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忘却のカグラヴィーダ  作者: 結月てでぃ
一章/炎の巨神、現る
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紅蓮の炎から生まれし巨神

「目覚めよ」


 ごぼっという水の音が当夜の耳に聞こえてた。浮遊感のあるからだと合わせて、まるでプールの中で漂っているようだ。


「目覚めよ、渋木当夜」


 当夜がうっすらと目を開けると、一面真っ赤な世界が映り込んでくる。


(赤い……海?)


 ぼんやりとした意識の中、当夜は寝そべった状態から、真っ直ぐ立った状態へと体を動かした。そして、声が聞こえた方へと泳いでいく。


「キレー……」


 泳いでいった先には、白く大きな鳥がいた。羽の先が赤く染まっている。細く鋭い眼光を放っている赤い目を見た当夜は、昨夜の夢を思いだす。


「俺を呼んでたのは、アンタ?」


「いかにも」


 老人のような声が赤いクチバシから出された。


「なんだ、寂しかったのか?」


「なぜそう思った」


「アンタの目がそう言ってる気がしたからかな」


 当夜は足をバタつかせて、さらにその鳥に近寄る。顔の前まで浮き、鳥の頬に手を当てて笑った。


「迷子になってる子どもみたいな目」


「そんなことは初めて言われたぞ」


「そうなのか?」


「ああ」


 当夜は鳥に頬を寄せる。


「あったかい」


「熱いのではないのか?」


「ううん、温かい、だ」


「それも初めて言われたな」


「初めてがいっぱいだ」


 当夜がくすくす笑うと、鳥も目を細めて笑った。


「渋木当夜」


「ん、なんだ?」


「私は、お前を最善の策だと考えた」


「最善の策?」


 首を傾げる当夜に鳥は笑って、翼を広げる。当夜は鳥の翼の間に立ち、赤い炎のような目を見つめる。


「心強き、正義に燃ゆる少年よ! お前にわが名を授けよう!」


 紅蓮の炎が渦を巻く。黒い煙を伴ったそれに隠れてしまった白い鳥に向かって当夜は両腕を上げた。


「渋木当夜、私をお前の中に入れてくれ。その身の全てを受け渡してくれ」


 炎の中に手を入れた当夜の指に、冷たい金属が触れる。ピクリと体を震わせて驚いた当夜は、手を引いた。


「俺は……」


「この身の名は、カグラヴィーダ。鉄の巨神、お前の剣であり、盾」


 炎は一条の光へと姿を変えて消えていく。当夜が炎に似た色の瞳を閉じると、唇に冷たい感触と血の味が滲んだ。


「地を汚す、騒がしい神の命を絶つのだ。我が愛しの人間よ」


 ***** ***** *****


「当夜ッ! 当夜あぁー!!」


 叫ぶ徹の目に、あのアクガミの姿はもうない。徹はがむしゃらに手足を動かした。


「くそっ、どけ!」


 前をふさぐアクガミを片っ端から撃ち、焼き切っていく。モニターに映っている誰かがなにかを叫んでいるらしかったが、徹はそれを全て無視した。


「当夜……っ」


 ぽとりと膝の上に涙が一粒落ちる。


「お前をっ、守ると約束したのに。僕は」


 涙の滲む目を強く開き、徹は少しでも当夜を見つけようとアクガミを射つ。

 その目に白い羽が見えてくる。光を伴った羽に、徹は目を奪われた。アクガミも羽が落ちてくる空をぼんやりと見上げている。


「なんだ?」


 徹がヤタドゥーエを動かし、どこから羽が出てきているのか、敵の攻撃なのかを探る。


「あれか!」


 ヤタドゥーエとミカヅチのいる所から五キロ程離れた場所にある高層ビルの近くに、大きな赤黒い鳥がいた。低い鳴き声を出した鳥は羽を閉じる。


『な、なに!? アクガミなの?』


