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春のとき  作者: 星空
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第6話 シャボン玉

 『ごめん、今夜は奥さん仕事休んだらしいんだ。少しの時間でいいかな?』こんなことはよくあること。彼はいつも奥さんが一番・・。大きく息を吸い込む。『デートはまた今度にしましょ。私にまで気を使ったら疲れてしまうわよ』『ありがとう、諒子、君は大人だね、惚れ直しちゃうよ・・・』こんなメールのやり取りの後は、背伸びをした分とても疲れる。奥さんが・・・という理由ではなくて、別の理由をつけてくれたほうがましだった。大人なんかじゃない、嫌われたくなくて背伸びをしただけ・・・。こんな私の気持ちには、全然気づいてないんだろうな。忙しい時間の合間でやっと約束できたというのに、いとも簡単にキャンセルになる。

 それでもすぐ次の瞬間、何事もなかったかのように私はまた普通の生活に戻っていく。夫がいて子供がいて。いつの間にかスイッチの切り替えが上手になった。

 『ごめんなさい、子供がちょっと熱があるの。せっかく約束したのに・・。また今度にしましょう』『わかった、残念だけど、またね。熱があるときは子供にとってママが一番だよ』『やさしさありがとう、ごめんね』また子供か・・。でも仕方ないんだ、それが現実。諒子には幸せを壊してほしくない。いつだってまた逢えるんだから・・・信彦もすぐに現実の生活にスイッチを切り替える。大人だから・・?そうだ。そう表現するのが正しいのかも知れない。

 それぞれの生活を理解しあう二人。どんどん先に約束を送っていく。嘆いたり悲しんだりできない。自分たちの思いのままに時間をとめておくことができない関係。二人とも大人だ。いえ、大人のふりをしなければ、続けてはいけない関係。だからせつない。

 『線』ではなく『点』で繋がる二人。その部分だけが切り取られて、きれいな写真のように丁寧に思い出としてしまい込まれる。そしてその思い出は、誰の目にも触れられず、永久に二人の心の奥底に閉じ込められる。そこには希望などという言葉もなければ、誰からの祝福などもない。ただあるのは、二人の思いの深さだけ。信じられるものは、目に見えない二人の心だけ。壊れやすくてはかなくて、現実であり、現実でない。それはまるで、やっと膨らんだかと思うとすぐに消えてしまうシャボン玉のようだった。それも信彦と諒子の二人だけにしか見えない、とても小さくてとても美しいシャボン玉。でも、どんなにせつなくても、それ以上は望まなかった。無理をすると何かが壊れてしまうということを、お互いによく知りえていたのだ。

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