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隣国の第二王子が整理券の配布に並んだ理由。それは念力王女である私を復縁の生贄にするためだった?

掲載日:2024/09/29

前半は切ない系、後半は勘違い・すれ違いシュールラブコメディな展開になります。

この作品はフィクションであり、作中の国や時代、人物はすべて架空のものです。現実とは一切関係がありません。


あの日、私たちは何かを誓い合った。番号の書かれた札を持って整列をして。

私は一体何を誓い合ったのか、まるでわかっていなかった。



これは、とある次元、さる時代、ある国の物語。


私、エリュティアはこの国の王女だった。16歳になった折に父王から、

「短い期間だが隣国に学びに行ってはどうかね?」

そう勧められ、いや、やんわりとだが命じられ、暖かい季節の数か月間だけ隣国に留学に行くことになった。


私は幼馴染である従者のウィオラー、そして武官とお付きの女官や警護の者たちと共に隣国へ旅立った。


隣国へ続く土煙があがる線路の上を走る馬車の中でウィオラーが言った。

「向こうで何があっても絶対に俺が守るからな」

ウィオラーは昔からいつも仏頂面なのだが本当はとても心優しいことを知っている。

大臣の子息なので本来は従者をする身分ではないのだが、ずっと一緒に育ってきたこともあり特別に私専属の供をしてくれている。

「ありがとう、ウィオラー。充分気をつけます。でも隣国も私たちの国と同じ様な政治や文化の国だから、基本的には平和で安全な国であるはず。それに……」

私は美しい彩色の鉱石を装飾した指輪をウィオラーに見せて言った。

「私にはこちらがあるから」

この指輪には私の念力が込められている。


私には王家初代の血を強く受け継いだ者だけに現れる不思議な力があった。

我が国や隣国では時々私の様に不思議な力を持つ者が存在していた。


我が国は穏やかな平和な国だが、ある時に近隣諸国から賊が入り、あろうことか王宮の近くにまで潜入してきたことがあった。

私は少し離れた所からそれを念力で吹き飛ばした。賊一派は海の先まで飛んで行き、捕縛されて近隣諸国に引き渡された時には一切の記憶を失っていた。


それ程までに強大な力には身体への負担という代償があった。それゆえに一気に力を放出しない様に普段から指輪に念力を込めており、いざという時にはこの指輪から念力が発動する様に用意をしていた。


