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6日目:灯の祭り そのに

夏休みの宿題終わらない!

と、半分泣きながら物語の世界に逃げ込んできました。

というのは嘘です。

やっと昨日宿題終わったので今日から再開します!


チャカリンドンチャカシャンシャン


灯陰村のお祭りが始まった。

屋台の道を歩いていると、後ろから小さな子供達が走っていく。

仮面をつけたり、りんご飴を持っていたり……子供のすることってどこでも変わらないんだなあ……あ、転んだ。

転んだ男の子はヘへっと笑ってまた走り出す。


「……どこだっけ?」


私は今、担当する屋台を探している。

合宿の生徒は、一人一人、事前に決められている屋台でお手伝いをしないといけない。

私はお祭りが始まる16時から18時にシフトが入っている。確か宇宙玉すくいだったはず……

合宿にスマホの持ち込みが禁止なため、連絡を取り合うことも、居場所を調べることもできない。

しばらく歩いていると、目印の青い旗が見えた。


「あった!」


そこまで走っていくと、看板には確かに宇宙玉すくいと書いてあった。

どんなことをするのか全くわからない。

お祭りのお手伝いなんてやったことないし、宇宙玉すくいも知らない。

役に立てるのだろうか……


「遅れてすみません!場所が分からなくて……」


私の声に反応して振り向いた女性は、顔を見るなりぱあっと笑いかけてくれた。


「良いのよ!こんなに可愛い子が手伝ってくれるなら大歓迎!暑かったでしょ?お裾分けしてもらったラムネがあるの。よかったらどうぞ」


ラムネを受け取りながら顔を見る。明るい茶色の髪を後ろで束ねた、気さくそうな女性だ。


「……かあさん、この人、誰?」


女性の足下に隠れているのは、小さな男の子。


「この子は今日手伝ってくれる……ええと?」


「あ、穂鞠柊花です。」


「柊花ちゃんね!私は芽衣。ほら、自己紹介して」


芽衣さんは隠れていた男の子を私の前に連れてきた。

私も目線を合わせるようにかがむ。


「……僕、雪斗。7歳だよ。」


「雪斗くんね!私は柊花。よろしくね」


そっと手を伸ばすと、一瞬ビクッと体を震わせて、雪斗くんも返してくれた。

7歳の手は小さい。ちょっと力を入れたら折れちゃいそう……

深い紫の髪に、私のことを信用していないような目。

芽衣さんにはあまり似てないような……

あれ、

この子、どこかで会ったことある?

妙な既視感を覚えたが、気のせいだと思うことにした。


「さあさあ!色々やってもらうわよ〜柊花ちゃんはこういうの初めて?」


「はい」


「そう!なら極意を伝授してあげるわよ〜」


それから、接客の仕方や勘定の仕方、宇宙玉すくいのコツを教えてもらった。

宇宙玉すくいはスーパーボールすくいと変わらない、いたって簡単なゲームだ。


「あの、どうして宇宙玉すくいを?」


別にスーパーボールすくいでもいいはずだ。

水に浮かぶ一つ一つの綺麗な玉を眺めながら聞いた。


「だって、ちょっと変わってる方がお客さんの目に止まるでしょう?」


確かに宇宙玉すくいなんて聞いたことがない。

一つ手に取って光に透かしてみる。

深い青の中には色とりどりの星が浮かんでいる。

中心には輪をまとった大きな星が浮いている。


「これ作ったんですか?」


「そうよ。最初はスーパーボールすくいだったけど、お願いして許してもらえたの」


へえ、と、持っていた玉を戻して他のも見る。

みんな同じようで違う。

全部作ったなんてすごいなぁと思いながら、芽衣さんを見上げた。


「じゃあ、私は灯り捧げの儀式の用意があるから〜よろしくね!分からないことがあったら雪斗に聞いてもらえれば少しは役に立てると思うから」


そう言って芽衣さんは行ってしまった。

雪斗くんと二人きり。何を話せばいいのやら……ふと隣の屋台を見ると、アスパラ焼きそばと書かれた出店があって、そこには森原くんがいた。


「あれ!森原くん」


「あ、穂鞠さん、どうも」


「アスパラ焼きそば?ここでもアスパラガスなんだね」


えへへと頭を掻いて、森原くんは恥ずかしそうに顔を隠した。

アスパラ焼きそばはどれも美味しそうで、種類も豊富だ。あとで買おうと思っていると、子供達が声をかけてきた。さっきの子達だ。転んだ男の子は膝を擦りむいて少し血を流している。だけどほとんどもう乾いていた。