 その禍々しさに、四葉が不安そうな声を出した。だが、それを防ぐように右側のモニターに、丸眼鏡をかけた黒髪の男性の姿が映る。


『お二人共、安心してください! 今確認したところ、それはアクガミではありません! 鉄神です! 鉄神が生まれる瞬間ですよッ!』


 興奮している男に、四葉がはーっと息を吐いた。


「あんな姿、見たことないよ!」


『私もよ。本当に鉄神なの?』


『ええ! 百パーセント鉄神で間違いありませんね!』


 断言された四葉はそれで気が済んだのか、まだぼーっと突っ立ったままのアクガミを倒すために薙刀を振るい、髪のように頭部についている鞭を伸ばして、しこたま叩きつける。


『キョーコちゃんっ! ほらっ、生まれます! 見てますかァッ!?』


『見ていますので、静かにしてあげてください。徹くんたちの妨げになります』


『あっ、そうですねえー。それはすみま』


 徹は回線のボタンを切り、レーザーを撃ちながら鳥の方を見た。鳥は羽を広げていて、まるで羽化する卵を守る親鳥のようだ。


「炎に包まれた神が産まれる」


 赤い炎が舞い上がり、その中から純白の機体が現れるーー白い翼が夜空に鮮明に浮かび上がった。


 白鳥のものと酷似している翼を広げた機体は、ミカヅチと同じく人に近い形をしているが、ミカヅチの頭部が球体なのと比べてこの機体はより人間に近い、輪郭のなだらかな六角形をしている。

 関節部の裏と、目の下に入っている切れこみの部分に赤が使われているため、まるで血の涙を流しているかのように見えた。


「武器は――刀だけか?」


 身の程の長大な刀を手に持っているのみで、他には武器といえるような装備が見当たらない。


『今日選ばれたばっかの子がアレで戦えるわけがないわ! 二人共急いで!』


 再び通信を無理矢理入れてきた鏡子の言葉に徹は頷き、ビームとレーザーを一斉に周囲のアクガミに向かって放つ。


 いきなりロボットの中に放り込まれたのに、こんな化け物に接近して刀で切り殺すなどという芸当ができるはずがない。第一、アレよりも連れていかれた当夜の方が問題だ。さっさと捜しにいきたいと徹は思った。


 ふと、空中に漂うだけだったその機体が揺らぐ。


「マズイ! アクガミがッ!」


 体を変形して羽を作り出したアクガミが体を上空に持ち上げた。あの機体を狙うつもりなのだろう。徹は機体を上向かせて、レーザーを撃つ。何体か動きの鈍いアクガミは貫けたが、大半のアクガミはレーザーの射程範囲から避けた。


 そうしている間にもアクガミは白い機体に近づいていくが、白い機体はまるで迎え撃つかのように体をこちらに向けて刀を正眼に構える。その姿は時代劇で見るような、あまりにも綺麗な型を取っていた。


 ヤタドゥーエとミカヅチも追うが、数が多すぎて対処しきれない。


『ちょっと、なんで逃げないの!? 逃げなさいよ!! 逃げなさいってば!』


 通信コードが分からず自分の声が届かない相手に四葉が怒鳴る。自分へ向かって叫んでいる人物がいることも知らない白い機体の主は刀を頭上に振り上げ、近寄ってきたアクガミを真っ二つに分断した。次いで寄るアクガミも腹を切りつけ、胸に深々と刺す。


 迷いが見て取れない、凛々しいと感嘆の言葉さえ出てしまいそうになる挙動に、徹は息をほうと吐きだした。


『キョーコちゃん、あれ別のトコの応援……?』


『いいえ、そんな話は聞いていないわ』


 四葉も呆然とし、観客と化してしまっていたらしい。白い機体は自分の周りにいなくなると、他のアクガミに急接近して瞬く間に切り殺している。


『そんなことより、二人共! もう一団体来るわ!』


「今度は何体ですか」


『……二十体よ』


 徹はため息を吐いて、操縦桿をぐっと握った。

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