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4日目:星空への誓い

どうもどうも!

今回はキャンプの日です!みなさんはやったことありますか?

私はあります!

すごい楽しい!


「ですから前に言ったでしょう、真面目で内気な少女を演じるって」


朝から私はため息混じりに結菜ちゃんに怒られている。


「何回言わせるんですか」


「ごめんなさい……」


昨日のことがあって、私は結菜ちゃんのことを警戒していたのだ。

急に夕方になったのに、平然とお土産買いに行きますよ〜なんて言うからだ。

宿に帰ってからの夜ご飯、お風呂、寝る時、起きてから……

私の警戒が溢れ出ていたらしく、結菜ちゃんはとうとう今朝、口を開いた。


もしかして私のこと警戒してます?


と。

それから彼女はスイッチが入ったらしく、ずっと怒っている。


「私だって驚きましたよ!急に夕方になって!しかもいつのまにか先輩がいなくなって……そんなことには見向きもしないあいつらについて行って!」


あいつらとは枝元くんと森原くんのことだろう。

結菜ちゃんはビシっと視線を送り、昼ごはんを食べている彼らの体を震わせた。


「そしたら急に場面転換しやがって!いつのまにか神社の前にいるんですから!先輩が戻ってきたのは良かったものの、一体どうなってるんですか!この村は!このクソキモ趣味持ち神!まじで腹立つ〜」


「そんなこと言ったら神様に呪われちゃうよ〜」


「私は先輩のこと心配していたんですよ!あのまま先輩がいなくなったら私、どうすれば良かったんですか……!」


そう言って涙ぐむ彼女は、本気で私のことを心配してくれていたんだなと思う。


「ごめんね。心配してくれてありがとう。でも私はほら、ここにいるし。だから泣かないで」


「別に泣いてなんかいませんよ……」


グスッと音を立てて、メガネを外して顔を覆っている様は、誰が見ても泣いているようにしか見えない。


「そうだ!今日のテント泊、同じ班にならない?結菜ちゃんがいればきっと楽しいと思うの!」


テントの中は男女で分かれる。その為、新しくグループを作らないといけないのだ。女子は7人。3人4人で分かれるはずだ。


「せんぱ〜い」


ふいい〜と抱きついてきた。かわいい。


「皆さん、今日はキャンプの日です。存分にこの村の自然と、食材に触れて、良い思い出を作ってくださいね。」


そっか。今日1日は、お風呂の時と、具合が悪くなった人しか使わないから、みはやさんはいないのか。


「……昼食を食べ終わりましたら……皆さんはキャンプ場へと向かいます……集合時間に、遅れないように……」


そうして、私たちはキャンプ場に向かうこととなった。

みはやさんが、玄関に提灯を下げている。


「なんですか?これ」


思わず聞いてしまった。


「これは今日の神の光が収まる場所。こうして玄関に吊るせば、ここに来てくださるのよ」


何を言っているのか、よくわからなかった。


「4班全員いまーす」


点呼が終わり、さざめさんの後についていく。

1日目の時もさざめさんの後ろについてここまで来た。

なんだかずいぶん昔のような気がして、しみじみする。

まだ4日目なのに。

さざめさんに関してはまだ知らない事だらけだ。

呪いの耐性って何なのか、どこの人なのか、どんな人なのか。

人形のようにまるで感情を表に出さない彼女は難しい。

……さざめさんにも、心を開ける人がいるのだろうか。


10分ほど歩いて、ほんの少し山を登ったところにキャンプ場はあった。


「お待ちしておりました。ここのキャンプ場の責任者で、今回のアドバイザーを務める、三浦です。よろしくお願いしますね」


ガタイのいい男性だ。40代くらいだろうか。お父さんみたいだ。


「……私は急用ができましたので……宿に戻ります……三浦さんはベテランなので、何かあれば彼に……では」


急用ってなんだろうと思いつつ、三浦さんに目を向ける。


「それでは皆さんには、今から近くに散歩しに行ってもらいます。場所の把握は大事ですからね。ついでに役立ちそうな物も取ってきてかまいません。」


説明を聞いて、私たちは散らばる。


「先輩行きますよ」


「うん」


森の中を進み、苔むした階段を登り、獣道のような場所をしばらく歩いていると、本当によくできた村だなあと思ってしまう。神様が作ったからと言われればそれまでだが、作り物にはどこかにひびがあるものだ。

急に時間が進んだり、場面転換するのはおかしいけど、それ以外の欠点が見つからないのだ。

すると、私たちは祠を見つけた。


「なんだろう、これ?」


二人で見つめていると、後ろから声をかけられた。


「これはこの村の神様の祠だ。」


振り返ると、三浦さんがいた。


「触るんじゃないぞ。この神様は少し短気で荒いんだ。それに、触った者は異界に連れ去られてしまう。」


異界って……ここも十分異界なんですけど……


「あの、異界って、なんですか?どんなとこ……」


結菜ちゃんが質問すると、三浦さんは凄い形相で私達を睨んだ。


「それは聞いてはいけない。教えてはいけない……そういう決まりなんだ。ごめんな」


結菜ちゃんは黙りこくってしまった。

聞いてはいけない、教えてはいけないって、一体どんな異界なんだよ。隔離でもされてるのか?

