第22話「機械のような執行」
第22話「機械のような執行」
■蒼木 蒼 視点
「今日は、誰を消す?」
その言葉にすら、もはや感情はなかった。
目の前に並ぶのは、報道被害者の名前、日時、関係メディア、炎上度、社会的影響、広告効果、関連スポンサーの一覧。
アルゴリズムのように、私はそれらをソートし、並べ替え、数字の多い順に並んだ列の最上位をクリックする。
“ターゲット候補No.147:新潟地元紙・地方記者・三井亮介(49)”
彼は冤罪で職を失ったシングルマザーを、見出しだけで断罪した。
そしてその記事で得た報奨金は、12万円。
「12万円のために、誰かの人生を終わらせた。なら、私も同じルールで応じるだけ」
画面右上のスクリプトを走らせ、顔写真と自宅情報、過去の発言ログを抽出。
私はもう、“人間”ではなかった。
■佐藤 俊 視点(ユーチューバーB)
「蒼さん、……やめてくれ」
俺は画面越しに声をかけた。
それは自分でも分かっていた。もう届かないことを。
「君、本当にこのまま行くつもり? 人、また死ぬよ?」
「私が殺したと証明できるなら、証明してみなさい」
冷たい言葉が返ってきた。
「……こんなの、復讐でも正義でもない。これはただの、業務じゃないか」
「その通り。“義務”よ。正義ではなく、業務。あなたにはそれが理解できなかった」
「俺は、もう抜ける。もう無理だよ」
「構わない。あなたがいてもいなくても、私は進むだけ」
画面が閉じた。
俺は震えた。
彼女はもう、“意思”を持った装置になっていた。
■橘 美咲 視点(報道被害者の会)
「蒼さん、私も……もう、限界なの」
私は通話の中で、涙をこらえて言った。
「田中さんも、自殺した被害者も、誰も幸せにならなかった。あなたのやってることは、もう正義じゃないよ……」
「美咲さん。正義で人が救えるなら、母は死んでいない」
「じゃあ、あなたは何になったの? 復讐者? それとも、殺人者?」
「私は“業務執行者”よ。誰かがやらなければいけない、それを私がやってるだけ」
「それって……もう、心がないってことじゃない……!」
「心は、数字に負けた。私はその結果を受け入れたの」
私は通話を切った。
“彼女は、もう戻ってこない”。
■井上 美和 視点(記者の娘)
「蒼木蒼、次は新潟の三井亮介って記者を潰すって……」
SNSでその名前が急浮上し、私は震えた。
「また、誰かが殺される」
父・祐一の書斎に入ると、彼は無言でテレビを見ていた。
「パパ、何もしないの? またうちらみたいな家族が壊されるよ」
「……誰が止められる? あいつを?」
「じゃあ、私が止める。……直接行く。場所、特定した」
「おい、美和!」
「止めないで。誰かが物理的にでも止めなきゃ、もう蒼木蒼は止まらない」
私は拳を握った。
“怒り”が“正義”を超えた瞬間だった。
■蒼木 蒼 視点
自動投稿システムを起動。
《速報:新潟地方記者・三井亮介に関する報道被害検証動画、今夜19:00公開》
《#報道の代償 #命の価格 #義務の執行》
SNSは即座に反応し、トレンドに上がった。
リアルタイム収益予測は890万円。
「数字だけが、真実を語る。あなたたちが殺した命、その値段を見せてあげる」
カメラの前で、私は目を細めた。
「私は怒ってなどいない。怒りは、母を救えなかった」
「だから、私は義務を果たす。人を殺した報道には、数字で報いる」
それだけを呟いて、次の動画ファイルをエンコードにかけた。
■SNSログ(群衆の声)
《また誰かが狙われた……》《蒼木蒼、もう人間じゃない》《でも誰も謝ってないんだよね……》
《冷たい正義の具現化》《支持する。止まるな》《これはテロだ。誰か止めろ》
《俺がやる。あいつの居場所、分かった》
■ラスト:視点なし(演出)
カメラに映るのは、薄暗い部屋。
タイピング音だけが響く。
スクリーンには次のリスト、そして「実行中」の文字。
その裏で、何者かが夜道を走る。
手にはスマートフォンと、紙に印刷された蒼木蒼の自宅周辺地図。
正義と復讐、冷徹と感情、数字と血。
いま、それぞれが交錯しようとしていた。
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