0. 祭りの先に
この作品は、夢で見た内容をもとに書かせていただきます。
8月2日の夜、夏祭りに来ていた穂鞠柊花は、神社の掲示板に貼ってあるポスターに目を止める。
そこには、夏期合宿について書かれていて、柊花はそれに参加することにする。
「キャンプに、天体観測に、木彫り体験!なんだか楽しそう!」
と、期待を胸に抱きながら……。
ボンボン チャカチャカ シャン ボンチャカチャカ
「まもなく、第36回、燈凛町花火大会が始まります」
どこかのスピーカーからアナウンスが聞こえる。
ああ、もう少しで始まっちゃうのに。
「もう〜みんなどこ〜?」
水色のヒラヒラと泳いでいる裾が邪魔だなと気にしつつ、カラカラと鳴る足元が痛いなと思いつつ、人探しをしている。
私の名前は穂鞠柊花。
16歳の高校2年生である。
友達4人で地元のお祭りに来ていたのだが、どうやら私はたった今迷子になっているらしい。
ただでさえ浴衣を着ていて動きずらいのに……。
周りの屋台はどれも明るくて、そこにいる人達はみんな楽しそうな顔をしている。
チョコバナナ、ヨーヨー釣り、かき氷、射的、金魚すくい、りんご飴……
歩けば歩くほど、活気と笑顔がそこら中にあることがわかる。
そんな中、一人で焦りながら彷徨っている私は、少し浮いているのだ。
人の多さが悔やしい。身長の低い私が人混みに飲み込まれるのは、大体分かってはいたけどっ……!
……楽しさに夢中な皆さんはそもそも私のことなど気にも止めないだろう。
「なんでこんな時にスマホが手元にないの〜」
今頃、スマホは家のベッドの上で静かに眠っていることだろう。
スマホを忘れたことに気づいた時に、家に戻るのがめんどくさくてそのまま来てしまった過去の自分を恨む。
ため息をつきながら、トボトボと歩いていると、何かが目に止まった。
そこに目をやると、掲示板があって、2枚のポスターが貼ってあった。
一枚はお祭りの予告ポスター。
もう一枚は……。
「夏期合宿のお知らせ?」
中高生限定!夏期合宿のお知らせ〜10日間のかけがえのない思い出をあなたに〜
と書かれたそのポスターには、いつからいつまで何をするのか、どこに行くのか、連絡先などが書かれていた。
「こんなの、今まであったっけ?」
生まれてからずっとここで暮らしてきたが、こんな夏期合宿があるのは初めて知った。
でも、
「キャンプに、天体観測に、木彫り体験!なんだか楽しそう!」
きっと毎年やっているわけではないんだろう。来年は受験で忙しくなるし、今年参加するのは悪くないだろう。
10日間は、少し長い気がするが、私の好奇心は止められない。
あとでみんなにも伝えよう、と思いながら、その場を離れようとすると、
「……待ってるわ……」
どこかから女の人の声がした。
「あ。見つけた!柊花!こんなところで何してるの!もう花火始まるよ」
「あ、うん!今行く!」
今のはどこからの声だったんだろう。
不思議に思いつつ、その場を離れた。
真由の浴衣姿……後ろから見ても美しさが爆発している……私も身長高くなりたい。
花火はもう、始まっている。
みんなと合流してから夏期合宿について話したが、塾があったり、大会があったり、旅行に行ったりと、予定が合う人がいなかった。
じゃあ、私一人で行こう。それで、どんなに楽しかったか自慢してやるんだ!
