言われますよ」
彼女はそのままさっさと進んでいき、どんどん離れていく。私はそんなツンデレな後輩にニヤニヤと口元が緩み、それが彼女に分からないようにできるだけのんびりと歩いた。
「ちょっと先輩、まだですかー。置いていきますよー!」
彼女が私に向かって叫び、近くのベンチでまどろんでいた男性が驚いて私と後輩を見比べている。それが面白くて笑ってしまった。
ずっとこちらに声をかけつづけている後輩に返事をしようと口を開こうとしたとき、「先輩!」と彼女が焦ったように声を荒げた。
彼女の様子に不思議に思っていると、背後で甲高いクラクションが聞こえて、悲鳴まで轟いた。反射的に後ろを振り向くと、ちょうど目の前にワンボックスカーが迫っていた。
足がすくむ。このままじゃ避けられない、せめて後輩の様子を確かめたくてそちらを見る。彼女は男性に止められつつも必死に叫んでいた。
安心する暇もなく、私はそのまま押しやられ、見ているものがぐるぐると回り出した。視界も白んで見えにくいし、体中がズキズキ痛む。
なぜだろう、なにも聞こえなくて顔も動かない。
さっきまで青かった空も雲に覆われて見えない。
だけどどうしてか虹色の光が見える。変だな、雨は降ってなかったはず。
でも……。
--綺麗だなあ。