……まあ、どうせそこも神様の作ったおかしな村みたいな場所なんでしょ。


「二人とも、ここに長居しないで、戻ろう。ここに来ていいのは、神巫様だけなんだ。」


それって、もみじのこと……?


シャン


これって、この音って……


「あら?今日は賑やかだこと。神様のもとにお客さんが迷い込んでしまったのかしら?」


木陰から姿を現したのは、やはりもみじだった。


「……もみじ……」


「柊花じゃない!一体どうしてここに?……あら?三浦さんに、女の子!あなた名前は?」


俯いた顔をあげて結菜ちゃんが口を開いた。


「……え、えっと……平田、結菜、です……」


相変わらず演技が上手なことで。結菜ちゃんって演劇部なの?


「柊花のお友達かしら?ふふっよろしくね〜……三浦さんがいるということは、あなた達、今日はキャンプの日なのかしら?」


「は、はい、神巫様、どうかお許しを。ここにいるのはただ、迷い込んだだけで……すぐに戻りますので!」


「……三浦さんがついていながらなぜ……とは思いましたけれど……」


もみじの言葉が低く、圧が加わったようだった。周りの空気も一瞬変わる。


「でも、柊花がいるのなら仕方がないわ、この子、私の神社にも迷い込んだのよ!かわいいでしょう?」


え、私、迷い込んだ扱いされてるの!?

あの時は考え事をしていて、霧で神社に気づかなかっただけなのに……


「ただ……そうね、本当はここにいてもらいたいのだけれど、これから2日後のお祭りの用意をしなければならないのよね……」


「そうですよね!では、私たちはこれにて失礼いたします!」


そう言って、三浦さんは私たちの首根っこを捕まえて、バヒューンとその場を離れた。


「ああっ!もみじ!」


彼女は私たちに手を振っている。

キャンプ場に着いて、結菜ちゃんが口を開いた。


「……先輩、あの人と知り合いなんですか?」


「うん。もみじっていうの」


「……あの人が神巫様なら、先輩、何かにつけ込まれてしまいますよ。」


ああ、そうか。そういえばみはやさん、言ってたっけ。

結菜ちゃんにとって、もみじは化け物みたいな認識なんだ。

確かに、昨日の朝はちょっと怖かったけど……


「もみじは、別に悪い人じゃないよ。優しくて、鈴のような笑い方をして、美人でかわいい、一人の少女」


「……この村にいる人たちは、警戒した方がいいですよ。身のためにも。先輩も、そう思っていたんじゃないんですか?」


「それは……」


1日目は確かにそう思っていたけれど、もみじと話して、本当にみんな信用できないのかって言われたら、そうでもない気がしていたんだ。

この村に来る前、夢であおばを通して聞いた、本当の彼女の声。もしあれが本当なら、彼女もこの村の被害者なのかもしれない。最後に見せた、あどけない顔が彼女の本当の姿だとしたら……


