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なんだかややこしいことになっちゃった件

輝来皇子がクロスクロウ王国に来て三日目。

今日は国王陛下並びに王族の方々とのとの昼食会となった。本来であれば末端貴族私達フォルゲン一家などは陛下達と同じ食卓につくなど夢のまた夢のような話なのだが、ネホン国と最も繋がりの深い者ということと、私が王子の婚約者ということもあり、この物凄く息の詰まる昼食会に招待されていた。


…………それにしても、この席順は何とかしてしい。


この国には特に上座と下座の決まりがない。強いて言えば国王陛下と王妃様がお誕生日席に座りゲストをもてなす事くらいだろう。なので、王妃様の左隣には側妃のファティマさまが座りその隣には第二王子のベルナルド殿下、続いて王妃様の第2子である王女カトレア様座っている。国王陛下の右隣には輝来皇子、その隣に私、その隣にアレクサンドル王子が座りネホンからやって来た補佐官や私の家族一同がバラバラに座っている。

そう、今私の両隣には漆黒の髪と瞳の雄々しい顔立ちが魅力的な美男子と輝く金髪に吸い込まれそうな蒼い瞳の麗しい美男子がいる。はたから見れば天国のような場所に座っているように見えるだろうが高々一介の準男爵令嬢に、このプリンスサンドは勘弁して。


「ジャンヌ、クロスクロス語は大分勉強してきたがなかなか難しいものだな。」


輝来殿下がクロスクロウ語で苦笑しながら話しかけてくる。いやいや!難しいとか言っておきながら多少イントネーションが違うがほぼ完璧に話せてますけど?!

この国に来て三日でドンだけ会話スキル上達してるんですか!

輝来殿下は俗に言う天才というやつだ。小さい頃から物凄く理解力と適応力が高く、語学、算術、武術、神術において右に出るものが居なかった。現在私よりひとつ上の25歳で油の乗りまくった正に神から愛された存在。次期天皇にこれ程相応しい人はいないと民に言わしめる方だ。


まあ、あまりに天才過ぎて突拍子もない事をしでかしたり、理解に苦しむ行動を取ったりするところが珠に傷なのだが、彼の従兄弟でもあり筆頭補佐官の片岡(かたおか)新之助(しんのすけ)様が上手く手綱をとっている。将来、殿下が天皇になれば男性と顔を合わせられなくなる殿下の代わりに片岡様が表舞台に立ち、天皇の手となり足となる。


「それだけ話せれば、なんの問題も無さそうですよ?というか、よく三日でここまで会話スキルを上げましたね。」


「ああ。出来ることなら通訳は入れずに此方の方々と会話したかったからね。頑張ったよ。」


いやいや。いくら頑張ったからといってここまで出来るのってスゴすぎないか?………さすが天才だわ。


そうして私と輝来殿下が話していると左隣からキラッキラ笑顔を張り付けた王子、アレクサンドル殿下こと私の婚約者アルが会話に割り込んできた。


「それにしても、輝来殿下の語学力には目を見張るものが有りますね。僕もジャンヌにネホン語を習い始めたのですが、発音が同じでも意味が全く違っていてとても難しい。」


「ははっ。そうですね『箸』と『橋』と『端』。『はし』という発音だけでも多くの意味がある。単語だけ覚えるのは難しいでしょうね。上達するコツはやはり沢山会話をすることでしょう。まあ、アレクサンドル殿下にはジャンヌが居るから、朝から晩までじっくり話せばきっと直ぐ上達しますよ 」


うぐっ、皇子が変なこと言うから白身魚のマリネが喉に詰まった。

くそっこの皇子め…。"朝から晩までじっくり"のところだけやけに艶かしく言いやがって。

一昨日はうちのアルに"夜の48手大特集"なんて18禁雑誌をわざわざ訳してまでプレゼントしたり、なんなんだ!しかも私がそれで被害を被って居るのをさも面白そうに眺めている。今も、私がアワアワと水を飲み、目を白黒させているのを心配そうに見ているようだが口の端が笑ってるんだよっ!もういい。こいつは今日から歩く18禁皇子と呼んでやる!………心の中で。


