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『雪原の静けさ』

作者: 蒼山ホタル
掲載日:2026/04/30

あるのは、

雪と、

静けさと、

引き金の感触だけだ。




---


『雪原の静けさ』


雪は、音を消す。


俺の故郷でも雪は降った。

だが、ここまで広く、冷たく、無言ではなかった。


「おい、イワン。」

後ろから声がする。


振り向くと、同じ部隊の男が手を振っていた。

ロシア人だ。名前も顔も、もう何人分も覚えきれない。


「お前、寒くないのか?」


「寒いさ。」


短く答えると、男は笑った。


「顔に出てないぞ。」


出るわけがない。

寒さも、恐怖も、ここでは全部押し殺す。


俺は極東の出身だ。

目も髪も、ここにいる連中とは少し違う。


最初はよくからかわれた。

「中国人か?」「いや、日本人だろ」

好き勝手に言われた。


今は、もう言われない。


代わりに、こう言われる。

「お前はよくやる。」


それが褒め言葉なのか、

ただの便利な兵士への評価なのか、わからない。


銃を握る手は、もう震えない。

慣れたのか、壊れたのかも。


雪が、また静かに降る。


「終わったら、何する?」


誰かがぽつりと聞いた。


誰もすぐには答えない。


やがて、誰かが笑う。

「生きてたら考えるさ。」


それだけだ。


俺は空を見上げる。

白い空。


そこに、故郷の海の色を思い出そうとする。

だが、うまく思い出せない。


ただ一つ、覚えているのは——


冬でも、あそこには音があった。


波の音。

風の音。

人の声。


ここには、ない。


あるのは、

雪と、

静けさと、

引き金の感触だけだ。



---



ただ一つ、覚えているのは——


冬でも、あそこには音があった。


波の音。

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