やりすぎた…
「へ…?」
「私と手合わせをして欲しいのです」
突然の宣戦布告で固まる
「え…いくらなんでもいきなりすぎない?」
だが、彼女の目は真剣だ。一切の偽りもない瞳がメリッサを射抜く
(まずい…私がメリッサ・エリヴェーラということがバレてしまうかももももも…)
リディアが横から口を挟む
「アレン、先生はすごく強いし、試験の時に使ったのを使っても魔術無しで勝っちゃうんだよ?」
「尚更いいじゃない。そうでなくちゃ面白くないわ」
(え、もしかしてこの子戦闘狂?)
だが、こう見えて彼女は戦闘を好んでいる訳ではない
「勘違いしないでください。私はただ自分の限界を知りたいだけです」
「じゃ、じゃあ…ちょっとだけね?」
――――――
草原にて、アレンはメリッサと向かい合い、リディアは横で見ていた
「手加減は不要です。エリィ先生」
「う、うん…じゃあ」
「いつでもおいで?」
そう低い声が響いた後、アレンは『勝利の剣』を生み出し、身体能力を強化する
(彼女はリディアの師匠…相当な実力の持ち主であることは間違いないわ…ここは全力で行くしかない!!)
全神経を極限まで集中させた直後、地面を抉る程のスピードで距離を潰す。
その速さはまるで音を置き去りにする程――!
(これで一気に――!!)
次の瞬間、世界が暗転した
――――ドゴッッッ!!!
背中に鈍い音が響いた直後、強い衝撃によって地面に叩きつけられた
(一体…何、が…)
そのままアレンの意識は闇に落ちた――
「えぇ!?ちょっとやりすぎちゃった!!」
慌てふためくメリッサを前に、リディアは改めて実感させられた
(集中したアレンの反応を超えるほどの速さで踵落としをしたんだ。あれを身体能力でやってのけるなんて…流石、史上最強の魔女…)
ほんの一瞬だけ足を上げたのが目に見えたことで、踵落としとわかった
「手加減はいらないって言ってたけど…やばい…い、生きてるかな?」
慌てている途中、アレンはすぐに意識を取り戻した
「…あれ?私…」
「あ、よかったぁ…殺しちゃったかと思ったよ!!」
アレンは痛感した。自分と相手には圧倒的な差があることを――
(まさか…負けた…?)
彼女は挫折した経験は何度もあったが、それでも努力を積み重ね、乗り越えてきた
だが今は既にわかった
これは乗り越えられる壁ではない
リディアが隣で「大丈夫?」と尋ねるが、うまく返事できない
敗北は認めたくない――だが、彼女はまさに"規格外"だった
そして目から涙が溢れる――
「えぇ!? 泣いちゃった!?」
メリッサは慌てふためくが、それを無視してただ涙を流す。どれだけ努力を重ねても勝てない存在がいるという理不尽を突きつけられた
(もっと…強くならなきゃ…)
彼女に新たな目標ができた。それは目の前にいる『規格外』メリッサ・エリヴェーラを超えると――
「先生…行っちゃいましたね…」
アレンはというと、「絶対にあなたを超えてみせる」と言った後、彼女はその場を去っていったのだ
メリッサは彼女の背中を見送りながら、ふぅっと息を吐く
「ちょっと…やりすぎちゃったかもね」
(でも…昔の私と似ているような感じがするな…)
「じゃあ、戻ろうか。リディア」
二人はその場を後にするのだった。
――――――
入学式前、生徒会室にて
「リディアさんとアレンさんには新入生代表として、スピーチをしてもらいま〜す!!」
「「……は?」」
二人の息がぴったりと合う。
「ごめんなさい、もう決定事項なの♬」
「それ、いつ頃から決まってたんですか?」
アレンの冷たい視線がアイザックを射抜く。それに怯んだのか、指をくるくると回しながら答える
「じ、実は…順位発表の時から…」
「なんで早く言わなかったんですか?」
「えっと…ほら!驚きがあった方がおもし――」
「ろくないです」
アレンの即答に、アイザックは苦笑いを浮かべる
「あの…私、人前で話すのが苦手で…」
「そこは大丈夫よ!ちゃんと原稿があるから!」
会長席にドカッと分厚い紙束を置かれ、リディアとアレンがそれを手に取る
「…長っ!!」
「こんなのスピーチの量ではありません。ほぼ講義なんですけど」
二人が絶望する中、アイザックは優雅に微笑む。
「うふふ、大丈夫よ! ちゃんと練習すれば、きっと立派なスピーチになるわ!」
「「だから、それが嫌なんですってば!!!」」
こうして、二人の逃げ場はなくなったのだった——。
今日は短めです。さーて、次はどないしましょ…とりあえず霧雨千尋でも書いとこっかな…笑