「力を使いすぎるなよ」

ウィオラーが表情をさらに厳しくさせてそう言った。



隣国は我が国と同じく現在は暖かい季節で、到着した時は快晴で風がとても気持ち良かった。

到着した私たちを出迎えてくれたのは、隣国の第二王子ロサード殿下だった。


ロサード殿下は冷静で落ち着いた表情を浮かべていたが、少し沈んだ翳りのある雰囲気を醸し出していた。

だがふと微笑んで、

「ようこそ我が国へ。長旅お疲れだったでしょう」

そう言って私たちを隣国の王宮へ案内した。


私たちは隣国の王様と王妃様、そしてロサード殿下の兄上である王太子様と王太子妃様に謁見した。

ここまで案内してくれたロサード様はまるで興味のない我関せずな感じで、少し離れた所から冷めた様子でこの場を眺めていた。

だが、ふと視線を感じてその方向を見ると、ロサード様が不思議そうな顔をして私を見つめていた。

けれど彼は私の視線に気づいて、ふいと目を逸らした。



我が国を出立する前に隣国の情勢など様々なことを知識として頭に叩き込まれた。

その中で、ロサード様と王太子妃様が元々は恋人同士だったということを知った。


現在、ロサード様は19歳、王太子様は23歳、王太子妃様は22歳で3人は昔からの幼馴染だった。

年上の幼馴染の女性に憧れてその背を追っていたロサード様は必死で彼女を口説き落とし恋人となった。

しかし彼の兄である第一王子、現在の王太子様も密かに静かに彼女を愛していたと言う。

結果として幼馴染の恋人は兄の第一王子、現在の王太子様を選んだ。


それが昨年のこと。

当然のことながらロサード様は大変傷つき、その顔から笑顔は消え去り、沈み込み、一人物思いに耽る様に過ごしていたようだ。



宮殿の案内された部屋でウィオラーと共に寛いでいると、慌てて女官たちがやって来た。

すると、その背後からロサード様が現れ、

「今日は疲れているだろうから、明日良ければ宮殿の中を案内するが」

そう伝えてきた。

私は驚いたけれど、

「ありがとうございます。ではお願いいたします」

とそう伝えた。

私はこの人は何て親切な人なのだろうと感じた。

こちらに一切興味も関心も持っていないのに自分の責任を全うする御仁なのだと敬意を感じた。


その日の晩餐の席にロサード様は現れたけれど、しばらく滞在した後はさっと席を立って出て行ってしまった。


翌朝の食事の席に、彼は現れなかった。

召使いの者に尋ねてみると、普段は1人だけ別に用意しているのだそうだ。


食事の後、王宮の案内のためにロサード様が現れた。

私とロサード様、そしてウィオラーの3人で宮殿の中を歩いた。

「聞いているのだろう。みじめな姿を目に入れさせてすまない。」

そう彼は言った。

「なにがですか?」

私がそう尋ね返すと、

「自分など、さっさとこの城を去れば良かったのだ。それなのにいつまでもすがりつくように。みっともないことだと自分でもわかっている」

彼は宮殿の窓から空を見ながら、自分を責めるような厳しい顔つきでそう言った。

過去の自分と元恋人である王太子妃様のことを言っているだろうことは想像できた。


その表情から、どれほど苦しみ、心が傷ついてきたのか、痛いほど伝わってきた。

「王子殿下が城を去ることは簡単に出来ることではありません。お苦しい中で留まる方がどれほどつらいことかと」

私にはそれくらいのことしか言えなかった。


「ありがとう」

彼はそう言って私を見つめ、寂しく微笑んだ。

そして、

「自分はそれでもまだあの方のそばに居たいのだろうか……」

そう問いかける様に呟いて、再び窓の外の空を見上げた。


私はその姿がとても切なく、この人が救われる日が来ることを願った。

この人自身は救われることなど望んではいないかもしれないけれど。


それからも、何故かロサード様は私を誘いに来ては親切に宮殿の内外問わず、色々な場所に案内をしてくれた。

おそらく、これまでよほど息苦しかったのだろう。私が滞在し、それに付き合っていることで気分転換になっているのであればそれで良いと感じていた。



ある日、宮殿の周囲を流れる川で舟に乗せてくれることになった。

広い舟に私たちの他に貴族が数人乗り込んで、ゆっくりとした川の流れと景色を眺めていた。

すると舟が少し大きめに揺れた。

「エリュティア!」「姫!」

とウィオラーとロサード様が同時に私を呼んでくれたが、私は衝撃で目を閉じており、日頃から慣れ親しんでいるウィオラーの方に自然としがみついていた。

目を開けた時に、ロサード様も私が落ちない様に抱えようとしてくれていたようだったのがわかった。

