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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
一章/炎の巨神、現る
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迫る気配/2

「あ! あれなんだ!?」


「え? あ……凄い人だな」


 つられて赤木が指す方向を見た当夜が感心したように言った。二人が見ている方には、大勢の人とテレビ局の取材と見られるカメラやマイクを持った人物がいる。


「行ってみよーぜ!!」


 赤木が当夜の腕を掴んで走っていこうとする。だが、それに徹が反応をして、当夜! と叫んで走った。


「近づくな!」


 ぐっと当夜の腰を抱き、自分の方へと引っ張る。当夜は目を閉じて徹の胸にしがみついた。


「と、徹……急になんだよ、危ないだろ」


 そろりと目を開けた当夜にそう言われると、徹はすまない、と謝罪の言葉を口にする。


「どうした?」


「ああ、いや。今日は一限が体育だから寄ると遅刻してしまうぞ、と」


「それもそうだな。しかもなんかアレはヤバそうだ」


「ヤバそうって?」


 赤木の首根っこを捕まえた加護も頷くと、赤木は首を傾げた。加護は人垣の方を振り向き、顔をしかめる。


「事件な気がするな」


「えっ、マジで!?」


「興味持つな馬鹿、行くぞ」


 赤木の頭を小突いた加護は、そのままシャツの襟を引っ張った。自分よりも背の高い加護には逆らえないのか、赤木も苦しい苦しいと言いながらも歩いていく。


「あっ、渋木! 後で宿題見せてって苦しい! 死ぬっ、死ぬってー!」


 加護の背中と、引っ張られていく加護の顔を見守っていた当夜と徹は顔を見合わせて笑った。

 わめく赤木を見たり、時々返事をしつつ、当夜は通学路を歩く。人垣が近づいてきた時、徹に肩を丸く包まれ、人がいる方の逆側である左に追いやられた。


「どした?」


 見上げると、徹はふっと目線を当夜から外す。


「人がたくさんいて、お前が怪我をするかもしれないからだ」


 そう説明すると当夜は小さく笑って、心配性と囁いた。


「平気だけど、ありがとな」


「これくらいは当然だ」


「はいはい」


 話しながらも目は自然と人垣へと向かう。あまりにもたくさんの人がいるため、様子が分からない。


「あそこ空き地だったはずだけど、なんなんだろうな」


「さあな」


「……最近なんか変だよな。建物が壊れたり火事とかやけに多いし」


「ああ」


 当夜が鞄から携帯を取り出し、インターネットを使ってニュースサイトにアクセスする。そこに並んだ記事のタイトルに徹は顔をしかめた。


「こんなにいっぱい。しかも全部原因不明だっていうし」


 眉を下げて不安そうな顔をする当夜の頭の上に徹は手を置く。当夜が顔を見ると、柔らかい笑みを浮かべた。


「大丈夫だ、なにがあっても僕がお前を守る」


「う、うん。ありがと! けど、俺だって徹を守りたいよ」


「僕は大丈夫だ。危ない目にあったとしても、お前が守れるならそれでいい」


「それは俺だって嫌だ」


 ぎゅっとスクールバッグの持ち手を握り締め、当夜は俯く。


「お前がどんなことになっても大丈夫なように元気でいるつもりだ」


「そうじゃないと困る。俺だって徹が大事なんだからな」


「ああ、ありがとう」


 当夜は人垣を振り返って見た。ざわめく声と、必死の形相でなにかをカメラの向こうに伝えようとするアナウンサー。この場所でなんらかの事件があったことはそれだけでも計り知れて、苦い気持ちになる。


「当夜? 行くぞ」


 当夜が一緒に来ないことに気づき、二・三歩で立ち止まり、切なそうな表情をする顔を横から見ていた徹が当夜の手を握った。


「……うん」


 ***** ***** *****


 運動場に歓声と土ぼこりが舞う。その中心で行われているのはドッジボールだ。


「渋木! いい加減当たれよっ!」


 そう言いながら、三方向から男子がボールを投げた。


「やだよ。痛いじゃん!」


 左右から勢いよく放たれたボールを体を翻して当夜は避ける。正面から投げられたボールは腕の中に包み込むようにして受け取り、腕を振りかぶって投げ返した。ボールは一直線に先程投げた少年の胸に当たり、地面に落ちる。

 投げたところを、右側に立っていた少年が転がってきたボールを拾い、当てようと狙ったが当夜はそれも避けた。


「くっそおぉー!」


「あったんねえー」


 側頭部を手で押さえて喚く男子に、当夜はへっへーんと自慢げに笑う。


「おい、暁美!!」


 すでに試合が終わったチームメンバーと一緒に土の上に座って試合を見ていた徹に、当夜と対戦しているチームメイトの一人が声をかける。


「なんだ?」


「お前こっち入ってくれよ!」


「辞退する」


 ふっと笑って拒否を示した徹に、対戦チームのメンバーはえーっと大きく非難の声を上げた。


「なんでだよ!」


「お前なら渋木倒せんじゃねーのー?」


「来いよ!」


 両手を振って誘うが、徹は苦笑して首を横に振るだけだ。


「僕じゃ無理だ」


 えーっともう一度大きく叫び声が出た。


「いけるって! なあ!?」


「徹ならいけるってー! 来いよー」


 そのやりとりに、白線でできたコートの片側の中に一人立っている当夜があははっと明るい笑い声を上げる。


「俺、徹にだって負けないぞ!」


「笑うなー!!」


「いや、笑うだろー」


 腰に両手を当てて笑う当夜の背後からボールを投げるが、それも避けた。投げた人はあーっと叫びながらその場にしゃがみ込む。


「おっ前……後ろに目でもついてんのかあ!?」


「ついてねーよ!」


「あー、昼飯の賭けとかすんじゃなかった」


「つーかボール五個使ってもアイツ当たんねーし、円形ドッジでもアイツが外野行ったとこ見たことねーわ。マジで無理」


 戦意喪失した対戦チームの面々が座り込んだ。それを見た徹は、諦めたのか? と呟く。


「諦めるしかないだろ、アレは」


「どういう運動神経してんだっつーの」


「お前の幼馴染どうなってんだよ。前やった模試も一位だったろ?」


「身長低いのを可哀想に思った神様がせめて他のは……ってくれたんだよ」


 徹の隣で話していると、駆け寄ってきた当夜が話しかけてきた。疲れた様子が一切ない当夜に二人は苦笑する。


「神様与えすぎだろ」


「それくらい身長欲しかったかんな」


「お前ちっせーもんな」


 中腰の状態で話している当夜の頭を二人がぽんぽんと叩くと、当夜はやめろよと膨れた顔をした。


「優秀すぎる幼馴染がいると大変だな」


 右横から寄ってきた加護が含み笑いをしながら徹に声をかける。


「まあ、見ていて飽きないな」


「だろうな。……集合だってよ」


「分かった、すぐ行く」


 頷いた徹は立ち上がって、笑い話をしている当夜の肩を叩き、集合だと言って歩き出した。

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