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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
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地下二階、プール

「二人共こんにちは! 来るのを待っていたわ」


 手元の機械を操作していた鏡子は顔を上げて、二人を視界に入れると笑顔になった。


「あのっ、制服ありがとうございました!」


 当夜が頭を下げると、鏡子は手をあわあわと上下に動かして、大丈夫よと言う。


「あなたたち、パイロットのサポートをするのが私たちの仕事なんだから。気にしないで」


 ねっと朗らかに微笑みかけられた当夜は、一安心してはいっと大きな声を出した。


「折角来てくれたんだし、当夜くんは今日の内に身体測定と神装のサイズを測りましょう。徹くんはその間どうする?」


「ヤタドゥーエの調節と、ここの仕事を手伝います」


「いつもありがとう。それじゃあ当夜くんはこれを持って、所定の場所へと向かってくれる?」


 全て画面に指示が出るからと言って手渡された薄いタブレットを受け取った当夜ははい、と首を縦に振る。


「徹くんも、よろしくね」


「はい。それでは失礼します」


 一礼してから格納庫へと続いている階段の方へ歩いていった徹を見送ってから、当夜はタブレットのボタンを押して表示を見る。現在地を表す赤い印と、目的地である青い印を見比べたが、この施設に詳しくないのでイマイチどの場所か見当がつかない。


 右上に目的地が書いてあったので、それに目を向けるが、「地下二階……プール?」さらに分からなくなっただけであった。


 行ってみれば分かるだろうと考えた当夜は、指令室の階段を上がり、脇にある二部屋の内、奥の方へと入る。ロッカールームらしき部屋の左奥にあるエレベーターに乗り、地下二回のボタンを押した。


 引き上げる音を聞きながら、当夜は息をふうと吐いて壁に肩をもたれかけさせる。慣れていない場所は当夜の精神を擦りきらせていた。

 この白に囲まれた、花澄と暮らす病棟に似た施設に、当夜は目を細める。嫌という程見慣れた色は、当夜にとって好ましいものであり、苦手なものであった。


 チンッと機械音が鳴ってエレベーターの扉が開いていく。当夜は扉が閉まらない内に出、首を横に傾けた。


「……ほんとに、なんでプール?」


 不思議に思いつつも、タブレットに示された通りにプールサイドを横切って更衣室へと入る。その後の指示は表示されなかったため、当夜はどこかに水着が置いてあるのかもしれないと予想して、辺りを見渡した。目に見える所にはないと知り、次はロッカーを片っ端から開けていくが、そこにもない。


 当夜は腕を組んで目を閉じ、うーんと唸り声を出す。目を開き、「ない!」と言ってみるが、ないものはない。ここに来た意味を当夜は当てられなかった。考えるのにも飽きてきて、当夜はロッカーを背にして座り込む。ひんやりとした感触が心地いい。ほっと息をつき、目を閉じる。


(俺の記憶、花澄の想い出……どうなってんだろ)


 朝食を食べている時に感じた不安が蘇ってきて、そのまま身が床に沈み込んでいくかのような感覚に陥った。水の中で溺れてしまったかのようで、当夜は重い手を持ち上げる。今この場にいない徹に伸ばしたはずのその手は、誰かの大きな手に包まれた。


「大丈夫ですか」


 耳に吹きかけるように囁きかけられた当夜は、目を見開いて驚いた。そこには徹とかけ離れた容姿の男がいる。四対六程の量で分けられた清潔感のある黒髪に、切れ長の鳶色の目。どことなく冷たい印象が漂っていた。


「……え?」


 息をついでいる内に、着ているパーカーを脱がされ、Tシャツもめくりあげられる。値踏みするような男の視線に、当夜は眉をきつく引き寄せて男を睨み付けた。


「アンタ誰だよ!」


 男は眉をひそめ、口の片端を歪める。無言で当夜を肩に担ぎ上げると、更衣室から出ていった。プールサイドに下ろした当夜の衣服を剥ぎ取り、寝ころばせて観察をした。


「な、なんだよ……」


 同性とはいえ、誰か知らない人物にくまなく体を凝視された当夜は不気味で気持ち悪い印象を抱く。


「これはこれは、」


 男は目を細めると、口元に手を持っていき薄笑いを浮かべた。


「まるで中学生だな」


 カッと顔を真っ赤にさせた当夜が手を上げて振るったが、男はこともなげに避ける。当夜は目を丸くして男を見やったが、男は当夜を抱え上げてプールへと入っていった。


「んっ……なんだよこれ!」


 強制的に水の中に入れられた当夜は、手足を動かして叫ぶ。やけに粘度のある水は体に絡みついてきて、感触がスライムに似ている。冷たさにぶるりと震えて腕を擦りながらも男から逃げるために進もうとした。