彼は少し傷ついたような表情をして、何故かそれに自分で驚いているかの様だった。



またある時、宮殿の敷地内の中に白壁の建物があり、その瑞々しく草木が生い茂る中で書物を読むのがお気に入りなのだとロサード様は言った。

「この国の書物に興味があるなら」

と言って彼は自分の部屋にある書棚に案内してくれた。

部屋には天井からのステンドグラスの様な大きな窓があり、木漏れ日がキラキラと輝き、とても綺麗だった。

私はふと棚の上に小さな絵が立て掛けてあることに気がついた。


それは恋人時代の王太子妃様の絵だった。


彼はハッと気づき、その絵をパタンと伏せた。

そして、

「すまない」

と言った。

私はなぜ謝るのだろうと不思議に思い、

「いいえ。そのようなお気遣いなさらなくても」

と返した。



この国に来てふた月が過ぎた。


ある日、街で祭事があると言う。

私はウィオラーとロサード様と共にその祭事に出かけた。もちろん警護の者たちに囲まれてのお出かけだが。

街全体が祭事の模様に彩られ、歩いているだけでも心が躍った。

ふとロサード様を見ると、遠くを少し寂しそうに眺めていた。

きっと恋人だった頃の王太子妃様と一緒に歩いたことを思い出しているのだろうと思った。

思い出に浸る邪魔をしない様にと、私とウィオラーは少しだけ後ろを歩いた。


ウィオラーが、

「あの店で売っている、あの食べ物は何だ?」

と、ある屋台の食べ物に興味を持った。

私は、

「買いに行くなら、先を歩くロサード様に声をかけてからでしょう」

とたしなめた。

「気にするな」

そう言ってウィオラーが私と警護の者を連れて屋台へ向かおうとするので、

「ウィオラー、いけません!」

そんな風に騒々しくしていたら急に腕を掴まれた。

振り向くとロサード様が居て、私の腕を掴んだのは彼だった。


「離れたら危ないじゃないか」

そう言って、私の腕から手を離し、今度は私の手を繋いだ。

初めて触れられて、私は頬が赤くなるのを感じた。

なぜかドキドキした。

「このまま歩こう」

そう言って彼は歩き出した。

と同時にウィオラーがロサード様の腕を掴んだ。

私の手を繋ぐロサード様、の腕を掴むウィオラーという何ともよくわからない図式が出来上がった。

3人無言になり、お互いそれぞれから手を離し、これまで通りに歩いた。



数日後、ロサード様の部屋に新たな書物を借りに伺うと、棚からあの絵が消えていた。

もしかして処分をしたのだろうかと考えたが、きっと人目につかない場所に置き直したのだろう。

私は一体何を期待しているのだろうと、自分が恥ずかしくなった。


私はロサード様に少し惹かれていた。

本心を言うと、出会った時のあの寂しげな翳りのある表情を見た時から。

けれど彼には今でも想う女性がいる。

だから私はこの気持ちには蓋をして気づかない様に、これ以上惹かれることのない様にと気をつけていた。



それは数日後のまだ明るい日中の出来事だった。

王宮内の関係者が出席する祭事があり、宮殿内の祭事の間に集まった。

その壇上に上がる時、王太子妃様が衣装のせいで少しヨロヨロとして転びそうになった。

その異変に誰よりも早く気がついて支えたのがロサード様だった。


「大丈夫か⁉」

そう切羽詰まった様子で王太子妃様に呼びかけた。

「大丈夫よ。ありがとう」

王太子妃様もそう感謝を伝えた。


そんな2人の、彼の姿を私は見ていられなくて祭事の間から抜け出した。

「おい、どこに行くんだ」

誰もいない廊下に出たところで、すぐ後を追いかけてきたウィオラーに腕を掴まれた。

私はつい指輪からの力でウィオラーを少し突き飛ばす様なことをしてしまった。

「あっ、おい!」

ウィオラーはすぐに立ち上がろうとしたが、私が駆け出す方が早かった。


息を切らして宮殿の外まで走った。あの場にはいたくなかった。

呼吸を整えていると、後ろから、

「なぜ出て行ったんだ」

と肩を掴まれた。

ロサード様だった。


「なぜ……?」

私が困惑しながらそう言うと、

「聞きたいのはこちらだ。君が突然出て行ったから心配になり追いかけた!」

「どうして心配になったのですか……?」

私は少し混乱して尋ねると、

「それは……」

彼は言い淀んだ。

「……あまり優しくしないでください」

私がそう呟くと、

「エリュティア……」

彼もどうして良いのかわからない様子だった。


そこへ馬の鳴き声が聞こえたと思うと、騎手が制御できなかったと思われる馬がものすごい速さで飛び込んできた。

