若き天才と…痴女
その後も受験生が試験を受けていく中、一人の名前が呼ばれた
「次、アレン・エイムズ!」
審査員の声が響いたと共に会場に歩を進めるのはアレン・エイムズだ。黒髪のロングヘアが揺れ、彼女の鋭い眼光が見える
「おい、アレン・エイムズだ!」
「若き天才と言われた、あのアレン!?」
そう呼ばれる要因は、わずか9歳で特殊魔術を手に入れたことにあった。このことが広まり、彼女は『若き天才』と言われることになったのである
(はぁ…くだらないわね。私にはちゃんとアレン・エイムズっていう名前があるのに)
自分が『若き天才』と呼ばれていることに気に入らないのか、アレンはため息をつきながら会場に上がる
「試験の準備はいいか?」
「…さっさと始めてください」
彼女から冷たい応答に審査員は咳払いをし、試験開始の合図をする
「はじめ!!」
直後、魔法陣が出現し、トロールが現れる。巨大な体躯に他の受験生は圧倒されるが、アレンは眉一つ動かさず無表情のままだ
「――勝利の剣」
腕から光が収束し、一本の剣が現れる。
「あれは!?」
「アレンの特殊魔術、『万象の剣』!!」
観客もその光景に目を疑う。彼女の特殊魔術は『万象の剣』。能力はありとあらゆる剣を生み出すことができるというもの。
「ヴォォォ!!!」
トロールは乱暴に大きな棍棒を振り回しながらアレンを襲う。
「――まるでなってないわね」
直後、彼女の姿が消え、いつの間にかトロールの背後に立っており、トロールは真っ二つに斬り裂かれて崩れ落ちた
「消えた!?」「速すぎる!!」
「汚い血ね」
アレンが刃についた血を払う。観客席にいたメリッサはその様子を目の当たりにする
(なるほどね…あの『勝利の剣』は持ち主の身体能力を強化するタイプか)
冷静に彼女の立ち筋、構え、動き…あらゆる方面から分析する
(中々いい…無駄もないし、あの動きは自分自身の剣術の腕がないと再現はできない…おそらく彼女は血の滲むような努力をしてきたんだろうね)
彼女は特殊魔術に頼り切りではないことが見てわかった。
「…早く来なさい」
剣を構えたと同時に、二体目のゴルゴンが召喚される
「おい!ゴルゴンはやばいぞ!!石にされる!」
ゴルゴンは魔眼であらゆる生き物を石にすることができる能力を持つ。その魔眼がアレンに向けられる――しかし
「…つまらない」
残像ができるほどの速さで一瞬にして距離を潰し、声を上げる暇もなく首を斬り落とされた
「見えなかった…」「今、何が起きたんだ…?」
観客と受験生が動揺する中、気にも止めず審査員に言った
「さっさとしてください」
「くっ、試験再開!!強い魔物を召喚しろ!!」
三体目は漆黒の剣士ダークナイト。漆黒の鎧を纏い、黒の大剣を構える
直後、二人同時に距離を詰め、剣がぶつかり鍔迫り合いとなる
「…っ、中々の力ね。でも――」
アレンの腕の力が増していき、徐々にダークナイトは押されていく
「力だけね」
大剣を弾き飛ばし、そのまま相手の体を貫き、上に斬り上げる。その後、パタリと力無く倒れた
「やっぱりこの程度ね」
「ダークナイトを押し切った!?」「なんで力だ!」
歓声が上がるが、アレンは
(いちいち五月蝿いわね。静かにできないのかしら)
表情を動かさないまま、心の中で愚痴をこぼす
「次!!もっと出せ!!」
今度は二体同時に召喚された。アイスビーストとフェンリルだ。
「流石にこの剣じゃ厳しそうね」
『勝利の剣』が塵となって消え、今度は炎が燃え上がった。
「な、なんだ!?」
剣の形となっていき、そして炎に包まれた剣となった
「『レーヴァテイン』」
一気に炎の火力が増し、会場の温度が急激に上がっていく
「これで、終わりね」
上に掲げた剣を横薙ぎ――
その炎は、アイスビーストの覆われた氷を溶かし、フェンリルの毛を焼き尽くしていく
「オォォォォン!!!」
必死に身を捻らせるが、消えるはずもなく、肉ごと焼き尽くし、最後は灰になって消滅した
「嘘だろ!?二体同時に!!」
「この程度なんて、この学園も落ちたものね」
まだまだ余裕の表情で、息も上がっていなかった
「つ、次!!」
アレンはその後も次々と魔物を攻略していき、難なく試験を突破した
――――――
一方、先ほどの様子を控え室のモニターから見ていたリディアは
「凄い…あんな一瞬で倒すなんて…」
レーヴァテインの圧倒的な破壊力。そして、圧倒的なスピード。その光景は彼女の脳裏にしっかりと焼き付けられた。
(私もまだまだなのかな…いや、私には私なりの戦い方があるんだ!セリアに比べればまだまだだよ!)
