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第56話 最後のショーの幕はもう上がっている

悪い予想は見事に当たった。交通の要所から少し離れた場所。つまり兵糧庫がある、否、あった場所、そこは見事に焼き払われていた。


「俺たちの兵糧がやられないように万全の準備をして進軍を続けよう。皇甫嵩と合流する。」


「しかしこれを放置するのは!」


「愛紗、これは黄巾賊がしかけたものでも皇甫嵩がしかけたものでもないよ。推測だけど、裏で糸引く何者かの仕業だ。」


「ええ。黄巾賊の目的が見えてきました。おそらく、本隊のあるところ以外の兵糧は全て焼かれているでしょう。」


「なぜ……?」


「“背水の陣”で命尽きるまで戦えということです。」


問うたのは愛紗と紫苑。答えたのは俺、水晶、椿。


怒りを通り越して笑えてくる。連中の目的は“群雄の兵力を減らし、総人口も減らす”という馬鹿げたもの。あるいは陽動。世直しなんてのは建前なんだろう。おそらくは涼州にいる群雄を傀儡にするまでの時間稼ぎをしたい、せいぜいそんなところか。張角なんぞ駒。仮に女の子なら、最後は誰かに犯させて殺して幕引きをはかる可能性も出てきた。


その後、なんとか冷静になりながら進軍し、ついに皇甫嵩の一団を発見した。1万前後の兵で数万の黄巾賊と戦っていた。これはチャンスだ。


「紫苑、藍里。任せる。俺たちは駆けるよ。」


「はい!」


「騎馬3万は突撃して北から抜ける! 突撃!」


俺はそう告げ、一番手は桔梗に任せた。時間との勝負だ。本陣はどこにあるのか。可能性の全てを潰しながら、駆ける。道中は最小限の休憩のみ。馬がつぶれるか奴らがみつかるか、そんな状態だった。



天幕を発見したのは俺と女媧、愛紗、水晶の組だった。


「中までで突っ込もう。」


「最初は私が行きます!」


中に居たのは男2人と女の子2人。女の子の髪は桃髪と紫髪。案の定、か……。


「奴らは?」


「“奴”だ。逃げたな。奴と“鍵”の残滓はあるが、それだけだ。」


「何者だ!?」


「動くな。愛紗!」


「は!」


全員に当て身を食らわせ、意識を刈り取る。一瞬の出来事で、4人は何が起きたのかすらわからなかったろう。持ってきた縄で捕縛し、口に布を噛ませる。「舌噛んで自殺」なんて都市伝説かなにかだと思っていたけど、椿が裁く前に本当にやった馬鹿がいたのだから対策はしておかなければいけない。


一番先に気づいたのは桃色の髪の子だった。愛紗がそうなるように加減してくれたからだ。目を見て、想像より分が悪いことを知る。生きることを諦めた目、そんな感じだ。先ほどは驚きと恐怖で消えていたのだろう。


「君は拘束されている。これから色々と聞く。“肯定”ならば首を縦に、“否定”ならば横に振ってくれ。わかったね?」


俺がそういうと、彼女は首を縦に振った。


「君の名前は張角。正しい?」


また、肯定の返事が来た。


「今すぐ自殺するつもりがないなら口の布は取る。約束できる?」


今度は少し間があった。でも、肯定の意。首を縦に振った。


「殺してください……。私がこの乱を引き起こしました。お願いですから殺してください。」


「君は、俺の質問に正しく答えてくれればそれでいい。別のことは考えないようにしておいて。いいね。」


「はい……。」


「そこに居る3人の名は?」


「張梁ちゃんと、波才、彭脱です。」


「この3人以外に君らが張角姉妹だと知る者は何人いる?」


「え……?」


その質問にはかなり戸惑っていたようだった。俺にとってはこれが最重要の質問なのだ。


「きちんと数えて。」


「3人、です。左慈という人物と妹の張宝、そして張曼成。」


「その3人は今どこにいる?」


「左慈はわかりません……。消えました。妹と張曼成は南の荊州にいると思います。」


「君自身が治療を行うことはあったのかな?」


「ありました。でも、術を受ける人から私の姿は見えないように白い包帯で目を何重にも覆わせていました。」


これはいける。俺は確信した。


「君は、“華北の桃髪”そう呼ばれた鍼灸師だった。そうだね?」


「昔のことです……。」


「よし。愛紗、男2人の首をはねて、張角と張梁を捕まえて殺したと宣伝してきてくれ。」


「危険度が、高すぎませんか? 脚色が必要です。」


「危険を避けてばかりじゃ何も得られない。それは愛紗に任せる。」


「いつも危険のまっただ中に飛び込む方の言葉とは思えませんね。わかりました。後は任せます。」


「さすがにここではやらないでね。」


「わかっています。」


愛紗は、悟りでもひらいたのか、どこか笑っているようだった。天幕の外で聞こえたのは鈍い音と愛紗の叫ぶ声だった。


「さて、今から君の名前は“少納言”だ。張梁は“式部”いいね?」


「貴方は、まさか“北郷一刀”殿ですか?」


「ああ。誰からそれを?」


「左慈です。『もしかしたら、奴なら、あるいは劉備なら、もしかするかもしれないな。会ったらこう伝えろ。“マリオネットの出来が悪すぎてどうにもなりません。次はもっといいマリオネットを用意して挑みます。最後のショーの幕はもう上がっている。唯一の誤算はあなた方の強さでした。”』と言われました。」


あのゲス野郎、そう怒鳴りつけたくなるのを必死でこらえた。横文字を使っていることからみても、俺と女媧だけに当てられたメッセージであることは疑いなかった。


「君が“死にたい”・“死んで償いをしたい”そう思う気持ちは理解できる。でも、生きて罪を償うこともできる。それは必要なことだ。君にはそのほうがむしろ辛いだろうし、罰としてはある意味最適だろう。いいね?」


「それは……。」


「それに、彼女を診てほしい。」


「え!? って、貴方まさか!?」


水晶を見ると張角は血相を変えた。立ち上がろうとして縄で転ぶ。


「今、解くよ。」


「これは……。相当にやっかいね……。」


そう言うと、張角は首の付け根の近くを触った。そんなところに何が……?


「甲状腺」


「何? ここには、体内の流れを司るとても大切なものがあるの。でも、その働きが非常に悪い。咳の原因はここじゃなさそうだけど……。」


「状態はどうなんだ?」


「良くはない。でも、ここまで生きてこれたわけだから今すぐ命を落とす可能性は低い。治るよ。私が診療をできればだけど……。」


「それもあって君を解放したんだ。さて、張梁への説明も頼む。そろそろ目を覚ますころだろうから。張宝のほうは間違いなく劉備たちが上手くやってるから心配いらない。ちょっと向こうで甄、つまり彼女と話をしてくる。」


「はい。」


多少は生気を取り戻したようで良かった。しかし、問題は……。


「どうする?」


「どう、とは?」


「とぼけるな。涼州に2人で突っ込むかどうかだ。」


「それなんだが……。ずっと“涼州”が引っかかってる。あそこで名のある群雄なんて馬騰と韓遂の2人しかいない。しかし、小粒すぎる。敵になんてなりようがない。」


「他に思いつくのがいない、ということか。」


「ああ。待てよ。奴は、もしかしたら涼州の出かもしれない。パソコンも本もないから確認する方法はないけど、該当者が一人、居た。」


「誰だ?」


「董卓」

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