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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
一章/炎の巨神、現る
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空に向かって飛べ!

『想い人くんが来てしまうとは、災難だったね』


「……ええ」


 モニターに映った四葉に同情の言葉をかけられた徹が苦りきった表情で答えると、四葉はくすくすと笑う。


「なんですか?」


『いいや、私も君も同類だと思っただけだよ』


「それは、光栄です」


 いや、と視線を外した四葉が言うのに、徹はなんですか? と訊ねた。四葉は少しバツが悪そうな顔になる。


『大事にしすぎない方がいい。いつか、私のように相手を滅ぼしてしまう』


「そんな」


 そんなことはないと四葉に伝えると、彼女は少し微笑んでそうかと言った。


『ありがとう。……じゃあ、想い人のために頑張ろうか』


 ハッチへと向かっていく機体の動きに身を任せる徹は、はいと神妙な顔で頷く。目を閉じて呼吸を整え、発進の合図を待った。


「当夜は戦わせない、絶対に。僕が守るんだ」


 そう言い切った徹は勢いよくレバーを引き、機体を発進させていく。慣れた操作で空中へと飛び立つヤタドゥーエを安定させ、鏡子の指示に従って目的地へと急いだ。


『アクガミ、はっけーん!』


 四葉の明るい声にはじかれるように徹は地上を見て、眉をしかめる。口から自然と声が漏れた。


「なんだ、あれは」


『ちょ、ちょっと鏡子ちゃん!? なに、あれ? すっごい数だよー!』


 二人は信じられない物を見ていた。土と鉄の色で埋め尽くされている地上に、下りて行く勇気が出ない。


『あんなの、どうやって二人だけで倒せっていうの!?』


『そっ、それは……!』


 叫ぶ四葉と、焦る鏡子。このままでは当夜を出せという指示がくるのではないかと危ぶんだ徹は、モニターに向かって大声を放つ。


「アヤさんに緊急の呼びだしを! いくら彼女でもこの状況を知れば来るはずです!」


『で、でもね』


「それか、他の支部に要請を! 当夜にこの数を対処させるよりかは安全に終るはずです」


『だけど、徹くん……それでは遅いのよ』


 哀れむ鏡子の声と、申し訳なさそうな表面上の顔を見た徹は、舌打ちをした。何度見ても地上の色は変わらない、茶と黒の二色の世界だ。


「……あれっ?」


 モニターを見ていた当夜がふいに声を上げて首を傾げた。それに、隣に座っている雅臣がどうしたの? と訊ねる。


「ううん、見間違えかな」


 目をこすり、もう一度モニターに顔を向けた当夜の顔に浮かんでいるのは、疑問の色が濃い。


「徹の髪が黄色い? 金髪?」


 モニターに映るヤタドゥーエの発進シークエンスを開始させている徹を見つめながら言った当夜の言葉に、雅臣がああと呟いた。


「鉄神に乗ると、髪と目が真逆の色になっちゃうんだよ。原因は解明できてないんだけど、これに関しては身体への影響はないから安心して」


「う、うん」


 金髪の徹は見慣れないなと当夜はモニターに見入りそうになったが、


「当夜くんも白い髪になってたよね」


 雅臣に話を続けられたため、モニターから目を離す。


「白髪っていうよりかは銀に近い感じの光沢があったけど」


「そういや俺、髪の長さも変わってたよな」


 アレはなんで? とモニターに映る金髪碧眼の徹と桃色の髪と青の目をした四葉を見る。彼らは長さまでは変わっていない。


「え、そっちが元の長さなの?」


「うん」


 当夜の返事を聞くと、雅臣は変だなと口元に手を当てて考え込む。


「……俺だけ?」


 そこも変なのかと当夜は苦い顔になった。名前の件といい、どうも自分と他のパイロットには違う点がいくつかあるようだ。


『あのっ!』


「ん?」


 雅臣に他の鉄神も喋ることがあるのかと訊ねようとした時、四葉の明るい声が指令室を満たした。

 鏡子が二人に指示を与えるために立ちあがったが、周りはざわついている。


「由川司令、様子がおかしいです!!」


「どうおかしいの!?」


 鏡子が怒るように大きな声で言い返すと、周囲のスタッフが口々にアクガミが異常発生していることを必死の形相で伝えてくる。


『ちょ、ちょっと鏡子ちゃん!? なに、あれ? すっごい数だよ!』


 ミカヅチに乗って出撃している四葉も同じのようで、モニター越しに鏡子に訴えかけてきていた。


「そっ、それは……!」


「由川司令、おそらく五十体はいるかと!」


「さらに第二陣、第三陣も来ます!」


 胸の前で手を握り、冷や汗を掻く鏡子に対して、徹がまっとうな指示を出してくる。三人目のパイロットを呼べというそれに、鏡子は渋い顔をした。


「雅臣さん、三人目のパイロットはどこでなにしてんの?」


「あー、まあ。戦いに積極的でない子もいるんだよねえ。ウチはあんまり無理強いができなくてさ」


 困った困ったと言う雅臣の目は、昨日当夜と鉄神のことを話した時とは全く違う、冷え冷えとしていた。鉄神を愛す彼にとって、鉄神を愛せない人物はなにかしら思う所があるのだろう。


