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第2話 定め

北郷がいませんので、一番上は仙人だけの会話だけになっていますが、ご勘弁を願います。

「これ以上の不確定要素などいらぬ!! 外史には外史の暮らしがある! その世界に我らが大きく介入してどうこうすべきではない! あのクズ共を隠密に潰さねば、これからどうなるかわからんのじゃぞ!」


「それはその通りじゃが、まずは此奴じゃろう。日ノ本、即ち日本からの来訪者を何とかせねばなるまい。伏犧ふっき、お主はどうすべきと思う?」


「ふうむ。元始げんしの言うことも尤もじゃ。しかし、こ奴はすでに来てしまった。どうするか。生かすにせよ、殺すにせよ、このまま元の世界に帰すことはできぬからな……。」


「面白いことになってきたゎん。私たちのうちの誰かと一緒に、乱れた外史を統一させる旅に出すっていうのはどうかしらん? 勿論、嫌なら死んで元通りょん。」


「……。妲己だっきのやり方が一番良いのかもしれぬな……。が、まずは本人に聞かねばなるまい。ところで、老君ろうくんはどう思っている?」


「zzz...。」


「さすが女媧じょか様。話がわかるゎん。」





あれ……? ここはどこだ? 俺はなんでこんなところにいるんだ?



何が起きたのかを思い返してみると、確か、于吉とかいう奴が鏡を盗んで、それを俺が止めようとしたら鏡が割れて、そこから光があふれ出してきたんだよな……。そこまでは覚えているんだけど、どうして俺は今、こんなところにいるんだ……?


周りを見回してみると、上に人が居て俺を見下ろしていることに気づいた。ここは何だが裁判所とか闘技場みたいなところだな……。古代ローマのコロッセオに居るみたいだ。俺はこれからどうなるんだろう?とりあえず、上にいる人に聞いてみるか。



「おーい。誰かー。あのあと、いったい何がどうなって俺がここに居るのかを教えてくれー。」


「キサマは于吉とかいうクズ仙人が手に入れた”開闢かいびゃくかがみ”の力によって外史に巻き込まれるところだった。それを俺が助け、とりあえずここに連れてきた。」


開闢の鏡? 外史?


そういえば、あの于吉とかいうヤツも”外史”と言っていた。”史実ではない”歴史のことを”外史”と呼んでいたような……。


「”ここ”はどこなんだよー? ”とかいう”っていうことは、名前もよくわかっていないっていうことなのかー? そもそも”外史”って何なんだー?」


「ここは仙界。神と仙人の住まう地だ。俺がいちいち末端のクズの名まで覚えているほど暇だとでも思っているのか?」


「まあまあ。この子にそんな言い方をしたってわかるわけないゎん。


”外史”っていうのは、いわゆる”想い”とか”妄想”というようなものが具現化した世界のことょん。それでも、その世界に人が居て生きていることに変わりはないゎん。


だから、あなたが住んでいる世界とその外史の世界が交わることなんて絶対に起こってはならないことなの。ところが、あなたが異分子イレギュラーとして入ってしまいそうになった……というわけなのょん。でも、入り込む前に彼が助けて、ここへ連れてきてくれたわけなのん。だから、きちんとお礼を言うことねん。」


「あ、ああ。ありがとう。」



……。とは言ったものの、むしろ俺は被害者だよなあ……。なんか反論しづらいけどさ。


しかし、”末端のクズ”ねえ……。仙人? にもランク分けみたいなものがあるということなんだろうけど……。それにしても、この女のしゃべり方は無性にイラっとくるなあ……。とりあえず”外史”というものが何なのかがそれなりにはわかったけど。



「その”外史”っていうのは具体的にどういう世界なんだー? というか、その前に、いちいち叫ばなくてもいいようにしてくれー。」


「……。叫ばずとも聞こえるぞ。お前がまきこまれそうになった”外史”とは、時代をいろどった者


――曹操・劉備・孫権といった者たち――


が皆、女となった三国志の世界だ。」



”いちいち叫ばなくてもいい”ということくらい先に言ってくれよ……。俺はインターハイに向けて練習を頑張りたいと思っているんだから、そんな変なトコになんて行きたくないんだけどな……。



「どうやったら元の世界に戻ることができるんだ?」


「元の世界へ戻る方法は2つある。1つは今、我々に殺されること。もう一つは、その外史の世界に降りて争乱を終結することだ。このどちらかを選べ。」


……。いきなりこんなわけのわからない話にまきこまれて、挙げ句の果てには「死ね」ですか……。


「こっちで”死んで”も元の世界では普通に生きていけるんだよな? それと、その奇っ怪な世界に行ったときの時間の流れとかはどうなるんだ?」


「死んだときはここへ来た記憶も何もなく、あのときとほぼ同じ時間に元の場所へ戻ることになる。死ぬときは一瞬で、痛みも苦しみも感じることはない。


外史に行くことを選択したときは、”外史に行った”という経験と記憶だけは残るが、むこうで何年を過ごそうとも老いることはない。ほぼ同じ時間に、元の場所に戻るということに関しては同じだ。お前がまきこまれたあの少し前に戻ることになる。外史でどれほど過ごそうとも、元の世界での時間は全く進まない。そこに住んでいる者にとっては自分の世界でも、お前にとっては夢の中……ということだ。夢の中といっても、寝て、起きて、食事をして、向こうの世界の連中と関わることになるわけだが。」



”死ぬ”のは嫌だけど、まきこまれたという記憶も何も無く元の世界に戻れるというのはいいなあ……。だけど、外史に行ってそこで色々な経験をすれば、今の俺よりは強くなれるよな。それなら外史の世界に行ったほうが良い選択になりそうだな……。でも、”三国志”と言えば聞こえはいいけど、実際は戦乱の世なんだよな。途中で殺されてしまう可能性もあるよなあ……。困ったな……。


