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3日目:夏だ!村だ!もうやだ〜

今回の話は割と重要になってくるかもしれません。

重くなりすぎない程度に、楽しんで書きますので、是非最後まで読んでくださると嬉しいです。

今日もお散歩をしている。

霧の中、昨日と同じ道を通って。

昼間はあんなに蝉の声がすごかったのに、朝はその気配すら感じられない。


「……着いた……」


昨日と同じ、朱色の大きな鳥居。

でも、奥にもみじの姿はない。

昨日より少し早く来たからだろうか。

私は鳥居をくぐって中に入る。


シャン……


また鈴の音だ。一体どこから聞こえているのだろう。


「来たのね。いらっしゃい」


声のする方を見ると、そこにはもみじが立っていた。

昨日とはまた違う着物を来ている。

薄い桃色に、黄色の模様が入った、可愛らしい着物だ。


「ちょっと早く来ちゃった。大丈夫……かな?」


「ええ、大歓迎よ。来て」


もみじについて行く。昨日と同じ部屋に案内されるのかと思ったら、どうやら違うらしい。


「柊花に、これを見てもらいたかったの」


もみじが襖を開けると、そこには沢山の木彫り人形が雛壇のように並べられていた。

人型のもの、熊、鳥、鹿……様々な人形がこちらをじっと見つめている。


「この子達は、合宿に来た学生さん達が作った私のお友達なの。柊花も作るのでしょう?」


コクリと頷く。

確か5日目に作る予定だ。

どんなものを作ろうかなんて考えてなかったし、半分忘れていた。


「柊花が作る木彫り……私、楽しみ」


そう言って、もみじは人形の元へ近づいて行く。

そして、一つ、人形を手に取った。


「……この子はね、昔、私が作った子なのよ。かわいいでしょ?あおばっていうの」


小さな、可愛らしい女の子の人形だ。

ちょこんともみじの手のひらに座っている。

……どことなく、もみじに似ている気がする。


「すごい……もみじって、手先が器用なのね……」


着物の模様や、しわ、顔など、すごく細かく作られている。

造形美というやつだろうか。

内側から放つ美しさが溢れている。


「そんなことないわ。これくらいの大きさなら教えて貰えばできる。……たまに失敗しちゃう子もいるけれど」


そう言ってもみじが見たのは、落としたらすぐに首が取れそうな人形、翼の折れた鳥などだった。


「かわいそう……」


口から出たのは、この言葉だった。


「……柊花はそう思うのね……私はね、この子達は失敗されるために生まれてきた人形だと思うのよ」


「失敗されるために……?」


随分と冷たいことをいうものだと思った。


「完璧なんて存在しない。全てはそのものの定めによってありとあらゆる出来事が積み重なっていく。運命が、私達を繋げたように」


「……何を、言っているのかよくわからない」


もみじの様子が少しおかしい。今までの美しさ、可愛らしさが消え、虚に、怨念を込めたような彼女の気迫に押される。


「……柊花に、これを渡そうと思ったの」


そう言って私の手を持ち上げるもみじの手は少し震えていて、とても冷たかった。


「もみじ?大丈夫?」


私の問いかけを無視して渡されたそれは、鏡のついた小さなネックレスだった。

周りの金の装飾が複雑に絡み合っている。


「……これは?」


「……あなたを守る、大切なもの。その勾玉のネックレスより、ずうっと効果のあるものよ」


私の胸元にある勾玉のネックレスに指を突きつけながら、そう言い放つ。

なんてことを言うんだ。これは私にとって大切なものなのに。


「それは、私が預かるわ。その代わりにこれをつけてちょうだい」


もみじが私の勾玉のネックレスに手をかける。

外されようとした瞬間、私はもみじの手を払いのけていた。


「やめて!これはとても大切なものなの。あなたには分からないでしょうけど、これは渡せない。このネックレスもいらないわ。私、もう戻らないと」


もみじの手に鏡がついたネックレスを返して、その場から離れる。


「よかった……」


後ろでもみじが言った気がする。思わず振り返ると、霧が私の視界を遮る。


「……もういい。もみじなんて、知らない」


私は走って宿に戻った。




「先輩、どうしたんですか?なんだか元気がないみたい……」


「え?なんでもないよ」


流石にもみじに強く当たりすぎたのでは……帰ってきてからずっとそのことを考えている。

しかし、今日は茶道の練習が出来ると内心ワクワクしていたのも事実である。

せっかくもみじともっと仲良くなれるチャンスだったのに。もうやだよ〜

……約束、したのになぁ……


「もしかして、昨日私がのぼせて、他のところに回れなかったから怒ってます!?」


「違う違う!違うよ?」


確かに残念だったけど、そこまで気にしてない。

この村は範囲は大きいけど、規模は小さい。

自由行動で行くとしても、商店街、温泉、飲食店くらいしかないのだ。

村の外へは大きな山が塞がっているし、体験系は合宿中にやるし……

大体は午前中に外に出て、午後は宿に戻ってゆっくりするか、山に散策に行く。


「気にしないで、大丈夫だから」


「そうですか?ならいいですけど……」


ジトーと見られる。お茶碗に夢中になっているふりをする。

結菜ちゃんは、小さいため息をついて、ご飯を食べ始めた。



「4班行くぞー」


枝元くんの声についていく。

前に枝元くんと森原くん、後ろに結菜ちゃんと私だ。

そういえば、枝元くんが言っていた儀式、昨日聞きそびれちゃったな。

今、枝元くんは森原くんと話しているし、結菜ちゃんに聞いてみよう。


「結菜ちゃん、燈凛神社の儀式って知ってる?」


「はい?」


「昨日、枝元くんに教えてもらったの。女の子しか出られない、特別な儀式なんだって」


「……それって、確か60年前くらいに無くなってますよね?」


「へ?」


60年前に無くなってる?じゃあ、どうして枝元くん知ってるの?