『他の支部に要請を!』


 切羽詰っている徹の声に、当夜は椅子から立ち上がった。

 縋るような目で自分を見てきた鏡子に頷いて、当夜は走り出す。


「当夜くん、昨日の場所覚えてる!?」


「うん、大丈夫!」


 スタッフの間を掻い潜り、脇の階段を三段飛ばしで上がった当夜はエスカレーターのボタンを押した。だが、なかなか来る気配の見えないそれに当夜は舌打ちをして、辺りを体を動かして見る。


「当夜くん、通路の奥に階段あるよー」


「分かった、ありがとう!」


 当夜を追って階段を上がってきた雅臣に教えてもらった方向に走っていくと、確かに階段があった。当夜はこれも三段飛ばしで下っていき、格納庫の上のステップに辿り着く。


 手すりを掴んだ当夜は、格納庫で眠りについている白い翼を持つ機体に向かって叫んだ。


「カグラヴィーダ!!」


 それに、下で目まぐるしく作業をしていたメンテナンススタッフが当夜を仰ぎ見る。


「こら、君! いったいどこから入ってきたんだ!」


 近くにいたスタッフが寄ってきて当夜を押さえようとするが、当夜はそれに抗った。


「暴れるんじゃない!」


「アンタこそ、邪魔するな!」


 押さえつけようとしてくるスタッフの腕に当夜が手を伸ばそうとした時、背後から雅臣の声が響いてくる。


「その子は新しい機体のパイロットだ! 手を離して、好きにさせてあげて!」


「あ、新しい贄!?」


「で、ですが」


 目を剥いて驚くスタッフから顔を背けた当夜が手に力を入れたため、手すりが小さく音を立てた。


「……起きろ」


「え?」


「起きろッ、いつまで寝てんだ! 行くぞ!!」


 煌々とした赤い目を見開いてカグラヴィーダへと叫んだ当夜のツヤツヤとした黒髪が根本から白く変わっていく。その様子にスタッフも、雅臣も動くことを忘れて見入る。すっかり腰まで長くなった光沢のある白い髪を鬱陶しげに後ろにはらった当夜は手すりに両手を置いた。


「アンタが選んだのは誰だ! 服も命もどうでもいいから早く行くぞ!」


 当夜が怒鳴り終えると、カグラヴィーダの赤い目に光が灯る。一人手に動き始めたロボットに、周辺にいたスタッフが悲鳴を上げて避難していく。


 それを見た当夜は手すりに足をかけ、飛び降りた。


「当夜くん!?」


 雅臣が慌てて手すりに駆け寄って下を覗くが、当夜は危なげなく着地し、カグラヴィーダへと真一文字に走っていく。当夜が足元まで行くと、カグラヴィーダは片膝を立ててしゃがみ、手を差し伸べた。


「我が選んだ、唯一の人よ。お前の激しい心には驚かされる」


「寝坊助には激しいのが一番なんだよ」


 当夜と会話をするカグラヴィーダの姿に、雅臣の目が見開かれ、口角が上がる。


「自ら動き、話す鉄神……! ついに、ついにここまで来たんだね!」


 素晴らしい! と叫ぶ雅臣に、周りのスタッフは引き攣った顔のまま目をやった。


 雅臣が冷ややかな目を向けられていることを知らない当夜は、カグラヴィーダの手の上に乗る。すると、手が動いてハッチの開けられているコックピットの前まで当夜を運んだ。


 当夜がコックピットに乗り移ると、自動で閉まり、全ての機能が動き始める。


 ビッシリと歯のついた黒い球体が座席から伸びてきて、制服を噛み千切る。当夜がそれにわずかに頬を染めるが、文句を言う前に身体中に噛みつかれた。当夜は痛みに大きな悲鳴を上げ、背をしならせる。


「あ、ぐ……! うぅ」


 痛みが治まってから当夜は座席にぐったりと体を預けた。


「行こうか、渋木当夜」


「アンタな、これ毎回なのかよ」


 冗談じゃねーぞと言う当夜の言葉に、カグラヴィーダは返事をしない。


「二着も破りやがって、制服代請求するぞ!?」


「ここからは自分で操作をしてもらおう」


「おい、誤魔化すなよ!」


 まるで人間のようなことをするカグラヴィーダに当夜はツッコんだが、言っていても仕方がないと操縦桿を握り締めた。

 アマテラス機関の通路を通って自力で発進したカグラヴィーダを、激しく揺さぶられながらも当夜は安定させる。仰ぎ見た空は、まだ青を失っていなかった。

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