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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
26/69

東京支部

「あれがそうだ」


 当夜は白亜の施設を見上げ、でかいなと呟く。


「中はもっと広くて大きいぞ。地下があるからな」


「なんか秘密基地みたいだな」


「まあ、似たようなものだろう」


 背の高い石状の壁の前で立ち止まった徹は、鉄製の門の横にあるインターホンをためらいなく押した。


「暁美徹です。同じくパイロットの渋木当夜も一緒に来ています。由川司令に許可を頂きたいのですが、おられますか?」


『……少々お待ちください』


 話す間にもどこからか小さな機械音が聞こえてくる。


『お待たせしました、お入りください』


 女性の声に続き、閂の外れる音がして鉄製の門が両側に大きく開いていく。徹の後を追って当夜が入ると、門は閉まっていった。


「こっちだ」


 通い慣れているらしい徹に付き従うようにして歩く。中庭らしき場所には緑が多く、花壇と噴水がある。白い建物に伸びるコンクリートの両端には石の仕切りが敷き詰められていた。


 建物の前には警備員が二人立っている。腰に棒を提げていて物々しい雰囲気だ。


「こんにちは」


 だが、徹が話しかけると相好を崩す。当夜は捕まらないだろうかと心配をしつつも、こんにちはと頭を下げて玄関をくぐった。


 自動ドアを通ると、受付に女性が二人いた。

 白いフロアーは化け物と戦う組織の支部だという感じはなく、どこにでもある一企業のビルに入ったような印象を受ける。


「いらっしゃい、徹くん」


「こんにちは。牧瀬まきせさん、早川はやかわさん」


 淡いベージュのカウンターに近寄って行った徹は、二人の女性に手の平を向けた。


「こちらはアマテラス機関の事務センター窓口受付係の牧瀬まきせあいさんと早川はやかわ恵実えみさんだ。二人共もうお話は聞かれているかもしれませんが、彼は渋木当夜。僕の幼馴染で、新しいパイロットです」


「宜しくお願いします!」


 当夜が頭を下げると、女性二人はきゃーっと明るい声を出して手を叩く。


「かっわいいー! この子が当夜くんなんだ~」


「雅臣さんから聞いていましたが、ああ……守ってあげたいです!」


 ウエーブがかった茶色の髪を上の方で一つにまとめている、勝気そうな女性が牧瀬。黒いつややかな髪をボブショートにしている、理知そうな女性が早川。二十代後半に差し掛かるか否か、という程の年頃の女性に騒がれた当夜は照れながらも笑みを浮かべる。


「キレーなお姉さん! なっ、な、この人たちもアマテラス機関の人なのか!?」


「そうだと言っただろう」


「事務員ってことは、普通の会社って偽ってんの?」


 徹の腕をつかんだ当夜が見上げてにっこり微笑むと、徹はまいったといった顔でため息を吐きだした。


「そうだよー。一応ここのことは国家機密になってるからね」


 だが、牧瀬は軽い笑い声を上げて返してくる。徹とは違い、なんとも思っていないような爽やかさと強かさが見て取れた。


「私たちはここか司令部にいるけど、心はずーっとあたたたちと一緒に戦ってるから!」


「精一杯応援しています。相談にも乗りますし、なんでも言ってください」


 そういって牧瀬は片手を振り上げ、早川はおしとやかに微笑む。当夜は目を細め、うん! と言って笑った。


「ありがとう! えっと……愛ちゃん、恵実ちゃん」


 二人は顔を見合わせてから、照れ臭そうに髪に触ったり、目を宙に泳がせたり、頬に手を当てたりする。


「そろそろ行くぞ。二人共、お時間を取らせてすみませんでした」


「いいえ。またいつでも来てください」


 手を振る二人に、当夜は手を振り返しながら一礼している徹の後を追った。

 小走りで徹に追いついた当夜は、徹の服の裾をつかむ。


「こら、女性をあんな風に呼んだら失礼だろう」


 徹が当夜の跳ねている髪を手で直しながら注意すると、当夜はえっと零した。


「そうなのか?」


「……まったく、お前は」


 徹は指の先を額に当てて細い息を吐きだす。きょとんと目を丸くして、小首を傾げて見上げてくる。当夜の庇護欲を掻きたてる姿に徹は目元を和らげた。


「まあ、いい。嫌そうではなかったからな」


「ふぅん……?」


 あまりよく理解していないのか、中途半端な声を出した当夜は、徹の横顔を見つめる。眉を下げ、切なそうな顔をしている当夜に気づいた。親指を顎の下に押し当てて上向かせる。