帰ってきたらみんなにお土産でも渡すか。
そんなことを思いつつ、いちごのかき氷を頬張った。
「うっわ、頭キーンってする〜でもおいし〜っ!」
「柊花ってば、そんなにいっぺんにかき氷食べたらお腹壊すよ?」
「平気平気。真由も早く食べないと溶けちゃうよ?はい、あーん」
真由の口元に、私のいちごのかき氷を乗せたプラスチックのスプーンを持っていく。
「……美味しい……け、ど!あんたは勝手に人を撮らない!」
そう言って真由が指をさしたのは、同じく一緒に来ている颯太だ。
「だって、二人のイチャイチャはいつでも美しく撮れるんだもん」
今度は真由と颯太のイチャイチャが始まった。
「二人とも、ほら、もうすぐで花火も盛り上がりどころだよ」
私たちが今いる丘は、花火がよく見えるスポットの一つ。人は多いけど、策士、湊のおかげで場所の確保ができている。
湊とは家が近いこともあって、物心つく前から一緒にいる。
そして、ここの神社の家系の子で、次期当主候補にもなっているそうだ。
6歳の頃、私のおばあちゃんは私たちに勾玉をくれた。
昔、おばあちゃんは神隠しにあったことがあるそうだ。
その時にここの神社にお世話になったらしい。
そして、その時にもらったのが、今は私と湊が持っている勾玉。
神社の家系の者とそうでない者が持つと、勾玉の力によって強い縁で結ばれ、神隠しに遭いにくくなるそうだ。
どうしてお母さんには渡さなかったのかを聞いたら、どうやらお母さんはここで生まれ育ったわけではないらしい。
お母さんはお爺ちゃんの連れ子で、6歳の頃にやってきた。だからこの土地の血は入っていない。そんな理由で町の人たちに忌み嫌われ、学生の頃にはひどいいじめにあっていたそうだ。
そして、お母さんは私を産んだあとにこの町を出て行った。
なんでも、おばあちゃんが、ここの血が流れる子を置いて出ていけ、と、強く訴えたそうだ。
お爺ちゃんはその時、何も言わずにただ傍観しているだけだったらしい。
おばあちゃんのそういうところが昔から理解できなかった。どうしてそこまで血や土地に執着するのかが。
そんなに気になるなら、お爺ちゃんと再婚しなければよかったのに。とも思った。
だが、一度好きになった相手を諦めるのはそう簡単ではないそうだ。
……だったら余計な口出しするなよ。クソババア。
そう思うのも、私の中に半分別の土地の血が流れているからか。
……まあ、勾玉が湊とお揃いなのは、嬉しいけど。
浴衣の中にしまってある、ネックレスの紐を通されている勾玉。
青緑色で、茶色の斑点がある。
いわゆる地球色だ。
そっと、手を当てると落ち着く。
ダダーン ダーン ダダダーン
花火が、休みなく美しく咲いている。
「お母さん、どうして夜空の花火は心に響くの?」
昔、お母さんの町の花火大会で、そんなことを聞いたことがあった。
「ん〜、花火って、大きくて丸くて、真ん中から広がるでしょ?」
「うん」
「だから、水の波紋みたいに、静かなところに大きくて綺麗なものが広がるから、じゃないかな?」
「心の中にも水があるの?……よくわかんない」
「じゃあ、帰ったら作ってみようか」
「うん!」
その年に自由研究で作った、水槽の中の花火は、学校で表彰されたんだっけ。
確か、水槽の中に水を入れると、花火が咲いたように開くギミックを仕込んで……
あれは今までで一番よくできたと思う。
……おばあちゃんは、あの娘が手を加えたものが、と、表彰されたことを良く思っていなかったけれど。
最後の一つ。一際大きな花火が、今年のこの町の花火大会の終幕を告げた。
周りの人たちが拍手を送る。もちろん、私も。
次第に拍手がやみ、人々が次第に家路に向かって足を動かしだすそれは、いつ見てもどこか哀愁を漂わせる。
私たちも、レジャーシートやゴミを片付けて歩き出す。
「あ〜楽しかった!今年も花火大会終わっちゃったね〜」
「来年もまた来ようね、と言いたいところだけど、受験がね……」
「それをいうな。俺はそんな現実知らんぞ」
も〜、颯太ったら〜と、笑いと会話を交える帰り道が、いつまでも続いてほしいと思ってしまう。
そして、掲示板の前を通り過ぎる。
シャン……
鈴の音を、誰も聞き取ることができなかった。
掲示板に、夏期合宿のポスターは、貼っていない。
…………。
茂みの奥で、誰かが笑う少女を見つめている。
お祭りが終わって、お風呂も入って、今は自室で悩んでいる。
「なぜだ……なぜ私はあのポスターの内容をこんなにも覚えているんだ?」
自分でも驚くべきことに、鮮明に思い出すことができるのだ。
「これが写真記憶……とうとう私の才能が開花したのか!?」
私の記憶力は、平均か、それ以下である。そんなことあるか?いや、そんなはずは……
そして、いいことを思いついたのだ。
「そうだ!書いてみよう!」
パン、と手を鳴らし、一枚の紙とシャープペン、色鉛筆を取り出し、完全再現しようと試みた。
しかし……
「ん……あ、れ……?」
文字にして書き起こそうとしたところ、どうにも霧がかかったかのように、書きたかったことが書き出せない。
思い出すことは、できるのに……
「ん〜、今日はもう疲れたし、寝るかぁ……」
急な眠気に襲われたので、ベッドに潜り込む。
難しいことはまたあした……あした、そうだん、しよう……。
ウカ……トウカ……ダメ……キチ……コナ……デ……
気づくと、私は真っ白な空間にいた。
何?誰?