「危ない!」

そう叫んでロサード様は私を庇った。

私は、

「……!」

腕を前に出して念力で馬を静めた。

馬を跳ね飛ばさない様に、ただ大人しくさせるため操作が必要だったので、力を溜め込んである指輪ではなく、自分から放出した力を使った。


私はクラッとしてそのまま意識を失った。


目が覚めると夜だった。

傍にはウィオラーがいた。珍しく仏頂面ではなく心配そうな顔をしていた。

ウィオラーは、

「バカヤロウと言いたいが、蹴られてあの世に行かれるよりかはマシだ。だが心配した」

そう憎まれ口を叩きながらも、本当に私を心配していた。

「突き飛ばしてごめんなさい」

昼間のことを謝ると、

「そんなの平気だ。どこも怪我もしてないぞ」

と本当に珍しく笑顔を見せた。


しかしすぐに元の仏頂面に戻り、

「アイツも心配で来ていたんだが部屋には入室させなかった。寝顔を見られるのは嫌だろう」

と言って立ち上がり、スタスタと扉の前に行くとガッと扉を開けた。

そこにはロサード様が立っていた。


「もしかしてずっとそちらに?」

私が目覚めるのをそこでずっと待ってくれていたのだろうか。

「そんなことはいいんだ。それより身体の調子はどうだ」

そう、とても心配そうに聞いてきた。

「はい。どこも何ともありません」

安心させるため、ニコッと笑ってそう伝えた。

そして、

「ご心配して下さってありがとうございます。今も、あの時も」

そう。昼間、追いかけてきてくれた時のことも。

私が祭事の間から抜け出したのをわざわざ心配して追いかけてきてくれたのに、私は失礼な態度を取ってしまった。

「先程は申し訳ありませんでした」

と謝った。

そして結果的には私の念力で静めたが、彼は私のことを庇おうとしてくれたのだ。

そのことにも心からお礼を伝えた。

すると彼は、

「俺が君を心配するのは……。いや、それよりも君のあの不思議な力は?」

そう真剣に聞いてきたので、私は念力の能力について話した。


私の話を聞いて彼は言った。

「我が王族の中には見かけないが、国の中には不思議な力を持って生まれる者は時々出現する。だが目の当たりにしたのは本当に久方ぶりだ」

そう関心した様に言いながらも、能力の代償についていたく心配していた。


しばらくは客室でゆっくり休養する様にと申し伝えられたので、言うことを聞いて大人しくしていた。



そして、その出来事は起こった。


あれから数日後、ロサード様は岬にある灯台へ行こうと私を誘った。

しかし灯台にはすぐに向かわず、食事をしたり、馬車で街の中をゆったりと眺めたりしながら、気づけば夕方になってからようやく灯台に向かった。


もう夕暮れ。陽が落ちれば今夜は満月だ。

岬の灯台には若い男女で溢れかえっていた。

皆、番号の書かれた謎の札を持っていて、なぜかロサード様もそれを持っていた。

「札をお持ちの方はこちらに順番にお並びくださ~い」

と灯台の管理者が大きな声で呼びかけた。

どうやらこの札に書かれた番号通りに整列するらしい。


「さあ、俺たちもここに並ぼう」

と彼は言った。

「はい……?」

私は何だかよくわからないが札に書かれた番号順に整列した。

ロサード様はウィオラーには馬車の近くで待っているように伝えた。

どうやらこの札は2人までしか有効ではないようだ。


前後から聞こえてくる話によると、こちらの札は今朝早くに配布された物の様だ。

すると前の方から、

「ロサード様、今朝もお会いいたしましたね」

と彼は同じ年齢くらいの若い男性から声をかけられた。

「そうですね。再びお会いできて何よりです」

ロサード様は爽やかにそう返した。

すると、周囲から、

「ロサード様は王族なのにご自分で札の配布に取りに来られるとは、なんと素晴らしい!」

「傷心の殿下を心配しておりましたが、良いお相手が出来た様で安心いたしました」

などの大歓声が上がった。

(良いお相手とは……?そしてこの整列は一体何のためのものなの?)

私の頭の中ではいまだ疑問符が飛んでいた。

大歓声の中の1人が、

「宜しければ、前の列にどうぞ」

と申し出たが、彼は、

「こちらは公平に平等に。お気持ちだけありがたく受け取ります」

そう言って微笑み、ますますの大歓声が上がった。


灯台の中では順番に階段を昇って行き、私とロサード様の順番になった。

階段を昇りきった部屋の窓からは夕日が沈んで行くのが見えた。


ロサード様は言った。

「俺は君に誓う」

と。

一瞬、

(何を……?)