「ところで輝来皇子、5日後の夜に我が国を挙げて皇子の歓迎式典を催したいのだが、是非参列指定いただけないだろうか?」


国王陛下と王妃様がにこやかに問いかける。皇子が来国した夜に一度内輪の歓迎会はしたのだが、今回は互いの国の極僅かな土地ではあるがそれをほぼ交換するのようなもの。両国にとっては一大事である。しかも、諸外国とは一切交流しないネホンの次期天皇になる第一皇子がわざわざやって来たとなれば国を挙げて歓迎するのが礼儀だろう。現に城下では歓迎の準備が着々と進んでいる。


「ええ、我々へ歓迎式典となればの是非参列させて頂きます。」


「それはよかった。我が国でもここまで大規模な歓迎式典を挙げる機会はなかなか無いので少々時間をかけてしまって申し訳ない。しかし、それにみあう式典にしますので是非楽しみにしていてください。」


国王陛下と輝来殿下が和やかに話して居ると、急に殿下が私と母を交互に見た。


「………つっ………!」


皇子と目の合った母が額を押さえる。


「っ、シノっ!」


「母さん!」


父と弟が慌てて母に駆け寄る。しばらく額を押さえていた母が顔を上げると母の瞳の色が黄金色になっていた。

ネホンの巫女は皇族と目が合うと神託が降りる。神が皇族になにかを伝えたい時、巫女を通してその意思を伝える。その際神託を受けた巫女は瞳の色が黄金色に変わる。そしてその神託を聞く皇族の瞳は銀色に変わるのだ。何故なら多数の皇族と巫女が同じ場所にいた際に混乱が起きない為に瞳の色で認識するらしい。

そして、例によって瞳を銀色に変えた輝来殿下が母を見つめる。


「ふむ。やはり神託か…だが、シノが痛みを覚えるほどの神託とは…………。クロスクロウ国王殿、申し訳ないが私に神託が降りたようだ。食事の席にて無礼は百も承知だが、一度席を立たせてもらってもよいだろうか?」


銀色に変わった皇子の瞳と、苦しそうな表情を浮かべる黄金色に変わった母の瞳を交互に見た国王陛下はすぐさま隣室に母の休める場所を準備させ昼食会を解散させた。私は父と弟が母を隣室へと連れていく後を慌てて追う。王子は輝来殿下を案内しながら隣室に入ってきた。


大きなソファにもたれ掛かっている母に輝来殿下が歩み寄り、床に膝をつくとゆっくりと母に問い掛けた。


『シノ、大丈夫か?』


本来であれば皇族には頭を垂れてから相手の瞳を見て神託の内容を伝えるのが礼儀なのだが、希に巫女の体調をきたす程の神託が降りることがある。その時は最重要事項の神託を直ぐに伝えるため、全ての礼を省き互いの目線のみを合わせて話すことが許されている。その為、輝来殿下は動けぬ母の瞳と視線を合わせるため、床に座り込む。


『はい。ご心配お掛けして申し訳ありません。……此度の神託は遠く離れたネホンの地から送られた神託の為、神の力の配分が上手くいかなかったために痛みを覚えたとのことです。…………ですが、この神託事態、ネホンに居ても多少の痛みは訪れるのではないかと思われる神託でございます。』