「とにかく先輩はあの人にもう会ってはいけません。」


「……うん……」


私はもみじを助けたいと思ってしまう。


「二人とも、手伝ってくれるかい?」


三浦さんが呼んでいる。


「何すればいいんですか?」


「ちょっとね。」


三浦さんに着いていくと、そこは物置の倉庫のような場所だった。

釜や、網、小物や棒のようなものまで、何に使うのかよくわからないものが多くあった。

小窓から光が差し込んでいて、暗くはない。


「ここにあるものを外に運んで欲しいんだ。」


指さしたのは木製の棚。バーナーやライト、クーラーボックスなどが置かれている。


「わかりました。」


私たちはこれらを持って外に運び出す。

食材などはあらかじめ三浦さんが用意しているらしく、屋根のある場所で作業をし始めている。

重たい荷物を持ちながら私は空を見上げた。青空がとても綺麗で、鳥が空を飛びながら鳴いている。

どんな鳥だろう。どこに帰るのかな。

そんなことを考えていると、風が、さっきまでいた、もみじの方に向かって吹いた。

思わずそちらを見ると、金色の光が、ふわふわと漂っている。

それが風に巻き上げられて村中に行き渡る。

結菜ちゃんにも見えているようで、驚きながらも綺麗……と口からこぼしていた。


「今年も成功したんだね。」


三浦さんが後ろに来て言う。


「あれってなんですか?」


「あれは、神の気のようなものだ。村中に振り撒いて、今年の儀式の合図をするんだ。気を放つことができるのは神巫様だけ。2日後のお祭りでも使うんだよ。」


「へえ……そんなすごいことを、もみじはやっているんですね」


「君は、神巫様と知り合いなのか?」


「……はい。私はもみじのこと、友達だと、思っています。……私にとって特別な存在です」


「……先輩……」


「そうかい、神巫様はいつも一人だからね。きっと彼女も、そう思っているんじゃないかな」


そうだと、いいな。


「さっ!荷物を運んでくれてありがとうね。もう大丈夫だよ。さっきの場所にはくれぐれも行かないように。」


そう言って、三浦さんはまた作業に戻ってしまった。


「先輩、行きましょう」


結菜ちゃんに手を引かれる。

金色の光が、頬をくすぐった。


しばらく歩いていると、木に登って虫をとっている子がいたり、川で小魚をとっている子もいた。

川の流れは穏やかで、涼やかな音が気持ちいい。


ほんの少し小高い丘に登ると、村を一望できた。


「この村、こんなに広かったんだ。」


宿も見える。温泉も見える。商店街も見える。相変わらず、山は高くて、その奥は見えないけど。

さっきの金の光はもう飛んでない。だけど、光で溢れかえっているのはどうしてだろう。

ふと、来る前のみはやさんの言葉が蘇った。


「提灯の中に入ったんだ」


きっとほとんどの玄関に提灯が下げられているから、こうして光が消えることがないんだ。

三浦さんがお祭りで使うって言っていたけど……一体どんなことが起きるんだろう。

少しだけ、楽しみになった。


あっという間に夕食の時間。

三浦さんが用意をしてくれていたおかげで、説明を聞きながらご飯を作れる。


「結菜ちゃん、野菜洗ってくれる?私、ご飯やるから」


「わかりました!」


みんなで火を起こしたり、食材を切ったり、たまに失敗してわちゃわちゃやるの、高校入学したての頃のオリエンテーション以来だな……

学校に泊まって、学校生活で覚えることを叩き込まれたっけ。

あの時はカレーライスを作ったけど、今回はピラフだ。

大きなお鍋でかき混ぜて、みんなで机を囲んで食べる。

オリエンテーションの時はグループごとだったから、こうやって大きな机でご飯を食べるのは少し新鮮。

エビも、ネギも、貝も、いろんな具が黄色いご飯を彩っていてとても美味しそう……あれ、エビと貝って、この村、海ないのに、どうして……?


「夕食も終わったところで、テントを張りに行ってもらいます。場所は、先ほどお散歩に行ったみなさんに任せます」


私たちはさっきの倉庫に向かい、テントやシュラフを持ち出す。


「男女別れて、グループを作ってくださいね」


私は周りを見た。あと一人か二人、誘わないといけないからだ。

すると、肩を突かれた。


「あのぅ……よかったら、一緒になりませんか?」


振り向くと、私より小柄で、ぱっつん前髪の女の子がいた。


「もちろん!私は柊花。よろしくね」


「……結菜です」


「えっと、愛莉です。お願いします」


彼女は中学2年生らしい。この合宿では最年少だ。……と、結菜ちゃんに教えてもらった。


「せ、ん、ぱ、い、頼りにしてますよ?このテントメンバーでは最年長なんですから、しっかりしてくださいな」


「う、うん……」


まあ、あとは寝るだけだし……


近くの男子に手伝ってもらいながら、テントを張り終えて中に入る。


「実は、宿からトランプを借りてきたんですよ〜やりましょう?」


楽しそうな愛莉ちゃんの顔は、とても眩しくて、あとは寝るだけと思っていたさっきまでの感情はすっかりなくなっていた。




「あがりです!」


現在私たちはババ抜きをしている。

神経衰弱、スピード、7並べ、大富豪……

私と結菜ちゃんはまだ一度も勝てていない。


「……なぜ……なぜですか!あなた、何か仕組みました!?おかしいですよ!どうして一度も勝てないんですか〜」


結菜ちゃんがわなわなと言っている。


「私ちょっとお手洗い、行ってくるね。」


こう言う時は気分転換をすると勝てるのだ。

テントのチャックをあけ、外に出る。すると……


「わあ、きれ〜!」


夜空は満点の星々で埋め尽くされている。

天の川も、今にも川の流れに揺られて動き出しそうだ。

なんです?と、二人も出てきた。


「わあ、」


「すごいすごい!」


私たちは夜空に吸い込まれるように、首が痛くなっても打ち付けられた。


「星々が舞い降りてくるようですね……夜空の精霊みたい……」


「結菜ちゃんナイスな言葉」


「あ!」


流れ星……


ふと、昔の情景が蘇った。





「見てみて!流れ星だよ!湊!」


「うん!えっと、何かお願い事を……」


「もう流れちゃったよ?」


すると、湊が私の顔を見てこう言った。


「ずっと、ずうっと、いつまでも、柊花のこと忘れないから。だから……」


「?」


「柊花の心の中にも、僕がいてね」


答えるように、流れ星が流れた。





私、ずっと忘れないから。町に戻ったら、一番最初に湊に会いに行くから。……だから、


「待っていてね、湊」


勾玉をぎゅうっと握り締めた。


流れ星が二つ、流れた。


「ああ!漏れる漏れる!星空め!私に恥をかかせる気かーっ!」


「急いでください!」


こうして、私たちのテント泊は始まったのでした。


いかがでしたでしょうか?

柊花の願いは叶うのでしょうか?

では、また次回〜

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