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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
三章/夏歌えど、冬踊らず

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俺の背中を見ておくんやな

 直接バイクで格納庫で乗りつけ、降りた当夜が一直線にカグラヴィーダに向かおうとするのを涯が止める。そのままだと制服が破れて困るだろうと言われて、それはと躊躇う。


「ちゃあんと神装も用意しとるて。こっち来い」


 二人で走っていくと、「徹、それは無理ッスよ!」という習の声が聞こえてきた。涯と顔を見合わせると、彼は知らないと言いたげに肩を竦める。


「僕はここに残る」


 今度はなにを言い始めたんだと涯が肩を怒らせて突入していくので、当夜も慌ててついていく。艦橋に入っていくと、習の背中が見えてきた。

 困惑した様子の習の横へ行くと、下の階を指差してアレを止めてくれという視線を向けられるが、当夜は無理だと首を振る。


「君一人ではできることも限られるし、これだけの機体だと動かすだけでも相当な疲労を伴うだろう?」


 なんと恥ずかしいことを言っているのかと、呆れてしまいそうだった。そう思うのに、手の指がむず痒くなる。守ってやると抱きしめて甘えさせたいという気持ちが増幅していった。


 心底呆れるわと言った涯は当夜と習の所まで、スーツケースを引いてくる。当夜が開けて、中に入っていた神装を取り出す。服を脱いでから足を突っ込みながら、下の階を見下ろした。


「ですが、あなたのお仲間は」


「習はともかく、当夜の腕は信用しているんだ。それに、ここから支援することで戦況を有利にすることは可能だ」


 そう言った徹は、勝手に壁一面に配置されている電子計測器や操作盤を確認していっている。


 最近の徹は習の練習に飽きて、牧瀬や早川のオペレーション実習を見学していた。彼女たちのようにやれなくとも、最善は尽くせるという自信に満ち溢れているように見える。


 我が物顔で席に着き、その前で呆気に取られている敬哉を見上げて無言で頷く。

 彼はこめかみに指先を押し当てて息を吐くと、口元に笑みを浮かべた。


「……それでは、索敵と砲手をお願いできますか。あなたも涯さんと同じ長距離砲搭載機を使うと聞いていますので、それなら慣れておいでしょう?」


「僕の腕は奴ほどではないんだが、任された以上のことはしてみせよう」


「できなければ追い出しますよ。元々イワナガは僕一人で動かしているんですからね」


 そう言って凛々しく顔を上げた敬哉は、昨日と同じく艦長席まで行って座る。それから、誰にともなく話しかけるように手を伸ばす。


「話は終わりました。イワナガ、よろしくお願いしますね」


 落ち着いた笑みを浮かべる敬哉を見上げていた習に、涯が近づいていく。輸血パックを手にあたふたとしていたので、見かねたのだろう。

 涯に取りつけてもらった習は、ドクドクと妙に脈が早く打っているのを感じて胸元の布を握る。強く目を閉じ、震える声を絞り出す。


「な、なあ。俺もここに残っちゃ駄目ッスか!?」


「あぁ? なんでや」


 突然暗い調子で話しかけてきた習に、涯が不機嫌そうに声を荒げる。彼は腕の辺りのたるみを解消するために生地を触っていたが、手を止めて習の方に顔を向けた。


「だって、俺……いっつも足手まといになるんスよ。ちっちゃい子もいるのにさ、俺みたいなのが出てったら皆の負担が半端ないッスよ」


 そんなことないてと一笑に付した涯に迫り、そうだと力強く返す。


「俺も習はなるべくたくさん乗って、操作に慣れた方がいいと思うんだけど……」


「そうかもしんないけど! でも、やっぱさあ」


 気にしなくていいと度々伝えてきたが、習は元来気が弱くて些細なことでも気にしてしまう性質なのだろう。

 習を宥めて励ましてくれる岩草は、この場にいない。いつもは鬱陶しく思っているというのに、当夜は歯がゆく思った。当夜も徹も、彼がなにに苦労しているのか分からないのだ。


「アホォ、男は度胸やろうが。気合入れんかい!」


 当夜までもが悩み始めた時、重くなってきた空気を断ち切るように涯が習の後頭部を軽く叩いた。

 習が目をまん丸くする。体を捻って後ろを見ると、涯はニッと白い歯を見せて笑う。


「ようは技量ってとこやろうが。そんなら俺のスマートな仕事っぷりでも見て覚えりゃええねん」


「覚えろって、涯と習の機体じゃ性能が違うじゃん」


 なに言ってんのと当夜が言うと、習はそうッスよねと吹きだして笑う。顔を真っ赤にさせた涯は「うっさいわ!」と叫んでから、習に向かって指を差す。


「今日はおまけじゃ! テメエらガキのケツはこの俺が拭いたる。好きなようにやれ!」


 金の髪を揺らして涯が歩いていくのを見て、当夜と習は顔を見合わせて笑った。

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