「どこへ行くんです」


 男も追ってきたため、逆側に歩き始めたが、次第に当夜の身長では足が届かなくなってくる。仕方なく泳ぎ出した当夜だったが、やけに体に絡みついてくるために、一向に進まない。遅々とした進みの当夜に比べて、男はスイスイと平然とした顔で距離を縮めて来る。黒いスーツを着ているというのに、その重みをなんとも感じていないらしい。


「手間をかけさせないで下さいよ」


 追いついた男は当夜の腕を掴んで、プールの左端に移動した。


「離せよ!!」


 怒鳴り、暴れる当夜を力づくで押さえつける。プールサイドから白い丸みをおびたプラスチックの板をプールの淵に取り付けると、その上に当夜を俯けにさせた。当夜が振り向いて男を睨み付けると、その目を見た男は舌なめずりをする。


「いいですね、その反抗的な目。欲情します」


「は、はあ!?」


 言われた言葉を理解できなかった当夜は困惑した。男は当夜の腰を撫で、水面から当夜の尻を半分出させる。


「ですが、私はもう少し素直な方が好みなんですよ」


「知らねえよ!」


 板を両手でつかみながら叫んだ当夜を背後からねっとりとした目つきで見つめる男は口の片端を吊り上げた。


「これはお仕置きです」


 手を振り上げた男は、当夜の白くて丸い臀部に向かって振り下ろす。


「ああああっ!!」


 強烈な痛みに当夜は目を見開いて板にしがみついた。


「あ、あ……な、なに?」


「ああ、凄い声が出ましたね。そんなに痛いですか?」


 言いながらも男は一度二度と当夜の尻を叩く。その度に押し出されるかのように口から悲鳴が漏れた。ピリピリと叩かれた部分が痛みを発して、脳まで痺れそうになる。


「あなたは随分と適合力が高いようですね。ここまで痛がる子は初めてですよ」


「う、うぅ……っ」


 赤くなった尻を撫で擦りながらもそう囁く男は、ようやく痛みが落ち着いてきて放心している当夜の顎をつかんで自分を見させた。


「私は黒馬昴。ここの科学者です」


「科学者ぁ?」


「ええ」


 強弱をつけて揉んでいた尻を再度叩いた黒馬に、当夜はなんでだよと声をかける。


「ケツ叩いてなにが科学者だよ、変態!」


「これは性的な行為ではありません。君を試しているんですよ」


 容赦なく叩かれ、当夜はボロボロと大粒の涙を流した。うぅ、と弱い声が出てくる。

 くすりと笑った黒馬に、当夜は悔しさから顔を赤らめて目を手の甲で拭う。


「次、いきますよ」


「はあ!? なにを……っ?」


 板の中から注射器を取り出した男は、側面を叩いてから有無を言わさずに当夜の腰に突き刺した。


「い、痛……っ。痛い! 痛いって!」


「我慢しなさい」


 歯を食いしばって気を紛らわせようとするが、「ひっ、な、なに。なんの薬……」なんらかの液体を注入しようとしていることに気が付き、当夜は混乱した。

 妹が毎日受けている検診を思い出し、頭の中が彼女の笑顔で埋め尽くされる。


 息を詰める当夜を見下ろしながら、黒馬は指でブランジャーを押し込んでいく。当夜は嫌悪感に眉間に皺を作って歯を食いしばる。


「さて、もういいですよ。なにか変わった感覚は?」


 もぞもぞと逃れようと腰を動かす当夜を眺めながら黒馬が訊くが、首を振りながら足を跳ね上げて逃れようとする。


「やめろ、やめろって……やめて、なにっ、痒……っ」


「痒い?」


「痒い!! 痛くて、熱くて……おかしくなりそう」


 液体を入れられる前とは全く違う、全身の異常な痛みとムズムズとした掻痒感に当夜は身悶えた。頬を伝う涙にさえ感覚が生じる。


「そう、君はやはり特別なようですね」


 これはどうしたものかと顎に手を当てる黒馬が恐ろしいものに見え、当夜は喉から声を絞り出した。


「徹……っ」

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