第一話 出逢い
いつかはこんな関係終わりにしなくちゃいけない・・いつもそう思ってた。でも、自分の心がよくわからなくなる。どんなに忘れようとしても、目を閉じるとすぐに、彼の顔が浮かぶ。忘れる事なんて絶対にできない。
仲川信彦という男性。いったい彼がどういう男なのか、諒子は何も知らない。ただ、彼の清潔な瞳に、いつの間にか一目惚れをしてしまっていた。もう彼から目が離せない。あの日喫茶店で、コーヒーの味もわからないほど彼を見つめていた。そんな出逢いだった。あれからもう1年半が経つというのに、いまだに諒子の心の中には出逢った時の光景が鮮明によみがえってくる。
信彦の運転するきれいな水色のジャガーは、今日も駅のロータリーで停車し、諒子を待っていた。「ごめんなさい、待った?」「いいや、今来たところだよ」・・・(嘘。いつもあなたは私を待っているの。私より早く来て、待っていてくれる。あなたは私を好きなのよ、きっと。とても好きなんだわ。)諒子の心は優越感に浸る。
「どこに行きますか?」微笑みながら尋ねる彼の横顔に、諒子は見とれてしまう。「海を見に行こうか・・・」諒子がまだろくに考えてもいなくて、ちゃんと返事もしていないのに、彼は勝手に行き先を決めてお気に入りのジャガーを走らせる。(どうせ最初から行き先を決めていたのね。私を喜ばそうと思って?ね、そうでしょ?まるでお姫様のようだわ、こんなに幸せでいいのかしら)すべてを彼に委ねて、ただ諒子はカー・ステレオから流れる音楽に耳を傾けていた。今日も、彼女の好きなAORが流れている。そんな信彦のさりげない優しさが、諒子の心をまたもや捉えて離さなかった。