『若返りの秘薬』は今日も宝物庫で不貞寝する
自我に目覚めた『若返りの秘薬』の数奇な運命!
彼の人生?薬生に様々な人々の思惑と冒険が!
「メリッサ・スー魔法古物店へようこそ ~魔法古物の査定、鑑定、買取、販売いたします~」の番外編になります。
こちらだけでも読めますが、よろしければ本編もよろしくお願いいたします。
俺は『若返りの秘薬』である。
意味が解らないと思うがまずは聞いてくれ。
俺が自我を得たのは今から200年ほど前、地方の伯爵家の居間にある豪華なマントルピースの上だった。マントルピースの上には高価な置時計や陶磁器の花瓶、その間で俺はウォルナットで作られた高級な置き台に固定されていた。
『薬』を暖炉の上に置くのは温度による劣化を考えればどうかと思うのだが、俺は『衝撃保護』や『品質保持』、『時間経過無効』が掛けられた『秘薬』であるので問題はない。
俺は何代か前の当主が何かの功績を挙げたことで王様から下賜されたそうである。しかし『貴重な秘薬』という事で何の効果があるかは解らないままだったそうだ。
王様も適当すぎるだろ。
とりあえず、王様から下賜された『貴重な秘薬』ということで俺は丁寧に扱われた。
伯爵家のハウスメイドとフットマンは高級なフランネルの布で俺を拭き、セーム皮で磨き上げた。掃除は行き届きマントルピースの上は居心地の良い場所だった。
伯爵家の居間では家族の談笑や女の子のピアノの演奏を聴いたり、隣の図書室から持ち込まれた様々な本を読んでいるのを見たりしていた。
親しい客が来れば酒を酌み交わしつつ、何代か前の当主の功績自慢の話になり、その時下賜されたのが俺だとテーブルの中央に置かれて話を聞いたりした。
マントルピースの前、要は暖炉の前は家族の集まる場所であり、客をもてなす場所でもあった。
そんな平穏な生活の中で俺の心にはある疑問が生まれていた。
俺はなぜ自我を持ったのか?
俺は何のために存在するのか?
自我が生まれて50年が過ぎた頃には俺が異質な存在であることは解っていた。
薬や物は自我を持たない。
また、道具は人に使われるために存在する。ペンは文字を書くために、ランタンは明かりを灯すために、椅子は人が座るためにあるのである。
では自分は?
疑問を持ったままそれからも平穏な生活は続き、ピアノを弾いていた女の子は令嬢になってお嫁に出て行き、当主は代替わりした。
居間に出入りする人の話や読んでいる本の内容から俺は少しずつ知識を蓄え、もう50年経つ頃には俺は疑問の答えを得ていた。
設問:俺はなぜ自我を持ったのか?
答え:長年大事にされた物には自我が芽生えることがあり、魔法の品であればなおさらだ
うん。伯爵家の人には大事にしてもらっている。それに俺は『秘薬』である。帯びている魔力も相当なものであろう。
疑問の一つは解消された。
もう一つの疑問は?
設問:俺は何のために存在するのか?
答え:人に飲まれるためである。
解ってはいた。俺は『薬』である。であれば人に飲まれてその効果を発揮することが本望である。
しかし、自分の存在意義を再確認できた俺に次の難題が降りかかる。
俺は『貴重な秘薬』として伯爵家に代々受け継がれている。
何の効果があるかも解らないまま!
人は効果の解らない『薬』を口にすることはない。
俺はこのままでは『秘薬』としての責務を全うできずに死ぬことに、いや死にはしない。逆に生き?続けることになる。
それから、二代ほど代替わりが進み、また50年程が経った。
前兆はあった。当主と家令が今年は干ばつで小麦のが悪いという話をしていたし、その後に税が取れないので重税をかけるとも言っていた。代々の当主は穏やかで領民にも優しい人物であったが当代の伯爵はそうではなかった。
ある夜、松明と武器を持った農民たちが居間に入ってきた。伯爵は鍬で撲殺され、夫人と令嬢は惨い目にあった。
マントルピースの上の高価な置時計や陶磁器の花瓶、30年前にそこに置かれた新人の銀の燭台と共に俺たちは麻袋に入れられ楽園から去ることになった。
その後、マントルピースの上の仲間たちとは別れ離れになり、俺はとある街の薬屋のガラス棚の中で5年ほど過ごした。
埃まみれの俺をガラス棚から救ったのは旅の商人だった。銀貨3枚という二束三文で俺を買った商人は自国に帰る船の船室で「これはすごい掘り出し物だ。国に戻ったら鑑定して貴族に高値で売りつけよう」と言って俺を綺麗にしてくれた。
俺は歓喜した!