と思ったが、

「君は?」

そう聞かれたので、

「はい。では私もロサード様に誓います」

そう答えた。


謎の誓いが終わり、どうやら私たちの順番は終わったようだ。



帰りの馬車で、ウィオラーが、

「おい、一体どういうつもりだ?」

とロサード様に掴みかかって食ってかかった。

私は驚いて、

「ウィオラー、一体どうしたの⁉」

と言って止めた。

だがウィオラーは怒りながら続けた。

「待っている間にあの灯台の意味を聞いた!おい!お前はどういうつもりであんなことを!」

とロサード様に問い詰めるのを止めなかった。

しかしロサード様は、

「大臣の子息とは言え、従者の君に彼女に伝えるより先に言うのはおかしいだろう」

そう言った後はそっぽを向いてまるで相手にしなかった。


しかし、あの整列と謎の誓いはそんなに怒る程大層なことだったのだろうか?

「おい、エリュティア!」

いきなり名指しで怒鳴られた。

「お前は一体、何を言わされた⁉」

私は驚きながらも、

「ロサード様が私に誓うと申されたので、私もロサード様に誓いました」

そう言うと、

「何をだ⁉」

とさらに激しく怒鳴られた。

(こちらが聞きたいのだけど)

そう思って、

「誓っただけですが、一体私は何を誓ったのでしょうか?」

そう問うた途端、ウィオラーは静かになった。

シーンとして2人とも何も答えてはくれなかった。



その後もウィオラーに問いただしたが、やはり返答はなかった。

「何か命に関わることなの?」

と聞くと、

「そういうものでは……。いや、だが……」

と歯切れが悪くなった。


私はロサード様に何かの生贄にでもされてしまうのだろうか。


そこで私はハッとした。そして気づいた。

ロサード様は王太子妃様との復縁のために不思議な念力を持つ私を生贄にするつもりなのだ!と。

そのための誓いだったのだ……。



それ程までに王太子妃様を……。

王太子妃という身分を覆してまで彼女を彼の元に戻すには、確かに膨大な量の力が必要だ。

だから初代様の血を引く念力持ちである王女の私が生贄なのか!と理解した。

だが、しかし。

私には女王になって自分の国を守るという使命がある。

国のため、民のため、使命を果たすため、この命ある限り私は生きなければならない!

生贄になんてなる訳にはいかないのだ。



その日から私は徹底的にロサード様を避けた。

それでもロサード様はもの凄い執念で私を追いかけてきた。

どこに隠れ潜んでも必ず見つけ出して、

「探したよ、エリュティア」

そう言ってキラキラした目で私を見つめて手を差し出してきた。

「ひぃっ……」

私はその手をかわして逃げた。


私はひたすらに逃げて隠れて、体調不良を装い食事も客室まで運んでもらっていた。

もはや客室に籠城戦となった。


どうやら一国の王女、そして次期女王である私を本気で生贄にするつもりのようだ。

私はウィオラーに言った。

「早く我が国に帰りましょう!」

ウィオラーは珍しく驚いた顔で、

「いいのか?」

そう聞いてきた。

「何がいいのか、なの?」

そう聞き返すと、

「ロサードのことはいいのか?最近アイツから逃げ回っているけど」

だがアイツの執念も凄いな、とウィオラーは言った。

「良くないから帰国するのです!ウィオラーは私が生贄にされてもいいの?そのためにあれ程心配してくれていたのではないの?」

私はそう問い詰めた。


するとウィオラーは、

「生贄……?」

と眉間に皺を寄せてしばらく考えたあと、ポンと拳で片方の手を叩き、

「よし!そうだな。帰国しよう」

とものすごく乗り気でそう言い、体調不良を理由に帰国できるよう王様に申し出よう、そのための謁見のお願いをしに行こうということで話はまとまった。


客室の外にはおそらくロサード様が控えているだろう。

もしかしたら、今も聞き耳を立てているかもしれない。

ウィオラーは宮殿の外からバルコニーなどを伝い、外にいる武官に王への謁見の依頼をしに行った。


しばらくして客室の扉がノックされた。

先程の武官だった。

「周囲にロサード様はおりますか?」

そう聞くと、ここに来るまでに一切目にしなかったと言う。

(もしかして解放された……?)

