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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
一章/炎の巨神、現る
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神の内臓人間

『ねえ、本当に応援機じゃないの?』


 ドロドロにアクガミを溶かしている白い機体を見上げた四葉が鏡子に訊ねた。


『違うわ。だけど……初戦とは思えないわね』


 増援に来た二十体のアクガミをことごとく倒している中のパイロットの技量に、徹もまた驚きを感じる。初陣であの動きができるとは到底思えない。


「司令」


『はい、なにかしら?』


「先程連れていかれた自分の知人の捜索をしたいんですが、よろしいでしょうか?」


『それなら今捜索隊を出したわ。自分で捜したい気持ちは分かるけれど、我慢してくれない?』


 申し訳なさそうに微笑む鏡子に徹はくっと唇を噛む。


「分かり……ました」


『ごめんなさいね』


『あ! 下りてくる!』


 四葉の声に、徹は先程まで機体が飛んでいた方へ顔を向けた。羽を閉じながら下りてくる機体は、神々しいとさえ見える。

 地に下り立ったその機体は、身動きをしなくなった。パイロットも出てくる様子がなく、そのまま灰色へと色が落ちていく。


『気絶しちゃったのかな。血が足りないわよね、きっと』


『そうかもしれませんね』


 モニターに映る鏡子に向かって、回収しますか? と訊ねた。すると鏡子はお願い、と微笑む。


『それじゃあ、やりましょっか』


「ええ」


 徹は頷き、機体にヤタドゥーエを近づけさせていく。胴体をヤタドゥーエが抱え、足をミカヅチが持つ。恐る恐る落とさないように慎重に運んで行く。格納庫に入り、「横のままでいいですか?」と訊ねた。


『あー、いや。立ててくれ』


「分かりました。どこに立てますか?」


『じゃあ、四番ブロック! ヤタドゥーエの前に置いてくれ!』


 メンテナンスチームのリーダーである海前に指示された徹はわかりましたと返す。


「六条さん、後は自分が」


『わかった。よろしくね』


 ズンッと重みがかかってくるが、重量とパワーのあるヤタドゥーエ一機なら抱えられる。徹は白い機体を持ち上げて四番ブロックに下す。


「固定お願いします!」


『よっしゃあ! ありがとうよ!』


「いえ」


 巻き込まれないように退避していたスタッフが慌てて駆け寄ってくるのを見ながら、徹は自分もその前の三番ブロックに機体を下し、固定してもらう。コックピットのハッチを開き、スタッフに輸血パックを外してもらってから外へと出る。リフトに乗って下りる際に正面にいる白い巨神の姿を見上げる。まだコックピットのハッチは開けられていないようだった。


「お疲れ様」


「六条さんも、お疲れ様です」


 下りると、四葉が駆け寄ってきたので並んで巨神へと近づいていく。


「まだ開かないのかい?」


 近くにいたスタッフに四葉が訊ねると、スタッフは苦笑して二人を見た。


「ああ、どうやらパイロットが完全にハッチを閉めて開かないようにしてしまっているらしくてね」


 スタッフは顔を上げて巨神の胸を見る。メンテナンスチームのリーダーである海前かいまえ十郎じゅうろうが齧りつくように作業していた。


「おーい、開きそうだ! 救護班を呼んでくれ!」


 海前がそう言うと、周りのスタッフが医務室に連絡を取る。その様子を不安そうな顔つきで見ていた徹の脇を四葉が肘で突いた。


「なんですか?」


 徹が体ごと向けると、四葉は戦闘中に浮かべていたものとは全く違う大人っぽい笑みを見せる。


「想い人くんが気になるのは分かるけど、今は中のパイロットの様子を見に行かないかい?」


「そ、そうですね」


 納得のいかない顔をする徹の腕を取った四葉はリフトに乗った。


「これから仲間になる人だし、なんとなく見ておいた方がいいと私の女の勘が言っているからね」


 はあ、と言う徹もリフトに乗り、スタッフに上げてもらう。海前は作業の邪魔すんじゃねえぞとぶっきら棒に言いながらも作業を続けた。四葉はメディカルルームに行くように言うスタッフにこの人と一緒に行くのでねとはぐらかす。


「よし、開けるぞ!」


 海前の言葉に、その場にいるスタッフ全員の目が集まった。重苦しい音をさせて白いハッチが開く。


「……それは、血かい?」


「いや、単に壁の色だな」


 中は、真っ赤に染まっていた。こんな空間で戦っていたパイロットの精神状態は大丈夫なのかと徹は不安に思う。中を覗き込んだ四葉がおや? と不思議そうな声を出した。


「やけに髪が長い人だな。女性かい?」


 中に入っていく海前がおお! と嬉しそうな声を上げる。


「喜べ、徹! すっげえ可愛い子だぞ!」


 はあ……と徹は興味がなさそうな返事をしてから、下にいる人たちに救護班はまだですか? と訊ねた。


「後三分くらいで着くそうだ!!」


 準備が悪い、と徹は眉をひそめてから内部を覗き込む。血を奪い取るためだろう、服の至る所を引きちぎられていた。しどけなく白い足を投げ出しているその人物が着ている服を見た徹は、目を大きく見開く。


「海前さん!!」


「うおおビビったーなんだ、やっぱ気になんのかあ?」


 熊のような浅黒い髭面でニヤニヤと笑う海前を奥に追いやるように背を押して徹は身を乗り出して中に入った。


「おい、いくら気になるからって三人は狭いって。まだ調べてっから、後に」


 海前の呆れた声を聞き流し、徹はぐったりとしているその人物の顔にかかっている艶やかな黒髪を指先で払う。


「美人だろ?」


 閉じられている目、青白い肌は滑らかな肌触りをしていた。徹はチアノーゼの唇を指の腹でなぞる。知らずの内に、名前が口から零れる。


「当夜」


 徹の様子を横目に見ながら、海前はコックピットから出る。徹用にと持ってきていた大きなバスタオルを扉にかけた四葉と一緒に下りていった。代わりに上がってきた救急班が中を覗き込む。


「徹くん?」


 徹はビクリと肩を震わせ、後ろを振り向いた。その目に当夜に向かって伸びてくる手が映る。その人の様子はどうだい? というスタッフのものだったが、「当夜に触るな!」徹はその手を叩き、当夜を守るように抱きしめた。


「――あ……す、すいません。けれど、コイツには誰にも触れてほしくないんです」


「あ、ああ。いや、すまなかったね」


「その子には触らないよ」


 と言いながらスタッフは扉にかけてあるバスタオルを差し出してくる。徹は礼を言いながらそれを受けとり、当夜を包み込んだ。自らの血に濡れている当夜を徹は抱え上げ、頭を下げながらリフトに乗る。


「どうしてお前が……」


 あどけない顔で眠る当夜を見下ろしながら呟いた徹を、両隣のスタッフは気の毒そうな顔で見つめた。

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