拳をぎゅっと握りしめた
(私ももっと強くならなくちゃ…!セリアに追いつくために…!)
控え室で一人静かにモニターを見つめていたリディアの目には、揺るがぬ決意が宿っていた。
――――
全ての試験が終わり、受験生たちは会場の外へと続く廊下に集められた
「全ての試験はこれで終わり…ね」
アレンは静かに出口に向かうが――
「おい!アレン!」
呼び止められると同時に他の受験生たちが彼女を囲む
「さっきのやつ凄かったぞ!」
「流石、若き天才だな!!」
賞賛や歓声が包むが、それに呆れたのかため息をつく
「邪魔しないでくれる?早く帰りたいのだけど」
すると周囲は静まり返り、大人しく道を開けた。
「こ、こえ〜…」「やっぱ天才は違うな…」
周囲を気にせず、淡々と歩を進める
(凄い…天才って。私とは大違いだよ…)
そこにいたリディアは視線を向けるが、それに気づいたアレンは彼女を睨む
「何を見ているのかしら?」
「あ、いや…たださっきの試験は凄かったな〜って。あはは…」
「別に…ただ当たり前のことをしたまでよ」
彼女はそう告げると、そのまま出口に向かって歩いていった
(やっぱりあの子はすごいや…堂々としてるのが背中からでもわかる…)
「なあ!リディアだっけ?お前も凄かったぞ!!」
「え!?そ、そうかな〜…」
今度はリディアが完成の餌食となった
「当たり前だろ!あんな強い魔物を拳で倒すなんて、俺たちには絶対にできないぞ!!」
「私もそう思った!!どこで鍛えたの?」
「えぇ〜…ちょ、ちょっと私もこの辺で〜!!!」
そそくさと人混みを抜け出し、リディアは出口に向かった
――――――
その頃、会場の外でメリッサはリディアを待っていた
(今日は沢山いい物を見れたな〜♬さて、リディアはまだかな〜?)
未来ある若者達の実力を見れたことに、絶賛ルンルン気分だ
(それにしても、あのアレンっていう子は規格外だったね。あれは他とは一線を画してたし、本人の技量も相まって抜群の力を発揮していた…)
しばらくすると、バタバタと人混みの中からリディアが走ってきた
「はぁ、はぁ…まさかこんなに囲まれるなんて…」
「あ、おーい!リディアー!こっちこっちー!!」
彼女に手を振る。
「あ、先生!待っててくれたんですね!」
リディアはメリッサの方に走ってくる。彼女は身長が高い方なのですぐに見つけられた
「はぁ…はぁ…今日は色々と疲れました…」
「ははは!リディアはどうやら人気者みたいだね〜」
「もう!からかわないでください!」
「ごめんごめん!結果はどうだった?」
「合格でした!」
「おめでとう〜〜〜!!!!さすが私の弟子だよ!!ま、あんな暴れ回ったら審査員も落とす訳にはいかないもんね」
メリッサはリディアを抱きしめ、頭をもみくちゃに撫でる
「えへへ、ありがとうございます…!あとは後日の順位発表だけですね」
「そうだね。いい結果が出ることを楽しみにしてるよ。よ〜し!今日はご馳走だー!!」
「やった!楽しみです!」
そう二人ははしゃいでいる所ーーー
「えらいはしゃいではるみたいやねぇ?」
聞き覚えのある声が耳を通った
「その声は…!」
「ゲッ、あの時の痴女…」
声の主は、肩がはだけた妖艶な浴衣を着ている痴女…もとい『七大魔女』の霧雨千尋だった
