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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
一章/炎の巨神、現る
19/67

王様と騎士

「なーんか、ビックリ。当夜たちでも喧嘩すんのな」


「ここまで派手なのはあんましないだけで、しょっちゅうするって」


 放課後、別々に帰ろうとしていた当夜と徹の腕をつかんで引きずるようにしてきた赤木の横を歩く当夜は、短くため息を吐いた。


「徹、いつになく機嫌悪いなー。当夜が絡むとなんでも気ぃ悪くすっけど」


「心配しすぎなんだよ、徹は」


「当夜、殺しても死にそうにねーのにな!」


 頭の後ろで手を組み、ははっと笑った赤木に、当夜はそーだよなと同意する。


「俺、人より頑丈な方なんだけどなー」


「一回さあ、当夜が徹庇って砲丸にぶつかったことあったじゃん?」


「あー、あったあった。身体測定ん時な」


「幅跳びの順番待ちだったっけ? 徹の方に飛んできた砲丸、腕で防いだからマジでビビった」


 あははと笑いながら、当夜は頬を掻いた。


「あん時さあ、骨折れたんじゃないかって皆慌てたじゃん? けど、当夜ケロっとして徹のこと心配してっし、マジで折れてないしで。俺、あっコイツ強ーわって思ったんだよな」


「そういや、赤木と初めて喋ったのその日だったな」


「そーそー。いっつもムスッとした徹が俺の物! って感じで傍から離そうとしなかったから話しかけられなかったんだけど、あん時に話さなきゃ損! って気分になったんだって」


