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第54話 目的

久しぶりのはわわ

「わからないなあ……。」


いつもの部屋で女媧、桃香、愛紗、鈴々、桔梗、水晶、朱里、藍里という下邳の中枢を集めて行った会議の第一声はそれだった。言ったのは俺だけど。



「今さら……ではないでしょうか。“考えたら負け”です。問題は“どう対応するか”の一点に尽きるでしょう。」


「そうですね……。皆に招集をかけるかということを考えたほうがよほど生産的だと思います。」


俺の言葉に応じたのは水晶と藍里。ごもっともだ。しかし、愛紗たちはそもそも何のことを話しているのかわかっていないようだった。


「あのですね……。我々にもわかるように話していただかないと困るのですが。我々は書類と格闘する時間も長くはないのですよ。」


「いや……。愛紗はかなり長いようじゃが……。しかし儂にもさっぱりわからんのも事実。教えてくださらんか?」


「黄巾賊の目的ですよ。」


愛紗と桔梗の言葉に応じたのは朱里。そう、何が目的なのか全くわからなかった。俺だけならまだしも、水晶や朱里、藍里でさえも。


「確かに私も最近になってだけど疑問に思ってたんだよね。でも一刀たちもわからないの?」


「桃香様も疑問に、ですか?」


「そうそう。これだけ勢力が増して、しかも旗揚げは并州だっていうのにそこから東の冀州に攻めてその上、南下したっていうのはおかしいと思わない?」


「そういえば……。」


「俺が黄巾賊の大将なら敵の準備が整わないうちにさっさと洛陽に攻め入るよ。并州からなら南下すればすぐだ。何をしたいのかが全く見えない。」



先手必勝。相当の策がない限り、烏合の衆にすぎない賊を統率して大量の都市を攻め落とすのは容易じゃない。あの賊にやった何らかの手段をそのままやるのだとしたらわからなくもないけれど、それを賊全員にやるというのはなかなか難しいだろう。そのあたりをすべてわかっていてやらないのだとしたら、そう考えずにはいられなかった。



「確かにそうじゃな。あれだけの乱を起こしてすさまじい言葉を出したわりには対応が遅い。鎮圧されるのを待っているかのようじゃ。」


「つまり、それ自体が罠だとお兄ちゃんたちは思っているの?」


「そうだね。考えられるのはいくつかあるけど、どれも決め手に欠けるんだ。」


「たとえば?」


「一番非道くて可能性として高そうなのは、反乱そのものが罠。つまり黄巾賊は

囮。その間に宮中で何かやるんじゃないかと思っているんだけど、今のところその兆候もない。」


「だから私としては、そんな無意味なことを考えて疑心暗鬼に陥るよりは乱の対応を考えるべきだと思っています。」


「ですが水晶、乱の対応といっても参戦するだけではないのですか?」



……。


「愛紗さん、筆頭の武官としてそれは極めて軽率な発言ですよ……。」


「藍里!?」


「ですね……。そもそも我々には勅令がきていませんから、動くことができません。動くことができるとしたら2将が失敗したあとです。つまり、救援もしくは敗北の後。敗北して死んでくれるならありがたいですが、残念ながら救援となる可能性が高いです。」


藍里と朱里が少しあきれたようにそう言った。民衆を助けるという義侠心はいいことだけど、謀略渦巻く世界ではあまり有利にはならないな……。


「勅令なしで動けるのは“大将軍”つまり何進のみです。今の段階では勅令を無視して動くよりも従ったほうが良いでしょう。桃香様たちの努力が水の泡になりますので。」


「一刀としては、張角たちも助けたいの?」


桃香がどんどん鋭くなってきているなあ。いいことだ。ただ潰すだけならおそらくそれほど難しいことではない。しかし、張角たちを保護するということを考えると、かなり難しい話になってくる。