私は一瞬そう思ってホッとした。


武官は、

「謁見の依頼に願い出ましたところ、王様より姫様に申したき事があるので丁度よいと申されました。今すぐ王様の元へ謁見する様に、とのことでございました」

と言った。

私はウィオラーと武官と一緒に王様との謁見に向かった。



謁見の間にはなんとロサード様がいた。

「あぁ、エリュティア」

と恍惚とした表情を浮かべて私に近づいてきた。

思わず、

「ひっ……」

と声が出て、2人の後ろに隠れた。

さすがに今、この場でロサード様を念力で吹き飛ばすわけにはいかない。


王様の話はこうだった。

私とロサード様の結婚を私の国に持ち掛けたと。

ぜひ前向きに検討して欲しいとのことだった。

そしてこの結婚を強く所望したのはロサード様ご自身だと言うのだ。


私はわからなくなった。

ロサード様は私の国に来て、私の婿になって何がしたいのだろうか?

そもそもロサード様の念願叶って私を生贄にした場合、私はすでにこの世にいないのではないか。

では誰と結婚するつもりなのだろうか。


私は考えを巡らせた。そして気づいた。

これは国の乗っ取りなのだ!と。


おそらくこうだ。

我が国で私の婿となり、私を生贄にした後、その強大な力で我が国を乗っ取るつもりなのだ。

そして復縁した女性を我が国に呼び寄せる手はずに違いない!

その場合、我が父王や王妃である母の身も無事では済まないかもしれない。

なぜならそんなことを我が国の王も王妃も許すはずもないのだから!

必ず抵抗するはずだ。

そうなった時に、彼はきっと私を生贄にした力によって皆を……。


(あぁ、この場で断りたい!けれどそういう訳にはいかない。私の一存では行かないのだ。一旦帰国して父王に相談しなければ……)

そう下手な断り方をしたら争いの火種になりかねない。これは私だけの問題ではないのだ。民の命、国の未来がかかっているのだ。

だが国の未来のためにも、ロサード様に我が国の乗っ取りなどさせるわけには行かないのだ。



そこに突然、

「エリュティアと2人きりで話がしたい」

とロサード様が申し出てきた。

「ひっ……」

私はウィオラーと武官に助けを求めたが、王様はご自分も席を外すので2人以外はこの間から出る様にと申し伝えたのだ。


ロサード様は真剣な眼差しで私を見つめてこう言った。

「君を愛している」


私にはこの人の言動が理解出来なかった。

今でも愛する王太子妃様のためここまで出来るのかと。

それとも私のことを生贄として愛しているのか。


国の平和のため、この場ではっきりと「愛していません」とは言えないので、ひとまず黙った。

あの灯台に行くまでは彼に惹かれていた。

だが今はそんな感傷など捨て去らなければならない。


「どうして何も言ってくれないんだ……」

彼は絶望した様な表情で私に聞いた。

それでも私は無言でいた。

「あの灯台で愛を誓い合ったのではないのか?」

彼はなんだか泣きそうな顔で言った。

「……愛、ですか?」

私にはそんな覚えはなかったのでそう聞き返すと、

「そう、愛だ」

と彼はしっかりと頷いた。

私は、

「どなたとどなたの愛を誓われたのですか?」

と聞いた。

すると、

「俺と君の愛に決まっているだろう!」

彼は真っ青になりながら私の肩を掴んだ。


「えぇっ!」

私は初めて驚いた。

「私は一体何を誓ったのか存じ上げていませんでした」

そう伝えると、

「嘘だと言ってくれ……」

彼はガックリと肩を落とした。

いや、先日私は確かに「何を誓ったかわからない」と言ったはずなのだが……。


ロサード様の説明はこうだった。

「あの岬の灯台は我が国の有名な観光地で、他国からも恋人たちや思いを伝えたい者たちが大勢集まってくる。この国で“あの岬の灯台に行こう”と言うのは、とどのつまり好きだ、愛しているという告白と同じ意味なんだ」


何でも、「満月の日の夕暮れ時にあの岬の灯台で愛を誓い合った者たちは永遠に結ばれる」という言い伝えがあるのだそうだ。

ちなみに、

「かつて王太子妃様とは行かれたのですか?」

と聞くと、

「いや。行こうとすると必ず時機が合わなくなり結局行くことはなかった」

と、そう彼は言った。



……その言い伝えを存じ上げませんでした。

そう伝えると、彼のガックリ落とした肩にさらに重しが乗った様に愕然となった。

「俺がそう伝えた時に君は了承してくれたから、てっきり君も同じ気持ちでいてくれたのだと……。浮かれるほど嬉しかったんだ」


悪いことをしてしまった。

我が国を出立する前の勉強では岬の灯台の話は出てこなかった……はずだ。

(もしかして一瞬ウトウトしていたあの時だろうか?)


