第2話「復讐の方程式」
第2話「復讐の方程式」
■蒼木 蒼 視点
「100万円の慰謝料で、3000万円の広告収入が真理なら……」
私は、画面の向こうの視聴者に向かって、静かに言葉を紡いだ。
「私も、そのルールで戦うだけです」
背景は黒。表情は無表情。光はリングライト一つ。
そういう“演出”が必要なのは、よくわかっていた。
だって、この国では怒りよりも演出の方が信じられるのだから。
「また蒼木か……炎上商法にも程があるだろ」
週刊新報編集部では、山本誠司が苦々しい顔でノートパソコンを睨みつけていた。
テーブルには朝刊、横にはタバコの山。目の下には疲労と苛立ちが交互に刻まれていた。
「なあ井上部長、この“蒼木蒼”って女、やばいぞ。完全にこっち狙い撃ちしてきてる」
「知ってる。だが無視しとけ。かまうと余計に燃える」
編集部長・井上祐一は、淡々と指示を出した。
だが、その手は小刻みに震えていた。蒼木玲子の冤罪記事を出した当時の「成果」を知っているからこそ、その“燃え方”の威力も分かっていた。
「記者が飯食ってる映像だけで300万再生……バケモンかよ……」
「冷静にやれ。ネットの一発屋だ。所詮、感情商売は長続きしない」
「でも……こいつ、感情でやってねえぞ。数字で計算してやがる」
山本は、自分の言った言葉に鳥肌が立った。
■佐藤 俊 視点(ユーチューバーB)
「“100万円の慰謝料で殺された母”を“3000万円の広告収入で復讐”するって、どんな論理だよ……」
俺は頭を抱えた。
でも、同時に思った。
かっこいい。
いや、違うか。かっこいいんじゃない。“切れ味”があるんだ。論理の刃物みたいに。
炎上系動画の常識なんてとっくに越えてる。
蒼さんは最初の打ち合わせでこう言った。
「あなたの武器は編集と拡散。私の武器は怒りの構造化。合わせれば“戦争”になるわ」
「……誰と戦うつもりなんですか?」
「“嘘を金に換えた奴ら”全員」
そう言った蒼さんの目は、本当に何も映してなかった。
■蒼木 蒼 視点
私はホワイトボードに線を引いた。
「冤罪報道 → PV上昇 → 広告収入増加 → 報道継続」
「この“利益の循環”こそが、報道加害の再生産装置」
私はペンを止め、カメラのレンズを見据えた。
「ならば逆も、また真なり」
「ターゲット報道 → 炎上動画化 → 広告収入化 → 報道機関の経済的破壊」
静かに笑う。
「これが、“復讐の方程式”です」
■山本 誠司 視点(週刊新報・記者)
「おいっ!」
編集部で声を荒げたのは山本だった。
「なんで俺の妻の過去の飲酒運転歴が動画になってるんだ!? しかもナンバーまで写ってる!」
「知らんよ。個人情報がどこから漏れたかなんて……」
「こいつ、俺を狙ってる。家族まで……!」
部長の井上が深くため息を吐いた。
「お前な、蒼木玲子の件、ちゃんと精査したか?」
「……え?」
「たしかに“怪しい”書類だった。けど、それ“確定”だったか? 書いたのは……お前だよな」
「…………」
山本は黙った。
「“冤罪”って言われても仕方ない内容だったんじゃないのか? 今頃になって、回ってきたんだよ。報道のブーメランが」
「そんなこと……」
「だから俺は言ったんだ、“センセーショナル過ぎる”って」
だが山本は、それでも自分の正当性を守りたかった。
家族が攻撃される現実が、何より恐ろしかった。
「記者が正義でなくなったら、誰が真実を伝えるんだよ……!」
井上は、皮肉な笑みを浮かべた。
「視聴者だろ。今は、あの女が“真実”だ」
■蒼木 蒼 視点
動画の編集が終わった。
タイトルはこうだ。
《報道記者の妻、飲酒運転歴発覚。正義を語る家族の裏側》
私はコメント欄にこう記した。
「公共性? 私の公共性は、あなたの人生破壊です」
瞬く間に再生数は伸びた。
佐藤から通知が来る。
【24時間で1800万円突破しました】
画面を見つめる。
1800万円──母が殺された価格の、18倍。
「数字は、正義の証明にはならない。でも、怒りの価値は証明できる」
私は冷たく言い切った。
■SNSユーザー 視点(群衆の声)
「こいつら、どの面下げて“報道”とか言ってんの?」
「蒼さんの方がよっぽど真実語ってる」
「記者も家族も同罪。許されるわけないだろ」
怒りが渦を巻き、コメント欄が地獄と化す。
「こんな動画、拡散して当然だよ」
「家族を攻撃? だから何? 報道だって家族壊しただろ」
蒼の言葉が社会に広がる。
誰も止められない。
■蒼木 蒼 視点
私はカメラの前で、最後にこう言った。
「復讐には論理がある。これは感情じゃない。“方程式”です」
「あなたたちがやったことを、私はやり返しているだけ」
「これは正義ではない。だからこそ、止められない」
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