第29話「機械と化す意志」
第29話「機械と化す意志」
■蒼木 蒼 視点
「自動化完了。SNS投稿スケジューラ、投資アルゴリズム、広告収益計算──すべて動作良好」
私はAIスクリプトのログを確認しながら、無表情のまま呟いた。
「これで、私自身が動かなくても“義務”は遂行される。人間性など不要」
新たなデバイスには、駿介が独自に開発した言語解析ツールがインストールされている。彼の手により、怒りのトリガーが自動抽出され、拡散対象が効率的に選ばれる仕組みが整っていた。
「駿介……人間のままでいて。あなたは、私のようになってはいけない」
だが、口には出さなかった。もう言葉で止める段階ではない。
■井上 美和 視点
「出たわね……この女、ついに完全に人間やめた」
私は怒りに震えながら蒼の最新動画を見た。
《義務処理プロトコル起動》という無機質なタイトル。背景音楽もなく、ただ事実の羅列、数字の提示、責任の名指し。
「これじゃあ、まるで“処刑通知書”よ……人の顔と名前を並べて、晒して、“義務”で済ますなんて……!」
私は父の写真立てを掴み、涙ぐんだ。
「パパが悪かったかもしれない。でも、家族ごと“データ処理”されるなんて……人間じゃない……!」
■橘 美咲 視点
「蒼木さんが、自分のSNSを自動運営化したって……?」
私は呆然と画面を見つめた。
「彼女、もう“社会”と会話する気すらないのね……」
視線を逸らすと、弟・駿介のPCに映る新しい動画素材が目に入った。
《義務002:教育系YouTuber虚偽発言集》
「駿介、あなたも止まらないの……?」
私は扉の前で立ち尽くした。
兄妹で同じ地獄に足を踏み入れようとしている。その実感だけが、体温を奪っていった。
■橘 駿介 視点
「姉さん、僕は止まらない。
だって、“あいつら”がまた何も変えないなら、僕がやるしかない」
私は新しい動画の音声編集を終え、最後にひとこと吹き込んだ。
「蒼木さんが作ったのは“道具”じゃない。
これは、“道”だ。誰かが歩かなきゃ、何も変わらないから」
再生ボタンを押すと同時に、フォロワー数が急激に増加していく。
「俺も、“装置”になる」
■山本 佳奈 視点
「やりすぎだ……もう、十分だろ……」
佳奈の手の中で、小さな刃が震えていた。
「蒼木蒼も、その弟子みたいな男も……人の命を“数字”で測って、冷たく殺していく」
リビングには、夫・誠司の写真。無言でこちらを見ている。
「なら、私は“熱”で止める。人間の怒りで、機械を止めてやる」
■蒼木 蒼 視点(終盤)
最終スクリプト実行。
自動投稿、スケジュール管理、資金分配。全てが外部のプロセスで稼働中。
「私は、もう“意思”すら必要とされない」
部屋に鳴り響く通知。
《ターゲットファイルNo.234:処理完了》
《社会反応:暴徒化、拡大中》
《炎上:スポンサー企業17件撤退》
《アクセス:2,700万件突破》
私は静かに呟いた。
「正義が死んだ社会で、“機械”は最後の倫理になる」
その時、部屋の扉が開いた。
そこにいたのは──刃を握りしめた女だった。
「蒼木蒼……私は、人間の怒りであなたを止めに来た」
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