「あっ……な、なに?」


 薄く開いた当夜の口を見つめた徹は、「なにを考えている?」と問いただした。


「それは、その」


 目をうろたえさせる当夜の喉元を指の腹で撫でさすった徹は、ん? と低く促す。


「その……と、徹の」


「僕がどうした」


 まるで猫を撫でるような徹の手の動きに、当夜は小さく声を零した。これだけで感じているのか、薄ら目に涙の膜を張られていた当夜の目が鋭く細まっていく。


「徹、もう俺に隠し事してないよな」


 自分の頬に当てられている徹の手に触れ、閉じた唇をきゅっと上げた当夜に睨まれた徹は背筋を伸ばす。


「それは」


「こんな風に一人で抱えんなよ」


 当夜の口から押し出された言葉に、徹は目を見張る。当夜は痛む左胸を庇うために、服の胸元を右手で握りしめた。


「徹が俺の知らない所で傷つくの、嫌だ」


 徹は当夜を愛おし気に引き寄せる。満たされた胸がほのかに温かい。


「ありがとう、当夜」


 頭を撫でられた当夜はうんと言って、徹の服を握りしめた。だが、すぐに皺になるからと手を離させられる。


「抱き締め返してくれないのか」


「で、でも……ほら、防犯カメラとか」


「ここにはない」


 真面目な顔で否定した徹は、両手を広げてほら、と顔の表情筋を緩めた。瞬間怯んだ当夜は、そろりと徹の腕の中に納まり、腕を背に回す。


「お前がこうして悲しむような隠し事はもうない。些細なことだ」


「ホントに?」


 探るように訊ねると、徹はああと目を伏せた。


「お前の心を、僕は守る」


 眉を引き寄せた当夜は小さく馬鹿と呟き、徹の胸元にかじりつく。こら、と言って身を離した徹は、行こうかと囁きかけた。


「……うん。分かった」


 当夜は徹に促されるようにしてエレベーターに乗り込む。ドアが閉まってすぐに手首を徹につかまれ、乱暴に引き寄せられた。


「きゅ、急になっ」


 抗議のために開いた口を押し当てられた徹の唇で塞がれる。逃げようとする当夜を壁に追いやった徹は、手首をつかんでいない方の腕を壁につけ、膝を当夜の足の間に挟み込んだ。


「んっ、んむ……あぁっ」


 背の低い当夜は持ち上げられるような形になり、床につま先がつくくらいになる。不安定な状態から安全を保つために徹にしがみつく。だが、そうするとますます調子に乗って口づけが深くなっていった。


「当夜」


 耳に息と共に名前を吹きかけられ、背筋をゾクゾクと快感が駆け上っていく。


「ダ、ダメだって」


「なぜだ?」


 首筋を舐められ、きつく吸われた当夜は自由を塞がれた身体を徹がどう扱うのか緊張と期待とがない交ぜになりながらも考えていた。


「な、なんか駄目!」


 だんだん小さくなっていく当夜の声に、徹はくすりと笑い声をもらす。


「お前は本当に可愛い。可愛くて、滅茶苦茶にしてしまいそうだ」


「だからダメだって! いいからエレベーターの戸、閉めろよ。他の人だって使いたいかもしれないだろ」


「ああ、ああ。分かっている」


 徹はボタンを操作して、いつの間にか開いていたエレベーターの戸を閉じる。

 このまま頭から丸ごと食べてしまいたい、全てを自分のものにしたい、汚したいという欲望が徹の胸中をどす黒く染めようとしてきた。だが、それを押さえて当夜から離れる。


「はあ~~っ、誰かに見つかるかと思ったあ」


 ようやく解放された当夜はずるずるとその場にしゃがみ込んで息を整えようとした。


「すまない、大丈夫か?」


「う、うん」


 頬を上気させ、しどけなく手足を投げ出している当夜はとろんと蕩けた目で徹を見上げる。


「大丈夫……」


 その姿にまた当夜への想いがガタガタと徹の中で動き始めたが、当夜を立たせることに集中させて紛らわせた。


 ドアが開いたエレベーターから下りた二人は、ホールを抜けて円形状の空間へと歩いていく。銀色の扉の左側に設置されているパネルを徹が操作すると、重苦しい音をさせて扉が開いていった。


「本当に秘密基地みたいだな」


 普段の調子を取り戻した当夜がそう話しかけると、徹はそうだなと苦笑を浮かべる。


 中へ進むと、そこには見慣れた作戦本部室があった。大がかりな機会と人々に囲まれた一室の中腹に、鏡子が立っており、指示をしているのが見える。周りの邪魔にならない程度に挨拶をして回りながら、近づいて行った。


「こんにちは、今お時間よろしいでしょうか?」

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