「利用価値があれば、かな。最低限、『太平要術の書』かそれに近いものは回収しなければいけない。」


「黄巾賊の首魁を、助ける、じゃと?」


「はい。これだけの扇動技術を持った人物をただ殺すのは非常に勿体ないのです。扇動の方法にもよるのですけどね。ただ、そうなると色々と障害がでてくる。一番は皇甫嵩をどう処理するかです。」


「かつでの同僚だから霧雨にも色々と手紙で聞いてみたけど、皇甫嵩はかなりの名将なので黄巾賊に負けて死ぬ前に救援を求めるだろう、とのことだったよ。かなりの名将といってもウチの将とは比べものにならないほど弱いとも書いていたけどね。」


「愛紗たちと比べれば無論そうなるじゃろうが……。」


朱里に加えて俺がそう言うと桔梗も納得したようだった。張角姉妹の処理は本当に面倒だよなあ……。そして皇甫嵩。史実ではおそらくあの時代で初の名将だろう。黄巾賊討伐の立役者だ。もちろんこれをそのまま当てはめるのは危険だけど、霧雨の評価もある。侮るわけにはいかない。


「つまり、皇甫嵩を救援して黄巾賊を討伐しつつ、首魁の張角姉妹を他の勢力に気づかれないように助けなければいけない可能性が大きい、と。そのときに一番の障害となるのは救援する皇甫嵩になるということですか。」


「仰るとおりです。こういうときは福莱さんたちがいると色々と意見を聞けますし、鎮圧のときはおそらく霧雨さんと鴻鵠さんをここに残さなければいけませんから招集の話になるのです。」


「どうして2人を残すの?」


「こういう言葉が適切なのかわかりませんが敢えて言います。この程度の鎮圧に全軍を出す必要はないでしょう。そのときに誰を残すか。霧雨さんは旧知の仲を罠にかけるのを快く思う人ではありませんから残します。そして、こういうときだからこそ領内の治安により力を入れる必要があります。よって鴻鵠さんも残します。」



愛紗の総括に水晶がそう応じて、桃香の疑問には朱里が完全に答えた。皆がここまで優秀だと、自分は何もしなくても良いような錯覚を覚えるけど、そんなときにこそ気を引き締めなければいけない。何もかも人任せでは人などついてこなくなるから。



「俺たちの集めた情報を元にして、皇甫嵩がどのくらいで救援を求めてきてそれにどの程度の時間をかけて応じるかを計算してみよう。そこから逆算して招集をいつかけるか決めよう。嬉しい誤算だったのは、徐州の民は免税を求めて軍に志願する人が多いことだね。俺たちで色々と策を打って募兵する必要がなくなった。」


「おおよそこのくらいでしょうか」


「え!?」


「まあそうなるだろう、という予測はついていたので計算しておきました。どうですか?」


「完璧です……。」


「はわわ~。私たちの存在意義ってどこにあるんでしょうか……。」


「内政を中心に色々なところにあるのですから大丈夫です。」


水晶が示した日数とそれにかかる理由は完璧だった。俺にも読めるようにと草書ではなく楷書でかくオマケ付き。


桃香は唖然、藍里は尊敬、朱里は“はわわ”というそれぞれの反応。


「なら、これに合わせて招集をかけよう。」


それで今回は終わりとなった。


それから少しの時がたち、予定通り皇甫嵩が反乱の鎮圧に苦戦しているときに招集をかけ、皆がそれぞれの仕事を部下に預けて集まった。救援の要請が来たのはちょうど前日。完璧なタイミングだ。しかし……。


2人!?