「そんなん言わんといてぇな。流石にボクも傷付いてまうわぁ」
「な、なにしにきたの…まさか私のキャワイイ弟子にえ、えっち…なことをしようだなんて思ってないだろうね!?」
「じゃああんたはんにしたろか?」
「あ、大丈夫です…」
「ふふっ、冗談よ?」
そう言うと、千尋はリディアをまじまじと観察する
「お弟子さんかわいらしいわぁ…」
「ほらやっぱり思ってる!!」
「そんなボクとシたいん?」
指で輪っかを作り、その中に指を入れて見せる
「ヒェッ…しゅみましぇん…」
(史上最強の魔女が黙らされてる…)
「それで、リディアちゃん?」
「は、はい…!」
「ふふっ、そんな身構えんでもええよ?ますます可愛らしいわぁ」
千尋は耳元に口を近づけ
「取って食べてまいたいくらい…な?」
「へ?」
そのまま舌を出し、耳を――
「はいそこまで!!!!」
――――ドゴォォォォォォォン!!!!!
メリッサは千尋の頭に踵落としを入れた直後、そのまま地面にめり込んだ
「……」
千尋はめり込んだまま動く様子はない
「よしリディア、行こっか!」
爽やか〜なニッッッッコニコで曇りが一切見当たらない笑顔だ。
「もう…ちゃんとボクは生きとるよ?」
めり込んだ頭を抜いて、また立ち上がった。小さくメリッサから「ちっ、まだ生きてたの…」と聞こえたような気がするが。
「いきなり乙女の頭蹴るんはおかしいんとちゃいます?」
「そんなの知らないよ、大体あんたはうちの弟子に手出そうとしたからそうしたんだよ…!」
「血気盛んな人やねぇ、せっかく別嬪さんやのに」
「お前がそうさせてるんだよ!!」
鬼のような形相で千尋を睨みつけるが、そんな痴女に通じるわけもないとわかり、リディアに向かって再び明るく言った
「さ、行こうか!もうすぐご馳走だし、楽しみでしょ?」
「は、はい!楽しみですね〜…あはは…」
「そうやねぇ〜。でも、ボクの方がもっと楽しいよ?ほ〜れ、お乳ぷるんぷる〜ん♬」
そう言いながら妖艶な表情で自身の豊満な胸を持ち上げる
「や、やめてください!!」
リディアは顔を赤くして必死に抗議したが、千尋の笑みは変わらなかった。
「冗談よ、ジョーダン♬それじゃ、ボクはこの辺でさいなら〜」
そして、千尋はゆっくりとその場を離れ、どこかに消えていった。
「荒らすだけ荒らして帰ってった…。ね?わかったでしょ?アイツがどれだけおかしいのか」
「はい…もう二度と関わりたくないです…」
その後食材の買い出しを済ませ、会場を後にした
――――――
二人は家でご馳走を囲んでいた。テーブルにはステーキやケーキ、シーフードパスタ、その他諸々が並べられていた
「いや〜、とにかく合格おめでとう!乾杯!!」
「乾杯です!!」
グラスを合わせ、同時に飲み干す
「ぷはぁ!やっぱり美味しいね〜!!」
「はい!私、幸せです!いっぱい食べます!」
リディアはステーキを頬張る
「はははっ!なんだかハムスターみたいだね!」
「ふぇっ?ふぉうえふふぁ?(え?そうですか?)」
「すごくほっぺた膨らんでるよ!!」
「ふぇ!?ゴクンっ、もう!!先生!」
この夜は二人にとって至福な時間となったとさ…
霧雨千尋ォォォ!!!書いててめっちゃ楽しいんですよね(笑)
今日は新キャラのアレンが出てきました!