苦しげに顔を歪める母は力の入らない体を無理やり起こし皇子の瞳を更に見つめる。


『此度の神託をお伝えいたします。"5日後の歓迎式典の折り、太陽が真上に昇った直後に 双血点画神生(そうけつてんがしんしょう)の儀を行え"とのことでごさいます。』


母が神託を口に出したとたん皇子の回りにどよめきが走ったが、皇子が視線でそれを静めると再び母に瞳を向けた。


『双血点画神生の儀か……して、舞手は?』


『………舞手は殿下とジャンヌにございます。』


『なっ……!それは誠かシノっ!』


母の答えに片岡様が声を荒げる。母は視線を片岡様に映す。その瞳の色はは黄金のままヒタと片岡様を見据える。


『はい、この瞳に誓って相違ござい…ませ………ん』


「シノっ!」


黄金の瞳のまま片岡に間違いないと伝えた母は糸が切れたように気を失った。父が慌てて母を抱き止め、私とシンも側に駆け寄る。


「アレクサンドル殿、申し訳ないシノを休ませる為の部屋を貸して貰えるだろうか?」


「先程、部屋の用意が整ったと知らせがあった。部屋までは女官が案内する」


「御気遣い感謝する。では、ルイス殿とシンはシノを部屋に連れていってくれ。すまないがジャンヌは私と共に国王陛下に神託の内容を説明するので残ってくれ。」


王子と輝来殿下がテキパキと指示しながら母達は部屋へと案内され、残った私達は国王陛下のいる隣の部屋へ向かった。


********


「おお、アレクサンドル戻ったか。」


先程まであった料理は全て片付けられ、席には国王陛下と王妃様と側妃様だけが残っていた。三人は出されたお茶に手もつけず私達を待っていてくれたようだ。


「はい。先程、シノ様を客室へ案内致しました。医師も向かわせておりますのでご安心ください。」


「うむ、解った。………で、何があったのか説明頂けるだろうか、輝来殿下。」


国王陛下が全員に席を勧め、各々にお茶が行き渡ると先程の神託について説明を求めた。


「はい。先程の事ですが………陛下も簡単にはご存知かと思いますが、我が国には鳳凰(ほうおう)という二対の神がおります。神は我が国を守護し、より良い方向へ導くため巫女に神託を降ろします。そして、神が神託を降ろす際に神託を告げる皇族と巫女に力を発動させるのです。」


「………力とはあの瞳の事か?」


「ええ、神託の降りたシノの瞳が黄金色に、神託を受ける私の瞳が銀色に輝きます。互いの瞳が輝くことで神託に嘘偽りが無いことが実証されるのです。もし巫女が、神託で皇族に嘘をつけば瞳の輝きは失われ目が潰れ、巫女の資格が無くなります。」


「なんと………。」


そうなのだ。私が巫女の能力を初めて発動させたときも天皇陛下の瞳を見て発動した。私はネホン人とクロウクロウ国人の混血だから誰もが巫女の資格など無いものだと思っていたのだが、陛下と私の瞳が光ったことで巫女の資格が有ることが解った。母は私に巫女の資格があると解ってから、神託を受けたときには絶対に嘘をついてはならない、嘘をつけば目が潰れるからと、きつく、それはもう物凄くきつく躾た。その後思い出すだけでも背筋が凍るくらい厳しい巫女の修行を受けさせられ、ネホン国の人々に受け入れられる巫女の一人となった。


輝来殿下は出されたお茶て口を潤してから神妙な面持ちで話を続ける。


「そして陛下、シノが受けた神託なのですが、5日後の歓迎式典で太陽が真上に昇ったときにソウケツテンガシンショウの儀を行えと神託が降りました。」


「ソウケツテンガシンショウ?それはどういった儀式なんだ?」


クロスクロウ語で上手く説明が出来ず、陛下や王妃様方、王子も疑問符を浮かべる。


「まあ、簡単に言えば神降ろしの儀式ですね。」


「神降ろし?」


王子が問えば輝来殿下は紙を用意してもらいそこに『双血点画神生』と書く。


「ネホン語であれば読んで字のごとくなのですが…二つの血の滴りが画となり神が生まれるのです。」


「もしや、その二つの血とは…。」


王子が険しい顔で問う。


「そうです。一つは私、ネホン国皇族の男の血。そして、もう一つは巫女の血。今回はジャンヌの血を合わせて神を降ろします。」


「先程、その事で揉めていましたよね?僕は大体のニュアンスしか解りませんでしたが何か問題があるのですか?」


輝来殿下は私に視線を向けてから、王子を見る。王子が心配そうに私を見てくるのだが、私は王子と目を合わせられなかった。


「この儀式は、男の血と女の血を混ぜて神を生み出す儀式なのです。万物の生命が雌雄一体となり子を生すのと同じように……。要は、私とジャンヌが血と共に交ざり合うのです。」


「なっ…………!」


王子がテーブルを叩いて立ち上がる。


「……まあ、落ち着いて下さいアレクサンドル殿下。交ざり合うと言っても直接的体を繋げる訳では有りません。ただ、それに近しい事をするだけです。」


「巫山戯けないで頂きたい!そんなもの言語道断だ。僕のジャンヌにその様なこと絶対に許しません。…というか、近しい事とは一体何なのです?!」


「そうですね………これは私からではなくジャンヌから彼に説明した方が良いのではないかな?」


ええ?!なんで急に私に振るの?!……ちょっと殿下!真剣な顔してるけど口の端がにやけてますよ!アンタ絶対面白がってるでしょ!


「アレクサンドル殿下は君の婚約者なんだろ?私の口から説明するより、君の口から、私とどの様なことをして、どの様なことが起こり、どの様に神が降臨なされるのか説明してごらん。」


くっそっ!事細かにどうなるかまで説明しろってか!って言うか仮にも乙女にそれを言わせる気か?

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