「皇甫嵩はともかく、朱儁までというのは予想外だなあ……。」


「炎蓮が断ったのです。本人にとっては不本意だったのでしょうが、領内の情勢は参戦を許さなかった。」


「兵の数がほぼ4分の1にまで減りましたからね……。徐州攻めの結果です。おかげで揚州はめちゃめちゃになりました。」


「私としては、相変わらず割れたのは面白いです。ただ、朱儁のほうもというのは面倒ですね。将を分ける、つまり3分割して全てを勝利に導かなければいけない。ちなみに曹操も断っています。荀彧らの入れ知恵でしょう。両者とも理由は領内の情勢です。」


俺のボヤキに応じたのは水晶、福莱、椿。7人全員が集まると安定感が違うなあ……。本当に頼もしい。


「割れた?」


「ええ。長女の孫策、程普らの参戦派と次女、孫権、周瑜を中心とした反対派です。今度ばかりは孫権らの意見をのまざるをえなかった。我々との軍事演習が先延ばしなのも純粋にそちらに兵や将をさく余裕がないのです。」


「無理な戦争で領土拡大を考えてきた弊害でしょうね。新たに手に入れた領土で収入を増やすという発想はあっても、私たちのように既にある領土を安定させて発展させ、収入を増やすという長期的な視点が全くない。」


「それでも戦争では勝つのですから不思議なものですよ。」


「“野生の勘”でしょう。」


最後に風がそう言うと皆笑った。ホントそれだ。俺にもほしい。とはいえ実際は周瑜が密かに頑張っているだけなのだろうけど……。


「皇甫嵩が戦っているのは黄巾賊の本隊。張角一派がいる。基本的に冀州の南部と豫州だ。朱儁は荊州北部が中心だね。荊州北部の黄巾賊は陽動だから、少ない官軍の兵を分けてまで叩く必要はないと思っていたんだけど、どうも俺とは違う戦略眼を持っていたらしい。」


「そう皮肉を言わんでくれんか……。戦略を立てる者も、諌言してくれる者もおらんのじゃ。かつての私も似たようなものだからよくわかる。ここに居るような部下は誰一人いなかった。無論、それも上に立つ者の力量であり、人物眼、そして度量の広さによるのじゃがな……。」


「その通りなのでしょうが、回顧していても仕方ありませんのでどう処理するか決めましょう。」


このあたり、以外と藍里もドライだよなあ……。


「そうなりますね。桃香様と一刀さんが分かれてそれぞれ補助するべきでしょう。謀略の観点から、張角らがいる皇甫嵩は一刀さん、朱儁は桃香様が補助。ただし皇甫嵩のほうが偽である可能性も含めて、両方に同等の力の将と軍師を出します。」


「留守は鴻鵠と霧雨。あとは……。」


「私が残るのですよ。」


「頼めるかい?」


「もちろんです。お任せください。」


風は丁寧にこなすし、安心だ。このあたりの気配りはさすがだよなあ……。


「となると……。俺のほうは、愛紗、桔梗、紫苑、藍里、椿、水晶、かな。桃香のほうは鈴々、星、悠煌、焔耶、朱里、福莱、玉鬘。これでいい。」


「一刀、本当は私のことあんまり信用してないでしょ?」


「“武”はまあね。」


桃香からそう言われてしまった。普通なら“残党”にこれだけ武官出さないもんな……。ましてや主力の騎馬軍を率いるのが別次元に上手いのは愛紗、鈴々、星、悠煌だ。そのうち3人を出すのだから当然の反応ともいえる。今回は特に“予定外”が起きて失敗しました……では話にならないからここまで過剰にやっているのだけど。


「黄巾賊の中から情報が全く手に入らないのでこんなことになっているんです……。見事に誰も帰ってこない。それでも、消息を絶つ地点までは割り出しましたが……。」


「馬鹿なやり方ではあるけどね……。俺らみたいに重要な情報は与えずに帰らせればいいのに、それができないから全員始末している。」


「そうですね。さて、出ましょうか。」


「なら、最後は私から。全員またここで会うこと! 絶対に守ってね!!」


全員が返事をして戦いへ。武将の鼓舞、としては桃香の良さが全面に出てていい。どんな戦いになるのか、先入観を持たないほうがむしろいいのかもしれない。

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