2日目②:ゆっくりまったり湯に浸かろう
2日目②のタイトルは温泉っぽいですが、そこまで温泉に関して長く書くつもりはございません。
とある合唱曲に当てはめるとピッタリきますよ〜
最近その曲が頭の中を駆け回っていて困ってるので、発散させてください。
何せ、いい歌詞すぎて、沢山考えてしまうんです!
私達は、宿を出てからしばらく歩いている。
辺りの蝉の声が村中に響きわたっている。
「それにしても、坂の下の神巫様なんて、本当にいるのか?」
「言い伝えに噂、非現実的なものだから、何とも……バスの中から外を見てはいけないっていうのも、実際見てないからわからないよね……」
枝元くんと森原くんが言う。
どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、私にも分からない。
高1の結菜ちゃん、高2の私と枝元くん、高3の森原くん。
正直、森原くんが年上なことには驚いたし、枝元くんは私より身長が低い為、最初は年下だと思っていた。
二人の学年も、自由行動が始まる前に結菜ちゃんが教えてくれたのだ。
「ねえ、今日はどこ行く?温泉もどこにあるのかな〜?」
言い伝えや噂なんか気にしていたら、せっかくの合宿も楽しめない。
村から出るのも頭の片隅に。
だって、楽しむ為にここに来たんだから!
「せっかくなら、温泉行きたいけど……俺らそういうの調べてないから……」
そんな事を考えながら適当に歩いている。
「……ここは、どうですか?」
そこには木の看板が立っていて、こう書かれていた。
「灯陰温泉この先200メートル先……良いんじゃない?ここにしよう!」
宿のお風呂では落としきれなかったものも、ここでなら綺麗さっぱり落とせそう!
看板の奥に進んでいく。
小道になっていて、脇には紫陽花が植えられている。
この時期でもこんなに綺麗に咲いていられるのは、ここが涼しいからかな。
見えてきたのは、木造で横長の建物。
所々に煙突が付いていて、そこから湯気が出ている。
立て付けの悪い木の玄関扉を開けて中に入ると、そこには誰もおらず、電気も数カ所まばらについているだけだったので、声をかけてみることにした。
「すみませーん、誰かいらっしゃいますか?」
すると、暖簾の奥から人が出てきた。
すごく年老いたおばあさんだ。腰は曲がり、眼はほとんど閉じて、白髪も薄い。
今にも倒れそうな足取りだから支えたくなる。
私達に気づいている様子ではなく、前を通り過ぎていった。
「ええ……」
すると、また暖簾の奥から顔が出た。
今度は年老いたお爺さんだ。でも、目は開き、フサフサの白髪が頭にある。
「ばあさん!お客だよ!」
その声はおばあさんに届かず、別の部屋へ入っていった。
「ごめんな。あいつ最近老化が激しくて……それで、君たちは?」
「俺ら、ここの温泉に入りに来たんです。今、大丈夫ですかね?」
するとお爺さんは目を見開いて、嬉しそうな声色でこう答えた。
「ああ、構わないよ。最近はお客が少なかったから、嬉しいなぁ……君たち合宿の生徒さんでしょう?」
「そうですけど……」
もみじといい、どうしてみんな知っているんだろう。村だから、情報伝達が速いのかな?
「ああ!やっぱり!10年に一度の君たちはこの村にとって大事なお客様だ。心一杯におもてなしをしよう。」
10年に一度ってことは、やっぱり毎年合宿をやっていた訳じゃないんだ。
ポスターを見た時の疑問が一つ解決した。
「10年に一度……この村にとって……?」
結菜ちゃんは何やら考え事をし始めた。
それから、お爺さんのお陰でおばあさんに伝わり、私達は温泉の用意をしてもらった。
私と結菜ちゃんはおばあさんに、枝元くんと森原くんはお爺さんについていく。
「ごゆっくりね。のぼせるんじゃな〜いよ。」
とても明るく、棘のない声色は、どこぞのおばあちゃんとは対照的だ。
シャワーを浴びて、温泉に浸かる。
ああ〜染みる〜確か、肩こり、冷え性、筋肉痛、肌荒れに効くんだっけ?
温泉の外に書いてあったけど、よく見なかったから覚えてない。
隣にいる結菜ちゃんは、メガネを外していてなんだか不思議。メガネをかけている彼女も可愛いけど、かけてない方もすごく可愛い!
美人だな〜と思いながら疑問に思ったことを聞く。
「結菜ちゃんも、神社のポスターを見てここに来たんだよね?」
「そうですけど……」
「なら、結菜ちゃんも燈凛高校の生徒なの?」
燈凛神社に来ていたってことは、近くに住んでいるということだ。同じ学校でも何ら不思議ではない。
「違います。私の家は血や土地にこだわらない家系なので。まあ、それでも私は純血なんですけどね〜」
燈凛町には血や土地にこだわる家系とそうでない家系がある。
おばあちゃんはこだわる人だが、おばあちゃん自身、町の人と別の街の人との混血だ。
「私は隣街の私立高校に通っています。ブレザーを着たかったので。」
「いいな〜私は中高どっちもセーラー服だから、ちょっと羨ましい……」
そこでふと、あれ?と思った。こだわりの強いおばあちゃんが町から私を出すなんて、珍しいなと。
「そういえば、先輩、」
「ん?」
「私思ったんですけどね……、いえ……まだ確信を持てないので、まだ、大丈夫……です」
結菜ちゃんは何を言いかけたんだろう?