だが、それならばロサード様も「君への愛を誓う」とかもう少しわかりやすく伝えてくれても良かったのでは?とも思った。


そして、私はとても重要なことをロサード様に聞いた。

「ロサード様は今でも王太子妃様を想っているのではないのですか?」

と。

すると彼は、

「もう想っていない。気持ちは既に断ち切っていた。ただ執着心だけをズルズルと断ち切れなかっただけだ」

そうきっぱりと言った。

「それを断ち切るきっかけがなかった。だが君が俺の前に現れ、俺は一目で君に惹かれた。それからだ。自分の中からだんだんと醜い執着心が消えて行ったのは……」

君のおかげなんだ。彼は輝く目で私にそう伝えた。


「では、王太子妃様のことはもうよいのですか?」

そう尋ねると、

「あぁ、もういいんだ」

そして、

「俺が好きなのは君だ」

そう微笑みながら言った。



「私はてっきり生贄にされるのだと思っていました」

そう言って安堵の笑みを浮かべると、

「君は一体何を言っているんだ⁉」

と彼は驚愕した顔で言った。


その理由を説明すると、彼は溜息をついて、

「君はなかなか思い込みが激しいんだな」

と言った。

(いやいや、そちらも相当なものなのでは?)

私は少し釈然としなかったが、まあ良しとした。



彼は私を真っ直ぐに見つめて言った。

「エリュティア、君を愛している」

そして、

「君の気持ちを教えてくれ」

と。


私の中で凍り付いていたロサード様への恋心が溶け出した。

でも私にはまだ気になることがあった。


私には夢があった。

“私だけを誰よりも何よりも想ってくれる人と結婚したい”

という夢だ。


我が国では、王女だからと言って己の心を捨ててまで、国のために愛のない結婚をすることを「否」とされていた。

愛する者同士がお互いを信頼し合い、同じ方向を向いてこそ、国のため民のため、その使命を果たすことが出来るのだと教えられて私は育った。


なので、別の人を想い、別の方向を向いている方とは手を取り合うことは出来ない。

必ずそこに何らかのひずみが生じてしまうからだ。それは心、精神、身体、いずれ国にまでも。


だから私は彼に問う。


「ですが、ロサード様が生涯を顧みた時にやはり一番愛していたのは王太子妃様と思うのではないでしょうか。長い年月を共に過ごされていたのですし……」

彼に向けてそう聞くと、

「断ち切った、と言っただろう。今、俺の愛情も執着心もすべては君に向かっている。過去の女性が去っても俺は生きている。だが君が去るならば間違いなく俺は死ぬだろう!」

そう断言した彼の顔は本気だった。


「いつか俺の人生を顧みた時、君が唯一で最愛の女性だとはっきり断言できる。今この瞬間でもそう言える。君に運命を感じた。2人、灯台で誓い合えたのも運命だからではないのか?」

そして、

「君の気持ちを聞かせて欲しい」

再びそう聞いた。


私はロサード様を想い、お慕いしていることを伝えた。


そして、

「俺と結婚して欲しい」

という彼の言葉に、

「はい」

と頷いた。



後日、帰国の途についた私は驚愕の光景を見た。


土煙があがる線路の上を走る馬車を、馬に乗ったロサード様が追いかけてきたのだ。

窓から顔を出した私に、

「君と離れたくない!このまま共に君の国に行こう」

と彼は満面の輝く笑顔でそう言った。


私は彼の執着心の凄まじさに、恋心をもってしても少々笑顔が引き攣るのを隠せなかった。


ウィオラーが言った。

「本当にアイツでいいのか?吹っ飛ばすんなら今なんじゃないか?」


眩しい太陽が、私たちの向かう我が国への帰路をキラキラと輝かせていた。


お読み頂きましてありがとうございます!

何かご反応頂けましたら大変励みになります。

【追記】ご評価、ブックマークありがとうございます。感謝申し上げます。

途中の加筆修正、ラストに一文を加筆しました。(2024.09.30)

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