表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/31

第2話「復讐の方程式」


第2話「復讐の方程式」

■蒼木 蒼 視点


「100万円の慰謝料で、3000万円の広告収入が真理なら……」


私は、画面の向こうの視聴者に向かって、静かに言葉を紡いだ。


「私も、そのルールで戦うだけです」


背景は黒。表情は無表情。光はリングライト一つ。

そういう“演出”が必要なのは、よくわかっていた。


だって、この国では怒りよりも演出の方が信じられるのだから。


「また蒼木か……炎上商法にも程があるだろ」


週刊新報編集部では、山本誠司が苦々しい顔でノートパソコンを睨みつけていた。

テーブルには朝刊、横にはタバコの山。目の下には疲労と苛立ちが交互に刻まれていた。


「なあ井上部長、この“蒼木蒼”って女、やばいぞ。完全にこっち狙い撃ちしてきてる」


「知ってる。だが無視しとけ。かまうと余計に燃える」


編集部長・井上祐一は、淡々と指示を出した。

だが、その手は小刻みに震えていた。蒼木玲子の冤罪記事を出した当時の「成果」を知っているからこそ、その“燃え方”の威力も分かっていた。


「記者が飯食ってる映像だけで300万再生……バケモンかよ……」

「冷静にやれ。ネットの一発屋だ。所詮、感情商売は長続きしない」


「でも……こいつ、感情でやってねえぞ。数字で計算してやがる」


山本は、自分の言った言葉に鳥肌が立った。


■佐藤 俊 視点(ユーチューバーB)


「“100万円の慰謝料で殺された母”を“3000万円の広告収入で復讐”するって、どんな論理だよ……」


俺は頭を抱えた。

でも、同時に思った。


かっこいい。


いや、違うか。かっこいいんじゃない。“切れ味”があるんだ。論理の刃物みたいに。

炎上系動画の常識なんてとっくに越えてる。


蒼さんは最初の打ち合わせでこう言った。


「あなたの武器は編集と拡散。私の武器は怒りの構造化。合わせれば“戦争”になるわ」


「……誰と戦うつもりなんですか?」


「“嘘を金に換えた奴ら”全員」


そう言った蒼さんの目は、本当に何も映してなかった。


■蒼木 蒼 視点


私はホワイトボードに線を引いた。


「冤罪報道 → PV上昇 → 広告収入増加 → 報道継続」


「この“利益の循環”こそが、報道加害の再生産装置」


私はペンを止め、カメラのレンズを見据えた。


「ならば逆も、また真なり」


「ターゲット報道 → 炎上動画化 → 広告収入化 → 報道機関の経済的破壊」


静かに笑う。


「これが、“復讐の方程式”です」


■山本 誠司 視点(週刊新報・記者)


「おいっ!」


編集部で声を荒げたのは山本だった。


「なんで俺の妻の過去の飲酒運転歴が動画になってるんだ!? しかもナンバーまで写ってる!」


「知らんよ。個人情報がどこから漏れたかなんて……」


「こいつ、俺を狙ってる。家族まで……!」


部長の井上が深くため息を吐いた。


「お前な、蒼木玲子の件、ちゃんと精査したか?」


「……え?」


「たしかに“怪しい”書類だった。けど、それ“確定”だったか? 書いたのは……お前だよな」


「…………」


山本は黙った。


「“冤罪”って言われても仕方ない内容だったんじゃないのか? 今頃になって、回ってきたんだよ。報道のブーメランが」


「そんなこと……」


「だから俺は言ったんだ、“センセーショナル過ぎる”って」


だが山本は、それでも自分の正当性を守りたかった。

家族が攻撃される現実が、何より恐ろしかった。


「記者が正義でなくなったら、誰が真実を伝えるんだよ……!」


井上は、皮肉な笑みを浮かべた。


「視聴者だろ。今は、あの女が“真実”だ」


■蒼木 蒼 視点


動画の編集が終わった。

タイトルはこうだ。


《報道記者の妻、飲酒運転歴発覚。正義を語る家族の裏側》


私はコメント欄にこう記した。


「公共性? 私の公共性は、あなたの人生破壊です」


瞬く間に再生数は伸びた。

佐藤から通知が来る。


【24時間で1800万円突破しました】


画面を見つめる。

1800万円──母が殺された価格の、18倍。


「数字は、正義の証明にはならない。でも、怒りの価値は証明できる」


私は冷たく言い切った。


■SNSユーザー 視点(群衆の声)


「こいつら、どの面下げて“報道”とか言ってんの?」

「蒼さんの方がよっぽど真実語ってる」

「記者も家族も同罪。許されるわけないだろ」


怒りが渦を巻き、コメント欄が地獄と化す。


「こんな動画、拡散して当然だよ」

「家族を攻撃? だから何? 報道だって家族壊しただろ」


蒼の言葉が社会に広がる。

誰も止められない。


■蒼木 蒼 視点


私はカメラの前で、最後にこう言った。


「復讐には論理がある。これは感情じゃない。“方程式”です」


「あなたたちがやったことを、私はやり返しているだけ」


「これは正義ではない。だからこそ、止められない」


お読みいただきありがとうございます。


よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