生徒会長の欲しいモノ
あたしは黒木生徒会長が大好きだ。
「ねぇねぇ会長っ」
「・・・」
「かーいーちょーおっ」
「・・・なんですか? 毎日毎日僕の後をくっついて歩き、トイレの前まで来ようとする唯さん」
そう、実は会長に追いついて歩くために必死で、気づかず男子トイレに入ろうとしたこともある。
「失礼ですが、僕は忙しいんで」
と、私に目を向けたと思ったらこれだもん。
「ちょちょちょ、会長?」
いつもつれない態度で、私を遠まわしにからかってばっかり。
からかわれてるっていうのは私の思い込みかもしれないな。
「ちょ、会長!? まだ何も話してないよ!」
「大きい声出さないでください」
歩き出した会長がピタっと止まったので、私もびくっとして立ち止まる。
そして会長の左側に一歩進み出て言った。
「会長、もう学校終わったんだよ? このあとどうするの?」
「今度の生徒総会の原稿を作るんです」
「じゃ、そのあと私と帰ろう?」
「そのあとは勉強しに残るんです」
「じゃあたしも残ろっかな♪」
さて、今日こそ首を縦に振ってくれるかな・・・?
「・・・唯さん。何か用があるとき以外、生徒会室には来ないでもらえますか」
きゃー! 早い! 展開が早いわ!!
「これだって立派な用事だよう」
「失敬」
と言って、黙々と生徒会室に向けて歩き出した。
「や、冗談です、会長〜!」
ピシャッと、目の前のドアは冷たく閉じられてしまった。
もー。
怒ってたのかなあ?
怒ってるなら怒ってるって、意思表示くらいしてよ。
私に感情も見せてくれないんじゃ、完全に脈がないってことじゃんか・・・。
私が彼を好きになったのは三ヶ月前。
体育祭の日、私は生徒会が用意しているテントにある放送器具につっかかって転んでしまった。
しかも、コンクリートなのに手と膝からダイヴという、
あり得なくかつ痛々しい体験を生徒たちがいる目の前で堂々とやってのけた。
「痛いー」
「ほらぁ唯はドジなんだから・・・擁護の先生いないのかしら」
友達がきょろきょろと先生を探していると、上から男の人の声がした。
「大丈夫ですか?」
この人が誰でもない、黒木会長である。
「うう・・・痛いです」
普通の解答をするあたし。
「手見せてください。ちょっと血が出てるから消毒しますよ」
と言って彼は、テキパキと応急処置をしてくれた。
ちょっと恥ずかしかったけど、今思えば会長だったから嬉しかった。
「すみません、こんなところに機材なんか置いてたからですよね。もうよけたから大丈夫です。ハイできました」
「あ、え、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
私は見たんだ。
さっきまで無表情だった人は、ホントは優しくて思いやりがあってこんなに素敵な笑顔を持ってるってことを。
「ねえ会長、もうすぐクリスマスだよ?」
「それがどうしたんですか」
翌日の放課後、生徒会室にて。
私と会長だけの大切な時間。
「プレゼント欲しくない?」
「いりません」
「なんでよ」
「まあ強いて言うなら・・・」
彼は帳簿をパタッと閉じた。
私は目を大きく開いて身を乗り出した。
「――唯さんが静かになることですかね」
会長は私から目を離すと、すっと立ってパソコンの電源を入れた。
私に静かにしてもらうことが、彼にとって最高のプレゼント。
付きまとわない、名前を呼ばない、生徒会室まで来ない!
そりゃあそうだよね・・・私、忙しい生徒会長にずけずけと言いたいことばっかり言って。
「ごめん・・・ごめんね会長・・・あたし帰る」
嫌われた。完璧嫌われた。
「唯さん」
パソコンの椅子をこっちに回して、会長の身体がこっちに向いたのが見えた。
「僕が言ったのは、大人しくしろ、という意味ではないです」
「え?」
会長は表情一つ変えずに私の方に近づいてきた。
「・・・どういうこと?」
目の前に会長がいる。
どうしよう、会長から私に伝えたいことがあるなんて初めてなのに・・・
「もう頑張らなくていい、ということです」
ふう、と会長は溜息をついた。
「わかりませんか? 今日から言われなくても一緒に帰ることになりますから。
よって早めのクリスマスプレゼントはこれで結構です。いいですね?」
「・・・かいちょ、プレゼント・・・?」
私は唖然として言った。
彼は満面の笑みで
「ここ、さっき僕が鍵かけたんですよ?」
と言った―――。