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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
一章/炎の巨神、現る
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忘却のカグラヴィーダ

 赤い海から引き上げられた当夜は、自分の胸から白い鳥が中に入っていくのを見た。


「あ……っ?」


 中で鼓動が響き、突かれるように当夜の口から驚きの声が出る。自分の体の奥からなにかが生まれる感覚に震えた。


「わが名を呼ぶのだ、渋木当夜」


 頭の中に直接カグラヴィーダの声が入ってくる。当夜は口を開いた。


「カグラヴィーダ」


 胸の内から飛び出てきた白い鳥が天高く声を上げる。その声を聞きながら当夜は目を閉じた。体が持ち上げられ、その体の中へと誘われていく。


 目を開くと、パラリと光沢のある白い髪が腕にかかってくる。当夜は自分の髪の色や長さが違うことに一瞬不審感を抱いたが、すぐにそれを払拭する。それよりも気になることがあったからだ。


 それは、自分がいる空間のことだ。


 当夜は、機械だらけの場所にいた。座席の横に操縦桿がついており、正面や壁にはレバーやスイッチ、レーダーが無数に設置されている。テレビで見た飛行機の操縦室や、ロボットアニメに出てくるコックピットに酷似している。


「ここは?」


「私の中だ」


 中? と当夜が訝しげに眉をひそめた。


「私は鉄の巨神。天下りし神の子孫だ。そして、あれらは地を這いずり、我らから安寧を奪おうとする者たちだ」


 当夜の目に、土と鉄でできた化け物が映る。それは、乾いてヒビ割れ、中の金属の肌が見えている。個体差があるのか、目の数が違ったり、土ばかりでドロドロに溶けているものや鉄ばかりで硬そうなものと様々な格好をしている。


「神をも忘れ去られた今。奴らは再び我らの手から地上を奪おうとしている。人を食い、地を汚す奴らを殺すのだ、渋木当夜」


 でなくば、お前の愛す者は死に至る、と囁かれた当夜は、操縦桿に手を伸ばした。


「……操縦方法は」


「待て、お前に全てを与える」


 そうカグラヴィーダが言ったかと思うと、座席が蠢く。無数の歯を持った黒い球体が背もたれの後ろから伸びてきた。


「お、おい!? なにすっ」


 歯が当夜の着ている制服を食いちぎり、肌に食いついた。皮膚に歯が突き刺さる痛みに当夜は前かがみになり、目を閉じて歯を噛み締める。


「う、ぐうぅ……っ! い、いってえー!」


 血を吸い上げられるが、その代わりに膨大な量の知識が脳に入ってくる。当夜は痛みに耐えつつ、理解しようとする。


「これでいいだろう」


「ア、アンタな。どんな教え方だ」


「来るぞ、渋木当夜。刀を構えろ」


 当夜は震える手で操縦桿を握り、左でパネルを叩いて刀を構えさせる。土で作った翼を羽ばたかせるアクガミに向かって、当夜は刀を閃かせる。

 頭上から真っ直ぐ刀を振り下し、敵を真っ二つにした。敵はただの土くれへと変わり、風にのってどこかへ消えていく。


「そうだ、渋木当夜。それでいい」


 当夜は頷き、次の敵の腹に刀を埋め、再度刀を引いて今度は胸に深く突き刺した。躊躇いのない当夜の行動に、カグラヴィーダが哄笑する。


「なあ、これって建物とかも切れるのか?」


「神の太刀は人を傷つけなどしない」


「じゃあ遠慮する必要はないんだな」


 そう言った当夜は、天井にあるスイッチを入れ、右側にあるボードを引きずり出して設定を変更していく。それにはカグラヴィーダが慌てた。


「なにをしているのだ、渋木当夜」


「これじゃあ遠い所にいる敵に届かない」


 静かにしててくれと言った当夜は尚もこの機体を理解し、応用しようと頭を巡らせる。その間も寄ってきた敵を土くれにする手は止めていない。


「よし、これでいいか!」


 当夜はにっと笑って、ボードをしまう。機体を上空へ持ち上げ、羽を広げさせる。


「いくぞ、カグラヴィーダ!!」


 当夜がそう言って左側の壁にある赤いボタンに拳を叩きこむと、カグラヴィーダの腹の装甲が開いていく。中にしまわれていた円形の赤い筒から、灼熱の炎が吐き出されて、敵をどろどろに溶かした。

 残った敵に急接近して刀で切りつけていく。噛みつかれている全身の痛みも、血を啜られていることにも感情を抱くことなく、当夜はひたすら敵を殺すことに没頭する。


 やがて敵が全て死ぬと、当夜はふっと息を吐いて終わりか? とカグラヴィーダに訊ねた。


「ああ。素晴らしかったぞ、我が愛しの人間よ」


「そっか」


 ふっと肩の力を抜きつつ、機体を下降させていく。カグラヴィーダの足が地に触れ、揺れが伝わってきてから当夜は目を閉じて背もたれに寄りかかった。全身に噛みついていた黒い球体はしゅるしゅると座席の後ろに戻っていく。


「疲れたか?」


「うん、そりゃあ……まあね」


 今更になって、勝手に伸びた髪のことが気になってくる。先程までは白かったのに、戦闘が終わった途端元の黒に戻っていた。不思議に思いつつも腰までの長さの髪を持ち上げたが、切るのが面倒だなとしか思わなかった。


 ふと横を見ると、アクガミとは違う容姿の二体のロボットがカグラヴィーダの様子を窺うように近づいてきていた。


「あれは?」


「あれは私と同じだ。敵ではない」


「ん、ならいいんだ」


 そう言ってから、スカイブルーの重く硬そうな機体を見る。当夜の好きな快晴に似た色をしていた。


「キレーだ」


 口に微笑みを浮かべた当夜は、目を閉じ――そのまま気を失った。


「渋木当夜? どうした?」


 色を失っていく自身にカグラヴィーダは不審に思い、当夜に話しかけるが返事はない。


「気を失ったか。……少し血を奪いすぎたか」


 灰色になるカグラヴィーダ自身も、また眠りに入る。

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