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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
一章/炎の巨神、現る
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優しいお兄さん

「さ、着いたよ。ここでいいんだよねえ?」


「うん、ありがと!」


 助手席で雅臣に家までの道案内をしていた当夜は頭を下げてお礼を言う。雅臣は当夜の左腕を持ち上げ、輸血の針を取った。


「もう大丈夫だと思うけど、ご飯いっぱい食べてぐっすり寝てね」


「はい!」


 フロントガラスに頭を近づけ、薄く口を開いた雅臣が訊ねる。


「家……電気ついてないみたいだけど、ご家族は?」


「多分、誰もいないよ」


 えっと雅臣が顔を向けると、当夜は苦笑して頬を掻いた。


「妹が入院してるから母さんが付き添ってるんだ。父さんはまだ職場にいると思う」


「えっ、寂しくない?」


「大丈夫だよ、隣に徹いるから」


「……さっき、絶交されてなかったっけ?」


「徹は優しいから、俺が本気でピンチになったら助けてくれるよ」


 にっと笑う当夜に、雅臣は幼馴染っていいねえと呟く。


「あ、そうだ。当夜くん携帯のアドレス教えてくれない?」


 雅臣が首からぶら下げているフィーチャーフォンを手に握り訊ねると、当夜はえ? と雅臣を見た。


「これから君に連絡することもあるだろうし、知っておいても損はしないんじゃないかなーとね」


 雅臣はダメかなあ? と目線を合わせてかわいこぶって首を傾げる。


「ダメじゃないよ」


 当夜は制服のポケットに手を突っ込むが、そこに携帯がないことが分かると、全身をパタパタと触った。


「あー、鞄っ!」


 鞄どこだろう! とアクガミから子どもを庇った時のことを思いだす。放り投げたので、どこにあるのかさえ分からない。サーッと青ざめる当夜の肩を雅臣が指の先でチョイチョイと触った。


「鞄なら後ろに置いてあるよ」


 そう言って、雅臣は後部座席に身を乗り出してスクールバッグの持ち手を掴んで持ち上げる。はいと言って当夜に渡すと、当夜はパチパチと瞬きをした。


「君の物じゃないかと思って回収してもらったんだ。合ってる?」


「うん、あってる。……あの」


 ん? と微笑む雅臣に、当夜は一度こくりと喉を鳴らして唾を飲み込み、手を強く握る。


「俺と一緒にいた子どもたちってどうなった?」


「ああ、あの子たちならちゃんとウチが助けたよ。検査もしたけど、どっこも異常なかったから安心しなよ」


 当夜はほっと表情を和ませて息を吐き、胸を撫で下した。


「よかった……」


「当夜くんが庇ってくれたおかげだねえ」


 ありがとうと言われた当夜はさらにふっと息を吐き出す。徹にあれだけ言われてしまったため、少し気にしていたのだ。


「徹くんとは明日話しなよ」


 頭を撫でてくる雅臣を当夜は見上げる。


「一夜置いたら冷静になってるかもしれないしね」


「……そうだといいな」


「大丈夫。仲良いんでしょ」


「うん!」


 大きく頷くと、雅臣はその調子と言って笑った。それから携帯と当夜に言い、当夜は慌ててスクールバッグのジッパーを開けて、中からスマートフォンを取り出す。


「赤外線でいい?」


「うん。俺から送る?」


「あ、じゃあ。お願いねえ」


 雅臣の返事を聞いた当夜は自分のアドレスを送るためにスマートフォンを操作した。赤外線どこ? とお互い言いながら携帯を合わせて、アドレスを交換し合う。


「はい、登録完了ー。ありがとうねえ」


「ううん」


 パタンと音を立てて携帯を閉めた雅臣は、胸ポケットに入れた。


「俺も登録できた」


 雅臣と顔を合わせた当夜は、にっこりと笑って車のドアノブを掴む。


「送ってくれてありがと」


「いいええ」


「あの化け物が出た時は、俺にも連絡して。徹は嫌がるだろうけど、俺はいいんだ」


「いいって、君ねえ。まだ若いんだから、そんな適当なコト言っちゃあダメだよ」


「適当じゃないよ」


 当夜は頭を横に緩く振り、否定した。


「犠牲になりたいわけでも、自暴自棄になってるわけでもないんだ。俺はただ、放っておけないだけ」


「徹くんを? それともカグラヴィーダを?」


「どっちも」


 柔らかく微笑んで答えた当夜を見て、雅臣は目をパチパチと瞬きさせる。


「君は、どうしてそんなにあの子を大事にするんだい?」


「寂しそうだったから」


「寂しい?」


「うん。寂しそうな、迷子の子どもみたいな顔してた」


 当夜は赤い海の中で見たカグラヴィーダの目を思い出しながら、雅臣に伝えた。


「子どもねえ」


「迦具土神って生まれてすぐに殺されてたし、鳥だし、刷り込み現象起こってるかも、とか」


「刷り込み?」


 真面目な顔をして言う当夜に対し、雅臣は呆けた顔を思い切り崩して笑う。いきなり腹を抱えて笑い出した雅臣に、当夜はえっ? と不思議そうな顔になった。


「お、俺なんか変なこと言った!?」


「はー……いや、なーんも」


 まだ笑いつつも目の端に滲んだ涙を指で拭う雅臣は、信じられないなと零す。


「こんなに鉄神を愛してくれる人が現れるなんて思いもしなかったよ」


 嬉しいなあと微笑む雅臣の手を、当夜は握った。


「え、なあに?」


「雅臣さんもそうじゃん。カグラヴィーダのこと大事にしてくれてる」


 そう言う当夜の手を、雅臣は両手でぎゅっと強く握り返す。


「分かる? 分かってくれる!? 僕の気持ち!」


「うん! だって、こんなに考えてるだろ。ずっと心配してるし」


 雅臣はうんうんと頷いた。


「鉄神が好きなんだ。あの肢体、美しいと思わないかい!?」


「うん! すっごくカッコイイ!」


「だよねえ、あの鉄の装甲に神の力。ああ、神ってこんなに素晴らしく残酷な存在なんだと、心から尊敬したよ……!」


 神は美しくて残酷な存在と聞いた当夜は表情を曇らせた。それに雅臣は首を傾げさせて見る。


「どうしたの?」


「あっうん……父さんが、よくそう言ってたなって」


「お父さんが?」


 ますます不思議そうな顔になる雅臣に当夜はうんと首を振って体を向けようとしたが、その前に当夜が座っている席側の窓をコツコツと小突かれた。

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