「”ボディガード”みたいな人が居て、俺に身の危険が無いのなら行きたいんだけど、どうだ?」


「フム……。贅沢な奴だ。まあいい。我らの中から一人を選べ。直観でな。」



そう言うと、仙人? たちは俺の近くへスーっと降りてきた。


額に玉を嵌めたジジイ・カプセル式揺りかご? に入った若い男・鞭を持った片目に飾りのある見るからに強そうな男・水着みたいなのを着た女・体に黒と白の混ざった模様があり、つかみどころのないような感じのする、大剣を持っている男・そして、銀髪に金の輪、臍に金の装飾、大極図をあしらった衣装を着た女


の6人だ。誰か一人か……。一番タイプの、大極図の描かれた服を着たこの女にしよう。



「一番右の女の仙人がいい。」


そう俺が言うと、水着の女が、


「女媧様を選ぶなんて、あなたもやるゎん。」


と言った。女媧……? どこかで聞いたことがあるような……。そうだ、中国の創世神話に出てくる”三皇五帝”のうち、”三皇”の一角だ。


「女、女媧……? お前が、”三皇”の一角だっていうのか!?」


「おや、私のことを知っていたのか。そう、その私だよ。酔狂にも程があるような行いだろうが、そういうのもまた一興だろうな。良かろう。一緒に行ってやることにしようか。”お前”呼ばわりも寛大な心で許すとしよう。」


「フム。決まりじゃな。女媧、お主はこの男と助けるとき、及び外史に紛れた仙人を捕縛・殺害するとき以外ではその力は一切用いてはならぬぞ。」


「ああ、わかっている。」


自分で”寛大な心”と言うのはどうかと思うけど……。俺は本当に別の世界の住人と関わっているんだな……と、なぜかそう思った。というより、今起こっている事が全て他人事ひとごとのように思えていたのだけど、それではいけないな。



「それで、俺はこれから何をすればいいんだ?」


「これからお前は”天の御遣い”として外史の中に入ることになる。”三国志”、要するに後漢末期の時代に行くことになるわけだが、最初に降り立つ場所だけは今、決めてそこへ行くことができるぞ。一度降り立ったら、移動手段は徒歩くらいしかないのだから、慎重に決めることだ。馬を手に入れられればそれで移動できるが、そもそも手に入れられるかなどわからんのだからな。さて、どこにする?」


時代としては1800年以上の昔に行くということだから、自動車や鉄道・あるいは自転車といった俺にとって当たり前の移動手段なんて無いに決まっているよな……。


”夢”の中で寝て、起きて、奇妙な三国志の世界で天下統一を目指す……。なんて言われても、なかなか頭がついていかないな……。


俺が最初に行く場所は決まっているけど。


幽州琢郡(ゆうしゅうたくぐん)にしてくれ。」(※1)


「ほう、そこに思い入れがあるのか?」


「ああ。どうせ行くなら、俺の好きな人物を集めて国をつくりたい。俺が考えている最高の9人


――将軍5人、政治家、軍師それぞれ2人――


のうち、一人でも多く仲間にしたい。その中で一番好きな将軍、関羽は確実に劉備のところに居る。だから、そこに行く。」


もともと、俺は関羽Loveなんだ。義侠心のカタマリとちょっと高いプライド。前に、


”もし、三国志の世界に行けたら……”


なんていう話をしていたときも、俺は迷わず「劉備三兄弟と一緒に行動する」と答えた。早坂さんは「自分で国をおこす」で、藤田さんは「成り行きに任せる」と、それぞれ”らしい”答えだったなあ……。及川は「曹操や。」と言っていたっけ……。


「残りの8人が気になるところだな。良かろう。他のことは追々話してやることにしよう。」



女媧がククッっと笑いながら”何か”をした。何をしたのかはわからないけど、俺の体が浮いているのだから”何か”はしたのだろう。そして俺は女媧と共に光の膜のようなものに包まれた。光の膜といっても、あの鏡の光のように目が眩んだりすることはなかった。


これから、俺は不思議な三国志の世界に行くことになった。そのきっかけが何であれ、元の世界に戻ることができて、しかも時間は進まずに経験と記憶だけが残るというのなら、俺だけが他の人よりも多くの時間を手に入れられるようなものだ。そんなことが起きているのだから、もうこのことを楽しむしかないような気がする。


移動している間に、俺は女媧から色々なことを聞いた。これから俺たちが降り立つのはだいたい西暦で180年くらいの古代中国だけれど、俺の知る”後漢末期”や”三国志”とはいろいろなところが違っているらしい。そのあたりは『行けばわかる。』と言われたけれど、もしかしたら女媧もそのあたりはよく分かっていないんじゃないか……という気がした。


そのなかで大切なのは、”悪事を働いている仙人”である于吉うきつ左慈さじが暗躍していて、女媧の力は俺を守ることとそいつらを捕まえるか殺すこと以外には使えない……ということだろうと思った。女媧の力はあまりに強大すぎて、外史そのものを破壊してしまう可能性があるかららしい。


そして、女媧のことは甄姫しんきと呼び、通称”しん”と呼ぶことにした。”女媧”の名をうかつに喋るわけにはいかないからだ。


元々俺は「貂蝉ちょうせん」にしたかったんだけど、何故か女媧に拒否されてしまった。ものすごく不快そうな顔で


「断る。」


と言われちゃったんだよなあ……。絶世の美女なのに、なんでだろう……?


それから暫く経つと、大地が見えてきた。



解説


※1 幽州琢郡(ゆうしゅうたくぐん)・・・劉備の生誕の地とされる。

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