「まるで珍獣みたいだな」


 苦笑する当夜に、赤木は珍獣みたいなもんじゃんと笑う。当夜はひどいなーと笑いつつも、前を歩く徹の背中を盗み見た。


「気になんの?」


 見ていたら、赤木に脇を肘で突かれてしまう。


「なんかさあ、徹と当夜って王様と騎士って感じだよな」


「騎士なら、そんな心配しないだろー」


「んん、うんにゃ、徹は私の物を傷つけるでない! とか、立場的に守るって感じ。けど、実際体張って守んのは当夜だよな」


「言われてみれば、そうな気もするけど」


 どうだろうなと言う当夜に、赤木はそうだって! と断言した。


「……あ、そうだ。赤木、日曜弁当持ってくって言ったけど、なに頼まれてたっけ?」


「え?」


「弁当の中身。なんだったかすっかり忘れちまってさあ。悪いんだけど、もっかい言ってくれねえ?」


 片手を顔の近くまで持っていき、ごめんと当夜が言うと、赤木は目を細かく瞬きさせる。


「当夜が忘れるなんて珍しいな」


「うん、悪い」


「や、いいけど。なんだったかなー」


「卵焼きは出し入りが好きだったよな?」


「ちげーよ、甘い方だって。それは知ってるだろー?」


 赤木に否定されると、当夜はそうだったっけ? と首を傾げた。


「そうだって。ホント珍しいな」


「うん、どうしたんだろうな」


 変だなと俯きがちになる当夜に、赤木は大丈夫だって! と背中を叩く。


「徹と喧嘩したから、それでいっぱいになってるだけだろ? 気にすんなよ!」


「……うん、ありがとう」


 今度は忘れんなよーと言って、赤木は自分の好物や食べたい物を次々と言っていく。それを記憶していく当夜の耳に、ピピッという携帯の音が入ってきた。


「メールか? 音切っとけよ」


「学校を出てからつけたって。大丈夫」


 前を歩く徹のスマートフォンも鳴ったのだと知ると、当夜の意識はそればかりに集中してしまう。


「……すまない、用事ができたから先に帰る」


 そう言いだした徹はスマートフォンを手に持ったまま走り出した。加護と赤木は急になんだよと声で追うが、当夜だけは徹の名前を思い切り叫ぶと、後を追おうとする。


「お前は来るな、二人と一緒に帰れ!」


 だが、察したらしい徹に先んじて声をかけられてしまった。昨日徹に言われた犬以下だという言葉が脳裏によみがえってくる。


「当夜? 帰ろーぜ」


 心配そうな赤木の顔を見る前に当夜はキッと頭を上げ、スクールバッグの持ち手を強く握りしめた。


「ごめん、俺も行く」


「ええ!?」


 屹然と顔を上げた当夜に赤木は大声を出したが、加護はふーっと息を吐き出す。


「行けよ。事情は分からないが、とにかく徹を守りたいんだろ」


 当夜は目を丸くして加護の顔を見たが、加護は唇に笑みを浮かべているだけだった。当夜は頷き、また明日な! と言って駆けだす。


「おう! また明日!」


 手を振る赤木に振り返して、当夜は全速力で走っていった。勘だけを頼りに走っていき、少し前に走っていった徹の背中を見つけた。


「徹!!」


 叫ぶと、徹は血相を変えて体を後ろに向けた。


「馬鹿、来るな!」


 そう叫び返した徹は速度を上げて近くの公衆電話の中に入り、受話器を手に取る。カードを通し、認証を待っている内に当夜が追い付き、中に入ってきた。


「なんで来る!?」


「俺も行く!」


 狭い空間で当夜と密着することになった徹が慌てるが、当夜は構わずすがるように徹に抱き着く。


『認証しました』


 徹にとって最悪のタイミングで受話器の向こうからアナウンスが流れ、電話ボックスが地中に沈みこんでいく。


「アマテラス機関に行って、アイツらと戦うんだろ」


「そうだ! だから、お前は帰ってくれ」


「嫌だ」


「当夜ッ!」


「俺だって、徹のために戦っていいはずだ」


 ぎゅっと徹の制服の胸元を握り締める当夜を、やはり抱きしめられず徹は困り果てた。


「それに、まだ花澄は生きてるんだ。花澄が生きている内は、絶対にこの世界にはこのままでいてもらわないといけないんだ」


 小さな世界で生きている自分の妹。たとえ二度とあの白い箱から出ることができなくとも、その窓から見える世界を壊してしまうわけにはいかない。


「戦いたいんだ」


「……ダメだ」


 徹! と叫ぶが、徹は当夜の肩をつかんで自分から引き離し、地下に着いた電話ボックスから出て走っていく。当夜はその背を追った。


「追ってくるなというのが分からないのか!」


「分かんねーよ!」


 すぐに自分に追いつく脚力を持っている当夜に、徹は頭がキリキリと痛むのを感じる。指令室に繋がる扉の前に四葉を見つけると、幸いとばかりに徹は名を呼んだ。


「おや、暁美……と、想い人くんも来てしまったのか」


「はい!」


 四葉は徹の困り果てた顔を見るとふっと笑い、そうかと呟く。


「だが、君は出撃できないよ」


「えっ、なんでですか!?」


「昨日の今日では君用の衣装が用意できていないだろうからね」


「そんなのなくていいです!」


 四葉は血気盛んな様子の当夜に目を和ませると、そうはいかないんだよと諭すように言った。


「まあ、あまり時間もないだろうし、行こうか? 暁美」


「はい」


 徹が頷くと、四葉は扉を押して中に入っていく。


「遅くなりました。六条四葉、暁美徹……と」


「渋木当夜です」


 徹の横に進み出た当夜の姿に、ホールがざわつきに包まれた。二人の到着に安心したように顔をほころばせた鏡子も、驚きに満ちた顔をしている。


「当夜くん……来てくれたの?」


「由川司令、時間がありません。今日は僕と六条さんだけで出ます」


 徹が前に出て言うと、当夜はおいっと怒った声を出した。鏡子は呼ばずとも来た戦力を窺い見たが、徹とのバランスを考えて肩を落とす。


「そうね、今日は二人だけで出て。当夜くんは見学してて。ねっ?」


 女性に微笑まれて言われた当夜は不服そうな面持ちになるが、司令の決定には逆らえないのだろうと、はいとしぶしぶ引き下がった。


「じゃあ、二人は着替えて機体に向かって」


 はい! と敬礼をした徹と四葉を目で追っていた当夜の名前が大きな声で呼ばれた。声の方を向くと、二人が行った方とは真逆の方向から雅臣が走ってくる。


「とーやくん! 来てくれたんだねー!」


 嬉々とした様子の雅臣に抱き着かれた当夜は呆れた表情になった。


「ごめんねー、まだパイロットスーツ――あ、神装って僕らは呼んでるんだけど。それができてないんだ。今日採寸して帰ってもらってもいいかな?」


「えっ、ええっ? は、はい!」


「よし、決まり! あ、鏡子ちゃん。僕もここで見てていい?」


 雅臣が鏡子の方に顔を向けて言うと、鏡子はどうしてあなたまでと不服そうな顔になる。


「えーっ、ダメ? 鏡子ちゃん」


「ダメとは言ってないじゃないの。どこかから勝手に椅子を取ってこればいいでしょ」


「じゃ、当夜くんのも取ってくるね!」


「えっ、お、おれは立ったままでも」


「ダメダメ! すぐ持ってくるから!」


 慌てる当夜にも構わず、雅臣は部屋の隅に放置されている椅子を二つ引いて持ってきた。そして、当夜の肩を抱いて、鏡子のデスクの横に座らさせてしまう。


「いやー、両手に花って感じだねえ」


「りょ、両手に!?」


 カッと顔を赤くさせる鏡子に、当夜は彼女の気持ちを知って思わず破顔してしまったが、雅臣に出るよと肩をつつかれ、真剣な顔つきに戻って正面の大きなモニターに顔を向けた。

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