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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
三章/夏歌えど、冬踊らず

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返事をしてくれ、カグラヴィーダ

 暗雲が籠る空で機体を駆る。

 当夜は雄叫びを上げながらアクガミを長剣で斬りつけた。豪を守りながら戦いながらも、着実にアクガミの数を減らしていく。


「やべえ、囲まれた……数が多いねんて!」


 豪の焦ったような声が微かに聞こえ、当夜は機体を半回転させる。土と鉄くれの塊が群がっている先に彼の機体がいるのだろう。


「豪! ……うぐっ、」


 近づこうと機体を走らせたが、体当たりを食らった。ふっ飛ばされた当夜は、「いってえなあ、このっ化け物ッ!!」とドスをきかせた声を上げつつも操縦桿を滑らかに動かして空中に留まる。


「これでも食らええぇッ」


 足元の装甲に収納されているダガーナイフを取り出して振り投げる。それはアクガミの左頭部を削ってカグラヴィーダに戻ってきた。

 ぐらりと傾いだアクミガを消し炭にしてやろうと当夜は腹部の砲口を開いていく。


「豪ッ、そのまま動くな! お前のいる周り一帯、一体も残さず溶かしつくしてやる……!!」


 その宣言に豪が恐れおののいて悲鳴を上げる。


 だが、当夜は無情にも豪の乗るタカクラごとアクガミを炎の渦に突っ込んだ。

 実際にはアクガミ以外には無害なので豪にはなんの影響もないのだが、精神的には大打撃だろう。涙混じりの悲鳴がそれを物語っていた。


 煙が風に流されて掻き消えそうになった時、アクガミの赤い目が見えてきて当夜は目を見開いた。

 だが、カグラヴィーダの横顔に触れるか触れないかの距離で弾丸が通っていき、アクガミの額を撃ち抜いた。


「間一髪、てとこやったな」


 通信からの声に当夜は振り向き、数メートル後ろを拡大してみるが、涯の鉄神だという濃い灰色の機体は見当たらない。

 こちらから姿は一切見えないが、身を低くして遠くの山から敵を一撃で撃ち落とした涯の腕は流石にエーススナイパーと呼ばれるだけはある。


 近・中距離戦闘を得意としている当夜には、的確に敵の弱点を見抜き、離れた場所から狙撃する技量はない。

 あのガサツな言動からは想像もできないくらいの緻密さと冷静さに、同じパイロットとして尊敬の念が出てくる。


「すっげえ……」


 呟いた当夜の前を、飛行機に二本足がくっ付いた奇妙な物体が通り過ぎた。


「……習、お前まさかっ、またか――――っ!!」


「イワナガから勢いよく発進させられてから、全然止まらないんスよおぉっ」


 どうなってんスか俺はっ、たあすけてえぇという叫びながら習が飛んできた方向に戻っていく。


「あれ、どうなってんだ……?」


 頭を叩かれるような衝撃を連続して受けた豪が息も絶え絶えに言う。だが、涯も当夜もどうしてあげることもできないし、説明してあげることもできなかった。


「豪、アカン! ぼさっとしてんな!!」


 涯の叫びを聞いた当夜は考えるよりも手を動かす。レバーを引いて、瞬時に機体を豪が操るタカクラの背後に滑り込ませた。


 背が座席に押し付けられ、足が浮く。

 激しい衝撃に手がレバーから外れそうになるのを、手の握力だけで堪える。


 きりもみ上になり、機体に圧しかかってくる負荷に耐え切れず、当夜は悲鳴を上げた。気圧で塞がれた耳に徹の声が聞こえてきたような気がするが、強烈なGに視界すら薄れてくる。


 森の木々を折りながらも落ちていく機体を立て直せないか。白じんでくる意識の中でも当夜はレバーを押し上げ、足に力を入れて浮く足をペダルにつかせて踏んでみる。


 だが、操縦が不可能になっているようで、浮上の気配がない。


「カグラヴィーダ、おい! どうしたんだよ、返事してくれっ……カグラヴィーダ!?」


 必死に愛機に声を掛けるが、一切返ってこず、当夜は「嘘だろ!?」と青ざめ、眉を引き寄せた。

 瞼を強く閉じ、腹部に力を入れて声を張り上げる。


「カグラヴィーダ――!!」

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