「私はおばあちゃんから聞いたんですけど、神隠しが起こらないように、町の16歳になった女の子は1日、神社にこもって巫女の体験をしながらお清めをしてもらうんだとか。人数が多いので、10日に分けて行っていたそうですよ。16歳の女の子は多感で、生命力が強い歳でも弱い歳でもあるらしく、神隠しに遭いやすいらしいんです。おばあちゃんが体験した訳ではないので、少し違うかもしれませんが」


「……どうして、無くなったんだろう」


「時代と共に、そういうのは馬鹿馬鹿しいと思う人が増えたそうですよ。だから今の町には血や土地にこだわる人、そうでない人がいる」


そうなんだ〜と言いつつ、枝元くんの後ろ姿を見る。そして、突然聞いてみたくなった。


「ねえ、枝元くん」


ん?と、振り返る枝元くんの顔は、いつもと変わらない。

だけど、これだけは絶対に聞きたい。


「何年に生まれたの?」


「え?なんだよ、突然、」


「枝元くん」


「え、ええと……1948年、だけど……」


結菜ちゃんと顔を見合わせる。


「なら、森原くんは?」


「僕は1947年だけど……」


「お前らはいつ生まれだよ?」


「私は2011年生まれです」


「私は2010年……」


ん?ん?どう言うこと〜??


「つまり、私達は違う時代から来たって言うこと?ん〜、枝元くんと森原くんが同じで、私と結菜ちゃんが同じ時代……」


それに気づいたところで、私は耳にした。


シャンシャン


またこの鈴の音……今回は2回だ。


瞬きをした瞬間、私はさっきとは違うところにいた。

急に、あたりは夕方になり始め、少し薄暗い坂に立っている。


「どうして、私……」


辺りを見回しても、誰もいない。車の音もしない。

とりあえず、下まで降りよう。坂の下には人がいるかもしれない。

ゆっくりと、一歩ずつ歩いていく。すると、どこかから声がした。女の人の声だ。その声の主が誰なのか、すぐに分かった。もみじだ。


「5日後……5日後にここに来て。さもないと、あなたはナニカに囚われる身となるわ」


カーブミラーからだ。そこから声がする。


「もみじ!ここはどこなの?」


問いても彼女は話さない。

すると、10秒ほど間をおいて、声がした。


「……私はあおば……仲介者よ。本当のもみじがここにある……柊花の夢に出たのも、私……」


あおばって、人形の?だから最初に会った時、もみじは私のこと知らなかったんだ。私の名前にほんの少し反応したのも、あおばを通してもみじに情報が入っていたから?夢に出てきた人がもみじだと思ったのも、あおばがもみじそっくりだったから……


「私は柊花に忠告をした。だけどあなたはここへ来た。きっと運命なのね。運命には抗うことができない。60年前、儀式が無くなってから、もみじは自分と同じ思いをする人を無くしたいと思い続けて、神に仕えることを頑張ってきた。だけど、限界が来てしまった」


「どういうこと?詳しく教えて!」


「ごめんなさい。これ以上は教えられないの。いい?5日後よ。またここに来て」


だんだん霧が濃くなっていく。


「待って待って待って!またいなくならないで!もみじ!」


声は届かず、気づいたら見覚えのある場所にいた。


「ここって……神社……?」


灯陰神社と書かれた大きな朱色の鳥居。もみじがいる神社だ。


ふと、記憶が蘇る。


……坂の下の神巫様には話しかけられてはならない。……


ああ、そういうこと。

もみじって、神巫様だったんだ。

ナニカに囚われて、私は私でなくなる。

昨日の朝のみはやさんの言葉と視線が蘇る。

なんだ、もみじと一緒にいること、みはやさんにバレてたんだ。


「おーい!」

枝元くんの声だ。


「何してるの?」

森原くんの声だ。


「行きますよ!お土産買いに行きましょう!」

結菜ちゃんの、声だ。


ああ、夕方になってるの、気づいてないの?

私は、この村に来た時点で、……いや、あのポスターを見た時点で、この村に飲み込まれ始めていたんだ。

これが定めというのなら、これが運命だというのなら。

……だったら、抗って見せようじゃないか。この村に。


「ごめんごめん!行こうか」


私は、負けない。



いかがでしたでしょうか。

柊花、トウカ、10日?10という数字に何かあるんでしょうか。

次回は0から一切登場しなかった、あの子に集点を当てたお話にしようと思います。

これからも楽しく書いていこうと思いますので、評価をしていただけると嬉しいです。


2日目の時に言うべきでしたが、今、柊花がいる灯陰村は、ほかげと読みます。


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