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杖破壊のお客様~またのご来店、おとといきやがれです~

作者: 今璃 咲
掲載日:2026/09/21

 魔法使いにおいて、魔法の杖は象徴であり、実力であり富であり、媒体である。

 杖なしに人は魔術を行使できない―のだが。


「あー、やっちまった」


 湖畔のほとりに佇むカフェと店が建設された木造の建物。看板には《魔道具魔導書取り揃えております》《杖の最短修理 承ります》と謳い文句がついている。上のカフェからはキャッキャウフフとおばさま方の 声が聞こえ、窓を見ると美味しそうにケーキを食べる子供がいる。

 まさにお昼時、一階の店舗は閑散としているだろう。だから青年は来た。


 入店するとカランコロンとベルの音と共に「いらっしゃいませー」と平坦な声が聞こえる。


 青年は棚の商品に目もくれず、手に下げた麻袋―それに入った粉々の木片をカウンターに置いた。


「すみません、杖の修理お願いできますか?最短で」


 にこにこと愛想笑いを浮かべ頼むと、営業スマイルを浮かべた女性店員は一変し、笑顔は保持しつつ地を這うような声で言った。


「おとといきやがれです、お客様」



 魔法店の店長、レピア・タクトはおよそ店員とは思えないガラの悪い態度で青年に罵詈雑言をぶちまける。


「あのさ、毎度毎度粉々に粉砕された木屑を持ってくるかな!?」

「わりぃな、魔力の調節苦手でさ。魔力こめ過ぎて杖が耐えきれなかったみたいだ」


 人にものを頼むとは思えない謝罪のカケラもない態度で苦笑するのは、魔法学校の非常勤講師兼冒険者のセト・シヴァン。


「知ってるわよ!」

「うーん、怒んないで」

「修理が25回目じゃなかったら怒ってなかったわ」


 紅玉(ルビー)の長髪を払い、琥珀(アンバー)の瞳でこちらを見るのはなかなか迫力がある。しかし、淡い翠玉(エメラルド)蒼玉(サファイア)のような容姿のセトはそれくらいで気圧されない。

 そして謝ろうともしない。薄情である。


「悪いけど経営者には客を選ぶ権利があるの。修理しても買っても杖を壊すような魔法使いは帰りなさい」

「俺は常連だ。お得意様なら逃がしたくないだろ、経営者」

「あんたは”迷惑な”常連よ。せいぜい自分の魔力量を呪うがいいわ」


 頑として譲らないレピアにセトはなんとか懐柔しようと質問をする。


「そう言えば店が品薄状態だな。旅行にでも行くのか」

「ええ。杖の発注を頼んでいる工房に行こうと思って。店に来る客層を考えるとそろそろ品を変えたいのよね。同じ東地方(オリエンス)でも北部の工房だから一週間くらいは閉店に―」


 そこでレピアは口を滑らせたことに気づく。が、時すでに遅し。セトが無邪気な子供のように瞳を輝かせていた。同時にレピアは思い出す。


 ―こいつ、一度かみついたらスッポンのように離れないんだった。


「俺も連れてって」

「断固拒否、言語道断の却下よ。契約店にあんたを連れてって、あんたの素行の悪さで破棄されたらこっちが被害を被るじゃない」

「忘れたか、俺は曲がりなりにも教師なんだぜ?旅費は自分で出すからさ」

「じゃあいいわ。荷物持ちとして連れてってあげる」


 こうして杖破壊の魔法使いと杖直しの店長は旅に出た。着替えと食料と杖を修理するための魔石30個を持って。


 ―私の魔力と魔石の魔力が減るまでに、店に到着しなくちゃ。


 道中はトラブルの連続だった。魔物が出現し、撃退して杖を壊し、修理する。街道が事故により足止めされていれば、空を飛び杖を壊し、修理する。木にぶつけ、盗まれかけて、また壊れ、再び修理し、怒られる。短歌を作っても怒られる。

 思い出したくもない最悪な黒歴史を誕生させつつ、やっとこさ北部の目当ての工房についた。100年くらいたった気がする。工房の親方と目が合わなければ、セトの頭には拳が降っていただろう。


「ああ、お待ちしておりました。例の件ですね」

「はい。それと型番Cー2とTー79の事ですが・・・・・・」


 わいわいと繰り広げられる商人の知恵と利益と腹黒さ。しがない冒険者のセトは暇なので工房に置かれた杖たちを物色する。


 ―レピアの店より種類やデザインが豊富だな。それに品も良い。あいつの店はだいぶ時代遅れだな。


 冒険者の分際で偉そうに、と怒髪を衝く勢いのレピアを想像しつつ眺めていると、セトは一つの杖に目が留まった。セトの瞳と同じような、いやそれより深い色味の蒼玉(サファイア)が埋め込まれた、木製の美しい杖だ。サイズも感触もしっくりと馴染むし、何よりも軽くて丈夫そうだ。

 商談を続けるレピアを横目で見つつ、セトは工房の職人に話しかけた。



「本日はありがとうございました」

「いえ、これからもごひいきに」


 商談の成功に晴れやかな気持ちだったレピアの心は次の瞬間、悪天候となった。


「悪い、レピア」

「この人、お金払えないけど杖が欲しい、後でレピアさんが払ってくれる―って言ってたんですけど、お金あります?」

「・・・・・・は?」

「あ、ちなみに500メン(3万円)になります」


 その日、東地方(オリエンス)のとある工房に女性の怒号と青年の悲鳴が響いたとさ。

こんにちは、西洋短編楽しんでいただけたら嬉しいです。よろしければブクマ・コメ・リアクションよろしくお願いします。お読みいただきありがとうございました

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