第40話 平和的焦土作戦
当たり前ですが、一刀が居ませんので2章と同じ書き方(三人称)になります。非常に短くて申し訳ありません。
何度目を開いても、顔良の目の前の光景が変わることはなかった。
「将軍……。」
主と同じく絶句している親衛隊の面々。麗羽様にどう報告すればいいのだろうと思いながら絶望的な眼で見つめる先にある、そこは。
鄴城
自分たちの治めている南皮よりも都市の規模は巨大な“筈”の場所。しかし、そこを一言で表すならば、それはまさしく“廃墟”であった。
人の気配は全く無かった。鄴城だけならまだ良かったろう。南皮から移動している間、顔良たちは誰とも――そう、誰とも――会うことは無かった。そこにあったと思われる村も、全て廃墟。辛うじて残っている家や井戸が、かつてそこに人が居たことを示しているだけであった。
どうなっているのかを知る術のない顔良たちは途方に暮れていた。そう“情報”が何も無いのだ。ここで何が起き、あるいはここにどうして誰も居ないのか。そのようなことが何一つ分からなかった。
「“焦土作戦”でないことだけは確かですね……。」
顔良の副官。つまり親衛隊の隊長を務めている高覧がそう言った。
「そうね……。」
焦土作戦。
守る側が建物や食糧などを焼き払うことで、攻撃する側の補給などを困難にする戦術である。少なくとも井戸は壊れても、かれてもいなかったし、森林も家もあった。形だけだとしても。
それが焦土作戦でないことを示していた。
「ここでため息をついていても始まらないわ。補給拠点を作り、それから情報収集をしましょう。商人などへ偽装して公孫瓚など他国の領土へ入ることも許可します。とにかく、ここで何があったのか、それを調べます。麗羽様にはとりあえず、『平定までは時間がかかる』と言って時間を稼いでください。」
「承知致しました!」
天下の袁紹軍。その能力は決して低くない。ただ、比較する相手が劉備軍であれば数段劣るというだけで、朝廷などの一般的な軍よりは高い位置にあった。その袁紹軍の中でも選りすぐりの兵が集まる親衛隊である。相棒とも言える文醜の親衛隊は戦闘、武闘派集団だが、顔良の親衛隊は諜報や工作などもこなせる部隊なのだった。
情報を集めること2週間。導き出された結論は“劉備”だった。食糧・安全。何もせずともこの2つを提供してくれる劉備についていかない者は誰もいないのだった。
そして、もう一つ判明した事実。それは、これに困っているのが自分たちだけではないということであった。
袁紹と事を構えるのを嫌った公孫瓚は南下策をとっていなかった。そこへ劉備軍は行き――否、通り――全ての民衆を吸収していったのだ。そのため、公孫瓚も人口不足という大問題と直面しているのだった。
無論、これらは全て一刀が考えた計略である。だが、顔良や公孫瓚などは“たまたま”と思っていた。そこまで考えるには、相当の“情報”が必要なため、及びもつかないのだった。
「一つだけ、良いことがあります。劉備さんたちが賊の掃討をしてくれたおかげでこの冀州に賊は居ません。これを宣伝し、他の土地から移住させるように働きかけるのです。」
「は!」
そうして鄴に人が移り住んでいくようになるには、相当の月日が必要だった。丁度その頃、驚くべき事が起こっていた。
劉備から御礼が届いたのだ。そこには、御礼に加えて“交易したい”という旨が書かれていた。何もせずに鄴を手に入れられたことで恩のある袁紹は快諾。
本当にこれで良いのかと思う顔良であったが、主に意見を述べるなど到底出来なかった。