私の前にいるのは、巫女装束をきた少女。
年は私と大して変わらないくらいだ。
だけど、とても大人びていて、濡羽色の髪の毛は、とても清潔感がある。
そして、長いまつ毛の奥の漆黒の瞳は、真っ直ぐに私を見つめている。
佇まいも、まるで大人のそれだ。
口は動いていないのに、言葉のような音が聞こえる。
キタ……ラ……コウカ……ス……ル
どういうこと?何を言っているのかよくわからない。
…………。
少女は、最後に悲しそうな目で微笑んで、だんだんと霧の中に消えて行ってしまう。
待って!あなたの名前は?
少女は振り返って、口を開いた。だけど、声は出ていない。
頑張って口の動きを確認する。
……もみじ……?
少女は一瞬だけあどけない笑顔をして、霧の中に消えていった。
ゆっくりと目が覚める。
あの子のことをもっと知りたい。
その思いを抱えたまま。
朝ごはんの時に、家族に昨日見たポスターの内容を話した。
「だからね、そこに行かせて欲しいの。3年生になったら受験で忙しくなるし、今年しかないと思うの!お願いします!」
朝から頭を下げたのは初めてだ。でも、こんなにも必死になるくらい、心の中はそのことでいっぱいだった。
それが家族にも伝わったらしく、
「いいよ。いってきなさい」
「気をつけるんだよ」
お父さんとお爺ちゃんは理解してくれた。
おばあちゃんは……
「変なのを持ち帰るんじゃないよ」
まあ、いつものことである。
合宿当日。
私たちは、朝の7時30分に集められた。
人数は15から20人程度。
指定のバスに乗り込む。
「……今から皆さんは、夏期合宿へ向かいます……」
深い紫の髪をサイドに流し、隈の濃い虚な瞳は、どこを見ているのか分からない。
担当のガイドさんが少し不気味で怪しいのは、そういう演出だろうか。
「……注意点……バスの外の景色は、決して見ないでください……」
外を見てはいけない?どういうことだろう。
「これから向かう村は、言い伝えや噂が古くから多くあり、その一つに、関係者以外の人は村の場所を知ると呪われるというものがあります……」
その言葉を聞いた瞬間、周りの子たちがざわつき始めた。
無論、私も少し怖い。
「……運転手さんは村出身、私は呪いに対する耐性がついておりますので大丈夫ですが……」
呪いに対する耐性とは?まあ、だからあんな感じなのかも。
「……皆さんは、くれぐれも、外の景色を見ませぬよう、お気をつけください……」
確かに、バスの中は入った時から黒いカーテンが閉められていた。運転席の方は見えない作りになっているから、正面の窓は全く見えない。後ろはトイレになっているから、おそらく、途中休憩なしで行くのだろうか?
何にせよ、普通じゃないことは分かった。
思い描いていた楽しい合宿ではない気がする。
それはそれでスリルがあって面白そうだが。
……今更になって、無理にでも誰か連れてくるべきだったと後悔している。
いかがでしたでしょうか?
柊花の合宿はまだまだ始まったばかりです。
今後も楽しく物語を書いていこうと思いますので、成長のためにも評価をしていただけると嬉しいです。
これからもお願いします。




