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遠いの簗

 東の空から日が昇り、山も川も鉄道もすべてが黒点のセクシーな太陽の腹から出発した景色を見ていると、それら風景にあるなだらかな輪郭は単純で抽象的な線へ還元され、太陽との対に位置する、時間軸の終点として振る舞う黒い巨人の目から出発した視線であることが判明する。2点間に起こった様々な歴史について、それが一見してどれだけ複雑な線をなぞっているようにみえても向かいの巨人にはすべて目で追われているし、東に浮かぶ太陽から出た単一方向の範疇である。これが客観的にみた世界の構造で、人はこれ以上先へ出ていくことはできない。あらゆる主観を総合して世界であるし、語られない主観に対し沈黙することも世界には含まれている。歴史の全域にはあらゆる自由が分布し、人間社会の全域には色違いの義務が整然と立ち並んでいる。時間をいっぱいに満たすため人間賛歌は止まることを知らない。だから僕は人間賛歌から除かれた人たちの気持ちがよくわかった。護身術教室へ通うのは、もはや夜道の奇襲にしか希望を持つことができない哀れな連中だということも知っていたし、流行りのノスタルジーに耽りまくってその実ポルノ中毒と何ら変わらない身体に成り果てた連中のインポテンスな日々も、自分の実情に気づかないだけ幸せだったということを、それを僕たちは教訓にするのではなく自覚として胸に刻んだまま交通事故か生活習慣病で死んでしまえばいい。内科医が表立って生活習慣病の防止に励まないのにはそういった理由がある。帰りに自転車で通りかかった車屋の、緑色をした水道ホースのラインが膨らんで敷地から歩道側にはみ出ているのを見たとき、傍からは無機的にみえていた仕事というものの実態は有機的な繋がりからなるという閃きに寄った再確認を経て、やっと瞬発的にハンドルを切って目の前の障害物を避けながら自転車に乗ることができるようになったねというくらいの誰も上達具合の指標にしない幼少期のある日、数字でいえば457くらいキリの悪いタイミングで、ポケットのスマホが振動して「ありがとう」という一言だけのメッセージ。さっきまでしていたチャットの相手は大抵そう言って話を終わりにするから、ポケットに入れながらでもバイブレーションだけで内容が分かった。残すはタイミングだけでとっくに会話は成立していたんだ。言ってしまえば、既読をつけるのもちょっと面倒くさい。だけどそんな気怠さから来る省エネ化を啓蒙するには、僕はちょっと歳を食いすぎている。逆に他の誰かが省エネを主張していると、僕はソイツが若いではなくて自分が歳を食ったんだなと一旦我に返って来てしまう、疲れやすい、あるいは表情として疲れが出やすい年齢にとうとう浸食してきてしまい、今乗っている自転車だってこれ以上は日常生活の範囲では上達不可能なところまで来ていた。さてこれから人生どうしていこうというときだ。映画のフィルムか走馬灯のように時間関係を解釈する前提のコンテンツのあらゆる場面に身を潜める少女Vの存在を僕は追い求め続けているし、だからといって他の人たちも同様に興味を持っているとは言い切れない。その事実に臆して自らスケールを縮めにいった哀れな連中が列を成し、西の太陽の赤いカーテンの中に向かっていく背中が奥へ行くほど真球に近づくのは、なんか分からないけど少女V以上に理に適っているような気がした。

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