途中で言いかけるのはなかなかやめてほしい。知りたくてウズウズするではないか。
すると、彼女は、言えなかった言葉を埋めるように、鼻歌を歌い出した。
「その歌……」
「今年の合唱コンクールで、クラスで歌う曲です。夏休みに覚えるのが宿題で……先輩知ってますか?」
「私も中学生の頃歌ったな〜懐かしい……」
その歌を歌った年は、湊と同じクラスだったからよく覚えている。
湊が指揮者になったんだっけ?
私はソプラノで、同じソプラノパートの子が湊のことを好きになっちゃって……
結局振られちゃったけど、その子、学校一の美女だったんだよね〜
あ〜、彼女達の陰口が鮮明に思い出せる……
確か、合唱コンクールが終わった後……暑さがまだ残る、10月の初めだったかな……
「だから言ったでしょ?湊くんはやめなって。」
「ひっぐっ……うっ……だって……」
「湊くんには穂鞠さんがいるから〜」
「人の初恋を邪魔しないでほしいよねー」
「噂だと、勾玉が二人を惹きつけてるとか……」
「え?そんな物語みたいなことある?」
「さあ、見つけ出して隠しちゃおうよ」
「いいね〜いや、あんたが持てば両思いになれるんじゃないの?」
「ひっう……っそ、そうかな、あ……」
当時それを近くで盗み聞きしていた私は、モヤモヤして、拳を握り締めようとしたら、スカートを皺クチャにしちゃったんだっけ。
勾玉は両思いとか、そんなことのための物じゃないっての。
普段からずっと身につけていたから、盗まれることはなかったものの、私達の関係が壊されるんじゃないかと内心ビクビクはしていた。
「人の心を温かく包み込んで繋げる、元気が出る歌ですよね。」
「え?ああ、そうだね」
そんなことがあったから、素直にそうは思えなかった。
温泉に入ってるからかな。こんなフレーズが頭に浮かんできた。
「ゆっくりまったり湯に浸かろう〜♪」
「やめてください。なんか違います」
そう言って私は結菜ちゃんにお湯をかけられた。
「あ、その勾玉のネックレス……お風呂の時も外さないんですね。」
「え?ああ、これ?うん。私の大切なものなの。ある人とお揃いなんだ。」
「ふうん……その人のこと、よっぽど好きなんですね。」
ニタリと笑ってやがる。
「ち!?違うし!!」
私は結菜ちゃんにお湯をかけた。
温泉から上がると、枝元くんがラタンの椅子に座って牛乳を飲んでいた。
彼がこちらに気づくと、小さく手を振ってくれた。
「あれ、一人?」
「あ、うん。結菜ちゃん考え事するから先上がっててくださいって。のぼせないといいんだけど……」
「ふうん……健太郎は、長湯が好きなんだとよ。あいつものぼせるんじゃね?」
どうだろうね、と言いながら、私もお金を入れてコーヒー牛乳を取り出す。
「10分経って来なかったら様子見に行こうか。」
「おう」
枝元くんの隣のラタンの椅子に座って一息ついてから、瓶の冷たさを感じつつ蓋を開ける。
温泉上がりの一杯めは、いつでも口の中に入り込むまで興奮するものだ。
コクリ……
「ん〜やっぱり美味しい!苦味と甘味が口の中で溶けて……最高だ〜!!」
美味しくて足をパタパタする。
「穂鞠さん、すごい美味しそうに飲むね」
「だって美味しいもん!至高の一杯って瓶には書いてあるけど、これは最高だよ!枝元くんも最初の一口目美味しくなかった?」
「いや……俺はそんなに気にしてなかった。」
勿体無いと思いつつ、目の前にある時計の秒針を眺める。お風呂上がりはコーヒー牛乳が沁みると同時に、眠たくなる時間でもある。
ぼーっとしていると、枝元くんが口を開いた。
「そういえば、俺と穂鞠さんって同い年なんだっけ?」
「うん」
……はっ!もしかして、遠回しにコーヒー牛乳くらいで興奮するなんて子供っぽいって言おうとしてる!?
「じゃあ、燈凛神社の儀式ってもうやったの?あれ、男子は出来ないからすごく気になるんだよな〜」
「え?」
そんなのがあるなんて知らなかった。
やってない、何それ、と言おうとしたら、振り子時計から10時を知らせるチャイムが鳴った。
10分経ったということだ。
まだ二人は来ていない。
「様子見に行こう。」
「ああ……」
話し遮ってごめんね。また後で話すから!
と、思っていたが、温泉に入っていた二人は案の定のぼせて倒れていて、私達は手当てが忙しく、そんなことは忘れるのであった。
いかがでしたでしょうか?
健太郎くんは置いておいて、一体結菜ちゃんは何を考えていたのでしょうか……
悠くんが言いかけた儀式って何なんでしょうか……
今後も楽しく物語を書いていこうと思いますので、成長のためにも評価をしていただけると嬉しいです。
これからもお願いします。