これで鑑定してもらって俺の効果が判明すればすぐにでも貴族が俺を買い求め飲んでくれるだろう。俺は『若返りの秘薬』である。効果さえ解ればだれでも欲しがって奪い合いにもなりかねない。
数日後、船は嵐にあって沈没した。
長い間、光も届かぬ海底で俺は砂に埋もれていた。
偶に光る触手がある魚や海老などがやってきて辺りを照らすが、静かな落ち着いた時間である。
俺はもう諦めていた。このままこの暗い海底で人生?薬生を終わることになると。
その時は急にやってきた。何か解らないものに巻き取られ引きずられ魚や海老と共に明るい海面に引き上げられた。
久しぶりの明かりに目?を瞬かせる。数人の漁師が網に掛かった魚を外しているところで俺に気が付いた。
一人がフジツボなどが付着した俺を海に投げ捨てようとしたが、もう一人が止めてフジツボを取ってくれた。
危機一髪である。
フジツボを取ってくれた漁師は後日、町の商人に俺を銀貨5枚で売った。
商人は俺を綺麗にしてくれて旅商人に金貨1枚で売り、旅商人はラクダで隊商を組み、砂漠で盗賊に襲われた。
盗賊は『古代の希少な薬』として俺をオアシスの国の王様に献上した。
本人は大嘘のつもりかもしれないが大正解である。
オアシスの王様は娘の輿入れ先である交易先の小国への貢物として俺を送った。
小国の王は数年、俺を宝物庫で眠らせたがある時、小国に立ち寄った旅の魔法使いに鑑定を依頼した。
魔法使いは『古代の希少な薬』であることは確かだが効果はもっと高名な魔法使いでないと解らないと答えた。
王は仕方ないのでもっと高名な魔法使いを紹介するよう魔法使いに頼んだが、このような小国にわざわざ来るような高名な魔法使いはいないと言って王を怒らせた。
城から追い出された魔法使いはその夜、城に忍び込み宝物庫から俺とそれ以外のお宝を盗んで行った。
魔法使いは姿を変え追っ手をやり過ごし小国を脱出し、自分の国の森の中の隠れ家にたどり着いた。
魔法使いは俺の形や色など、色々な本や羊皮紙を調べたりしていたが芳しくない様だ。
魔法使いという事で今度こそ俺のことをしっかりと鑑定してくれるかと思っていたが期待が外れた。
置かれた棚の上から、冷めた目?で魔法使いを見ていた。
研究も芳しくなく荒れた日々を過ごしていた魔法使いのもとへお客がやってきた。
何か仕掛けがあるのであろう魔法使いはお客が来る前に身支度を多少整え始めた。
扉のノックがして、魔法使いはにこやかな顔でお客の応対をした。
訪れてきたのは薄汚れた格好の旅の戦士?である。
戦士はここに住む魔法使いで間違いないかと聞いてきた。
魔法使いは間違いないが何用でしょうと下手で対応する。
戦士が近隣の村に悪さをしている魔法使いがいると聞いたがあなたがそうかと問う。
魔法使いは村の悪さには心当たりがないが詳しい話を聞きましょうと戦士を家に通す。
案内された戦士にお茶を出して詳しい話をし始めたところで戦士がガクッと上体をテーブルに突っ伏した。
「おやおや、ずいぶんと毒の回りが早いことで」と言って戦士に近づいた魔法使いの腹から背中には細めの剣が突き通っていた。床に頽れた魔法使いの死亡を確認しながら「毒消しは得意な魔法なんでね。いや、人違いでなくてよかった」と戦士は言った。
それから戦士は近くに潜んでいたと思われる村人たちと合流し、魔法使いの死体を燃やし、村から盗まれたりしたものの回収などを行った。
戦士は村人たちからのお礼を断り、翌日には旅立ったが俺は村で盗まれた物でなく、何かしらの『ポーション』であるから路銀の足しにしてくれと言われ無理やり戦士に持たせられた。
戦士はこの後も同じようなことを繰り返して旅をしていた。
西で盗賊が出るといえば討伐し、東に魔物が出るといえば討伐し基本的には報酬をもらうことがない。
討伐依頼が出ていて報酬があれば貰うが、報酬も出せない小さな村などは手弁当で討伐に向かう。
基本、無口なので一体どんな男なのかさっぱりわからないが、どうやらなにがしかの修行の旅を続けているようだ。
