番外編 忌み子 呪い
「ええとこやねぇ…ここは」
『七大魔女』の霧雨千尋は王都ガルズの夜を噴水に座りながら見ていた。食べ物を売る商人の声、親と幸せそうに手を繋ぐ子供、住民達の人混みなど…それらに見惚れていた
(ボクのとこと違ってな…)
少しだけ、ふと昔の思い出が蘇った
――――――
「子に憑く悪霊を祓いたまえ!!八百万の神よ!!悪しき『玉藻前』を祓いたまえ!!」
ボク、霧雨千尋は忌み子やった
なんで忌み子やったって?それはな――
「あの子、目の色が違うわ…」
「きっと『玉藻前』に呪われているんだ…かわいそうに…」
「早く死んじまえばいいのに…」
ただ目の色がちゃうだけでこんな扱いやった。この村では普通じゃない子は呪われてるって見なされる…それもこれも全部玉藻前のせいや〜言うてた。当時のボクはその玉藻前が何をしはったんかなんて、そんなん一個も知らんかったわ。
(寒い…お腹すいた…)
寒い時期にちっちゃい女の子が全裸で大人達に囲まれて、しかも訳わからへん呪文みたいなもんをずぅ〜っと聞かされる…そんな環境やった
「あのガキ、良い体してんじゃねーか」
「ひひひっ、これが女児の裸か…」
中には裸目当ての奴に下卑た目ぇ向けられることもあった
(一生私はこのままなん…?もう死のっかなぁ…)
そう思ったったけど、えらい監視もされてたさかい、死ぬなんてできんかった。
そんなしょうもない呪いなんてあるわけないのに……
――――――
「ああ…あかんあかん…ここまでにしとこ」
千尋は噴水から立ち上がる。
「それにしても…ここはホンマええとこやね」
争いも、故郷で味わった恥辱、石を投げつけられることもない平和な街を見つめていると、聞き覚えのある声が聞こえる
「げっ…また痴女がいる…」
声の主はメリッサ。買い出しの途中なのか、食材が入った袋を抱えていた。気配を消して千尋に気づかれないように少し低くかがむが…
「エリィはん♬お元気してはる〜?」
いつの間にか後ろから抱きついて耳元で囁いた
「……あんたみたいな人間ホンット嫌いだよ」
メリッサはゴミを見るような目を向ける
「そんなん言わんといてぇ?ボク泣いてまうわ〜…よよよ…」
「そんなこと思ってないくせに…私は忙しいから帰るよ。留守番してるリディアを心配させちゃ悪いからね」
千尋の腕を無理矢理引き剥がし、再び歩き出そうとするが
「まあ、待ちぃな。せっかく会うたんやし、ちょっと話でもしような?」
嫌いな痴女に止められたことに、めんどくさそうにため息をつく
「はぁ、あんたみたいな痴女とは一秒でも早く離れたいし、別に話すことなんてないじゃないか…」
「話すことやったら一つだけあるけど…う〜ん、例えばボクの昔話とか?」
「はぁ?なんで痴女の昔話なんか聞かなきゃならないの?どうせイズモで沢山の男達と如何わしいことしたとかでしょ?」
「うっわ…エリィはん、ボクのことどんな人や思っとるんよ…まあ、あながち間違いではないかもな」
「――ボク忌み子やったし」
それを聞いた直後、メリッサの足が止まる
「…イミコ?」
「簡単に言うと、呪われた子って感じやね。ボクは目の色がちゃう言うて、意味ないお祓いを何百回も何千回もやらされた。裸で晒し者にされたり、石を投げられたり、訳わからん祈祷やらされたり…色々やられたわ」
「…」
「それでな、村の連中はボクをずっと監視してたし、逃げ出すこともできんかった…けどある日、その玉藻前と会ったんよ。えらい別嬪さんやったわ」
「その妖怪は『童は呪われてはおらぬ。妾がそんなちっぽけな呪いをかける訳ないじゃろう』って言ってくれたわ」
「…で?そんなこと私に教えられても知らないよ?とりあえず、あんたも苦労してるんだな〜って思ったよ」
「あら、心配してくれてはるん?案外あんたはんってええ人なんやね♡」
千尋は頬を赤らめ、揶揄うような顔で言った
「うっさいなぁ…でも、どうやって七大魔女になったの?」
「その妖怪に術を教えてもらったんよ。色々と他の国のことも知れたし、おかげで力も手に入れられたわ」
「…その故郷はどうなったの?」
「ふふ……どうなったんやろうねぇ…」
ニヤリと笑みを浮かべる。その顔は妖怪のようだった
「はぁ…で、結局何が言いたいの?」
「ん〜、ただ話したかっただけよ?」
「はぁ…ホンット痴女って嫌いだよ…じゃあ、もう帰るよ」
メリッサはぶっきらぼうに踵を返す
「気をつけてな〜」
手を振って彼女の背中を見送る
ふと、千尋は小さく呟く
「でも、あんたはんもなんか重いもん背負ってはるんやね…ボクとちゃう類の…」
メリッサには聞こえないほどの小さな声で。
静かな夜風が二人の間を吹き抜けた。
無性に千尋が書きたくなったので、番外編で書きました(笑)
一番好きなのかもしれないです(笑)
あと早くメリッサの戦闘を書きたいところ…!




