第21話「義務の宣告」
第21話「義務の宣告」
■蒼木 蒼 視点
夜の画面は、静かに輝いていた。
SNSの通知は止まらず、株価チャートは今もじわじわと血を流すように赤く染まっていた。
「次の対象を決めるわ」
私は、報道被害者のリストを手に取り、机に並べた。
田中信也の死、父の壊れた姿、そして誰も謝罪しなかった現実。
「正義の代わりに、私は“義務”を選んだ。だから、私は止まらない」
淡々と、誰に言うでもなく口に出す。
「これは怒りじゃない。“タスク”よ。母の名誉を、数値で買い戻す作業」
その瞬間、スマホに通知が届いた。
《新たな報道被害者、関西地方で自殺》
《被害者は企業スキャンダル誤報の対象。元社員の50代男性》
私は唇を結んだ。
「決まりね」
■佐藤 俊 視点(ユーチューバーB)
「またやるんですか?蒼さん……もう、やめません?」
映像編集を終えた私は、深夜のビデオ通話越しに言った。
「僕らは、すでに“やりすぎた”んですよ。これ以上は、取り返しがつかない」
蒼の顔は、静かだった。
「俊くん、君はまだ“これは途中”だと思ってる。私は、もう“最終段階”にいる」
「でも、死人まで出てる。田中さんだけじゃない。さっきの関西の人も……」
「だから“やる”のよ。黙殺された命が増えるなら、それに“価値”を与えるのは私の仕事」
「……感情はもうないんですか?」
「感情? それが通じる世界なら、母は死んでない」
その一言で、俺は完全に言葉を失った。
■井上 祐一 視点(元編集部長)
「また死人か……あいつはもう、“言葉”じゃなく“数字”で人を斬ってる」
自宅のテレビで蒼木蒼の最新配信を見ながら、俺は呟いた。
「報道に誤りがあったなら、それを正せばいいだけだった。なのに“命”で返してくる……」
娘の美和がソファに座り、冷たい目で俺を見ていた。
「でも、パパたち、誰も正さなかったでしょ。蒼木さんにやられるまで、全部“放置”してた」
「……あれは業務だったんだ」
「だから“壊れた”の。あんたたちが“仕事”って言ったことが、誰かの人生を潰した」
「……俺はもう、記者じゃない」
「じゃあ“壊れた家族”を元に戻せる? 無理でしょ。蒼木さんも、たぶんそれが分かってる」
その言葉は、妙に冷たく、正確だった。
■橘 美咲 視点(報道被害者の会)
「また新しいターゲット……?」
ニュース速報を確認した瞬間、私は嫌な予感を覚えた。
「蒼さん、もう“復讐”ってレベルじゃない。これ、“戦争”よ」
電話口でそう言っても、返ってくるのは同じ冷たい声だった。
「美咲さん。正義は死んだ。私はその墓守なの」
「でも、それを他人に強制するのは違う。あなたが怒ってるのは分かる。でも、それだけじゃ……」
「“怒り”では人は動かない。“義務”なら、動ける」
「それ、本当にあなたの“意思”なの? それとも、あなたも何かに“動かされてる”だけ?」
その問いには、沈黙しか返ってこなかった。
■蒼木 蒼 視点
私は再び、配信を始めた。
「皆さん、こんばんは。今日も一人、新たな報道被害者が亡くなりました。
私は、その人の名前を、社会の記憶に刻む義務があります」
「皆さんは忘れるかもしれません。報道も黙るでしょう。でも、私は黙りません」
「だから、次の動画で、その人の人生を“数字”に変えます」
「視聴回数が100万に届いたら、それは“社会が一度は見た命”という証明になるでしょう」
私は続ける。
「これが“義務”です。あなたが見ないなら、私が見せる。あなたが語らないなら、私が記録する」
「それが私の生きる理由です」
■SNSログ(群衆の声)
《蒼木蒼、また新たな復讐ターゲットを指名》
《義務という名の制裁》
《怒りは冷却し、義務になった。止められない》
《これ、もはやテロだろ》
《でも誰も他に何もしなかったよな》
■蒼木 蒼 視点(深夜)
「母さん。まだ、終わらない」
私はパソコンの前で、遺影に向かって呟いた。
「みんな、“私が壊れてる”って言う。でも、社会が壊れてたのよ。私は、それを“修正”してるだけ」
「次の名前は、社会に覚えさせる。名前と、人生と、死の意味を」
私はタイムラインを更新し、静かに微笑んだ。
「これは終わることのない仕事。“怒り”を超えて、“義務”になった。
だから、私は生き続ける。機械のように、誰も止められない速度で」
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