そして『解毒:キュア・ポイズン』や『治癒:ヒーリング』の魔法を使う。
ただの戦士ではない様だ。
そんな奇妙な戦士との旅は2年くらい続いた。
そしてそんな旅のある酷い雨の日に一晩の宿を提供してくれた農家に俺はお礼として渡された。
この時は路銀が乏しくてお金が無かったのである。
気の良い農家のおやじはお礼なんて要らないといったが、あんまり断るのも悪いと思ったのだろう大人しく受け取った。
俺はその農家の荷物箱の中に入れられた。
農家は小麦農家のようで生活は裕福ではなかったが、家族仲は良く明るい笑い声がよく聞こえた。
年頃の娘が偶に俺を荷物箱から出してこの家ではきれい目な布で拭いてくれる。
俺は何といっても『衝撃保護』の魔法の掛かった『秘薬』である。磨いてもらえれば作られた時と同じようにピカピカのガラス瓶になる。
伯爵家にいた頃を懐かしんで涙?が出る思いである。
この農家の荷物箱の中には1年くらいいた。
その後、俺は娘の嫁入りの持参品の足しのため売られることになった。
娘のためになるべく高い金額で売れるよう頑張る所存である。
そして俺は今、『石板』の上でその表示さた文字を見て感涙に咽び泣いている。
【若返りの秘薬・ロンゲヴィティポーション】
効能:飲んだものはただちに十歳若返る。この効果は永久的であり、魔法等で破られることはない。
若返ったことによる記憶への影響はない。
お、俺の効果が鑑定されたのである。
もう、正直諦めていた。
誰も俺の本当の効果など解らないのだ。
ずっとどっかの海底とか悪い魔法使いの家だとかで埋もれて忘れられて‥‥と。
し、しかも、
「買取り価格は金貨3,000枚になります‥‥」
いままで、金貨1枚が最高金額だった俺が‥‥。
こ、この女性は若く見えるが相当高名な魔法使いなのだろう。
俺の事もよく観察し詳しいことも教えてくれる。
俺は緑色のガラス製の小瓶の本体と差し込まれているガラス栓、隙間には緑の蝋で封がしてある。このあたりから帝国のアルバタール朝、400~500年ほど前の製造だそうだ。
あの魔法使いは全然解っていなかったみたいなのでこの女性が別格なのであろう。
小麦農家のおやじと俺が吃驚して思考が止まっている間に話は進み、冒険者ギルドというところでもう一度鑑定してもらうらしい。
結果、俺は金貨3,301枚で売られることになった。
やり手の魔法使いの女性に感謝である。
娘の持参品の足しには十分だろう。
幸せになってくれ。
それから俺は冒険者ギルドというところで詳細に調べられ、その後にも魔法使いが一杯いる塔で更に調べられた。
この後、王宮に運ばれて王様の手に渡るそうだ。
やっと俺が飲まれる日が来たのだ。
永かった、自我が目覚めてたぶん200年くらい。作られてからは400~500年ほど。
何度諦めたことか。
しかし、今やっと『若返りの秘薬』としての自分の存在意義を証明できるのである。
王様に会うのが楽しみである。
そして今、この国の王様に前にいる。
まぁ、今まで何人かの王様を見てきたので別に緊張とかはしないが、たぶん今までで一番大きな国の王様で一番威厳もありそうである。
ただし、王妃様のほうがもっと威厳があるが。
そして宰相もいる。
教会の最高司祭もいる。
魔法使いの塔の長もいる。
騎士団長もいる。
四人くらい侯爵もいる。この国に公爵は居ないそうなので貴族の最高位である。
表面上は荒ぶっていないが、水面下では喧々諤々のやり取りが繰り広げられる。
王様が使うのがいい、いや王妃様だ。
最高司祭に次代が決まっていない。
魔法使いの塔の長がぼけ始めている。
などなど、会議は連日行われ。
結果、俺の扱いは保留となった。
俺は今日も王宮の宝物庫で不貞寝する。
「メリッサ・スー魔法古物店へようこそ ~魔法古物の査定、鑑定、買取、販売いたします~」
EP12.13 『若返りの秘薬』と農民1.2
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