「あの、宇宙玉すくいやりにきました!」


「ありがとうね〜200円です。君、よかったらこれ使って?」


子供達にお金をもらいながら転んだ男の子に絆創膏を渡す。


「ありがとう!家に帰るのめんどくさかったからどうしようかと思ってたんだ!」


そう言って彼は水道に行って膝を洗う。

役に立ててよかった。

そう思いながら宇宙玉をすくっている子供達を見ていると、別の男の子が私の後ろに声をかけた。


「あれ?雪斗じゃん!」


「あ、えと、うん。こんにちは……」


雪斗くんはすっかり私の後ろに隠れてしまった。


「なんだ〜誘っても一緒に行かないっていうから冷たいやつだなって思ってたけど、お手伝いしてたんだな!」


何も悪気はなく言っているんだろうけど、多分雪斗くんは……

すると、一緒にいた女の子が口を開いた。


「ちょっと、雪斗くんかわいそうでしょ?あの子、私たちと話すの苦手なんだから……」


「あ、そっか。じゃあ、また学校でな!お姉さん、ありがとうございました!」


私達に手を振る彼らが遠くへ行くと、嵐が通り過ぎたように、急に静かになった。


「あの子達、お友達?」


「……別に、友達じゃない。ただのクラスメイトだよ」


「そっか」


すっかり顔がそっぽを向いている。

もしかして、雪斗くんは人見知りな性格なのかな……

深掘りするつもりはないけれど、ほんの少し好奇心が湧いた。


「……僕、本当は友達になりたいし、一緒にお祭りに行きたい。でも、声をかけるのが僕にとってすごく勇気のいることなんだ」


「そうなんだ」


確かに私も初対面の人には話しかけにくいところがある。

雪斗くんの場合、それが当たり前で、日常なんだろうなぁ……


「私、話しかけるのに勇気がいる時に、この勾玉を触るの」


胸元にある勾玉を雪斗くんに見せる。


「雪斗くんの大事なものがあれば、勇気が出ないかな?」


雪斗くんは微妙な反応だ。

私は紙を取り出して描き出した。


「これあげる。雪斗くんに勇気を分けてあげるね」


紙にはあまり上手じゃない勾玉の絵が描いてある。

それを折りたたんで雪斗くんの胸ポケットに入れてあげた。


「こうやって、懐に入れておけばきっと勇気が湧くから。根拠はないけどね」


雪斗くんは、私の顔を見て、ありがとうと呟いた。

そこで、誰かに似ている雪斗くんに言いたいことが出来た。


「それに、きっとあの子達、雪斗くんと友達になりたいんじゃないかな?」


「え?」


「だってお祭り一緒に行こうって誘ってくれたんでしょ?雪斗くんにとってちょっと辛い言葉に聞こえても、一度、向こうには悪意がない、自分に興味を持ってくれているって思えば少しは勇気が湧かないかな?」


辺りはだんだん暗くなり始め、提灯の光が映えるようになってきた。

その光が、淡く、私たちを包み込む。


「相手を信じてみて」


誰のことも信用していないような目。その目には今、提灯の光が灯り出した。

綺麗で透き通った茶色が、前髪からのぞいていた。


「……僕、頑張ってみようかな」


水に浮かぶ宇宙玉が、コツンとぶつかった。

音も立てず、静かに距離を縮めて。

その後はまた何人かお客さんも来て、あっという間に時間が過ぎて行った。


「柊花ちゃん、お手伝いしてくれてありがとうね〜助かった!」


芽衣さんが帰ってくると時刻は18時。既に二時間経っていた。


「こちらこそ!貴重な体験をさせていただいて……あの、今から雪斗くんとお祭りに行くのはダメですか?」


「え?柊花ちゃんがいいならぜひお願いしたいけど……」


「雪斗くん、どうかな?」


私は雪斗くんと目を合わせて聞いてみる。

正直私のわがままでもあるのだ。結菜ちゃんがこれからお手伝いで、一人でお祭りは流石に楽しめないから。

雪斗くんとなら楽しめることもあるかもしれない。

それに……


「どうしてそこまでしてくれるの……?」


「だって私達友達でしょ!」


私達は友達になったのだ。理由なんていらない。些細なことでも友達だと思えるんだってことを彼に教えたい。

雪斗くんはみるみるうちに顔に花火が咲いて、うん!と答えてくれた。



人が多い。村人だけじゃないと思えるほどに。村の外からもきてるのかな?だとしたらどこから?

神様ってこの村の外も作っているのかな。

本当に、にぎやかだ。


「まずはどこ行きたい?」


「お腹すいたからご飯食べたいな」


ご飯で思い出した。

アスパラガス……


「アスパラ焼きそばとかどう?」


「いいよ!」


3人待ちだったからすぐに順番が回ってきた。

森原くんはもういない。

メニューを見ると、思っていたより種類が多かった。


「塩…エスニック…トマト…ソース…雪斗くんはどれがいい?」


「僕ソース」


「じゃあ、ソース2つとラムネ2つください」


2番人気なため、あらかじめ用意されていたものを受け取る。

食べる場所がないかを探していると、出店と出店の間にベンチを見つけた。


「ここで食べようか」


「あ、ちょっとかき氷買ってくる!先食べてていいよ!」


行ってしまった……

先食べるのはなんだか気が引けるから、ちょっと待ってようかな。

ベンチに座って待っていると、声をかけられた。


「……あれ、……穂鞠、さん?……」


「あ、さざめさん」


「…………」


……ん?何?さざめさん止まっちゃった……


「あ、さざめさんはどうしてここに?もしかして一人ですか?」


「……いえ、私は仕事が、あるので……」


そうなんですね、仕事か〜そういえばさざめさんは案内人だったな。

案内人の人ってこういう所でどんな仕事しているんだろう。


「……穂鞠、さんはどうしてここに?」


「私は人を待ってるんです。これからご飯で」


「……ああ、友達がいていいですね」


「おかげさまで……」


なんだかさざめさん疲れてる?隈ができてるような?


「柊花お姉さん、この人、誰?」


いつのまにか雪斗くんがさざめさんの後ろに立っていた。

かき氷二つ?私の分も買ってきてくれたのかな?


雪斗くんの顔を見た瞬間、一瞬だけさざめさんの表情が揺らいだ気がした。


「……あ、30分後に神楽舞が広場で始まるので、行ってみたら、どうでしょう?……えっと、では…」


さざめさんは、今まで見たことのない速さでそそくさと行ってしまった。

あれ、

もしかしたら雪斗くんに既視感を覚えたのはさざめさんが原因、かも……



「神楽舞……?」


「この村のお祭りでは、毎回神巫様が舞を舞っているんだよ。母さんが言うには神様とお話しをするんだとか?」


「そんなのがあるんだ……」


燈凛町の神楽舞は毎年年始に行う。巫女が行うのが普通だけど、確か今年は色々上手くいかなかったみたいで湊がやっていた。


「この前神巫様が村中に振り撒いた光を村人が神様に返しに行くんだよ!そうすると村人の思いを神様に伝えることが出来るって言われてるんだ。提灯行列って言われてるよ」


へえ、作り物の村でもそういうのするんだ……


「いちごとメロン、どっちがいい?」


「じゃあ、いちごで」


はい、と渡されたかき氷は少し溶けていて、それでいて冷たかった。

カップがしんなりしている。

みんなどうしてるかな?

ついこの間食べたかき氷の時の光景を思い出す。

あと4日。もう少しで帰れる。

10日って長いなぁなんて思っていたけど、もう6日も過ごしたと思うと少し寂しさが湧いてくる。

そんなことを思っていると、突然雪斗くんが私の顔を覗き込んだ。


「ねえ、シロップってみんな同じ味なの知ってる?」


「え?ああ、うん。香りと色で脳の錯覚を起こしているんでしょ?」


「そう。……お姉さんは、錯覚を見破れる力、あるかなぁ?」


え?


今なんだか彼の声が濁った気が……気のせいかな?


ニコニコとかき氷を食べて、頭がキーンメダル!とか言っている彼を見ながら、少しだけ、不気味に感じていた。


「食べ終わったら神楽舞、見に行こう!」


満面の笑みを浮かべている雪斗くんに寒暖差を感じて体が震えた。


「う、うん……」


なんだったんだろう。


食べ終わって片付けると、神楽舞の場所に行くついでにヨーヨー釣りや射的で遊んで、今は二人で綿飴を食べている。


「こっちだよ!」


案内されるままについていくと、角を曲がったところで一際明るい空間に目を細めた。

そこには立派な舞台が作られていて、始まるのを待つ人で混み合っていた。


今からもみじの神楽舞が、始まるんだ。


次回は神楽舞!

綺麗なもみじをお見逃しなく!

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