第6話、17時の買い出しルート。
放課後。帰りのホームルームが終わると同時に、俺の席に三人の女神が降臨した。
「碧、帰ろー!」
「支度は済んで? 碧」
「……行こう、碧」
七瀬、椎名、美波。三者三様の誘い文句に、俺は鞄を持って立ち上がる。
「おう、行こうか」
校門を出て、夕暮れに染まる通学路を四人で歩く。
俺たちの学校は私服校だ。それぞれの個性が反映されたファッションは、夕焼けの中で鮮やかに映える。
左隣を歩く七瀬は、淡いイエローのオフショルダーのトップスに、ふわりと広がるデニムのミニスカートを合わせている。健康的で引き締まった太ももが眩しい。
「ねえねえ、今日の夕飯何食べたい?」
俺が尋ねると、七瀬が即座に反応した。
「ハンバーグ! 碧の作った、肉汁ジュワ~ってなるやつがいい!」
両手を広げてジェスチャーする七瀬の横で、右隣を歩く椎名がクスリと笑う。
椎名は、シックなネイビーのワンピースに、薄手の白いカーディガンを羽織っている。ウエストの細さが際立つ上品なスタイルは、彼女の高貴な雰囲気にぴったりだ。
「ハンバーグ……いいわね。碧の手料理なら、私も大賛成よ」
そして、俺の背後には美波がいる。彼女は大きめの黒いパーカーに、スキニーパンツというストリートスタイル。パーカーのフードから覗く紫色のウルフヘアと、カチューシャの蝶が揺れている。
「……碧のハンバーグ、食べたい」
「ハンバーグか。悪くないけど、ひき肉と玉ねぎの在庫が怪しいな……。少し遠回りになるけど、駅前のスーパー寄ってくか?」
「賛成! お買い物デートだね!」
「デートではありません、買い出しよ、七瀬」
「……私も、一緒に行きたい」
意見が一致し、俺たちはスーパーマーケットへと進路を変えた。
店内に入ると、俺はカートを押し、手際よく精肉コーナーへ向かう。
「合い挽き肉と、玉ねぎと……あとパン粉も少なかったか」
家庭的な俺の姿に、椎名が感心したような視線を送ってくる。
「七瀬、美波。お菓子コーナーで迷子になるなよ」
「はーい!」
「……うん」
二人はキャッキャとスナック菓子の棚へ吸い込まれていった。
俺が牛乳を選んでいると、椎名がコーヒーコーナーの前で真剣な表情をしているのに気づいた。
「椎名、何悩んでるんだ?」
「あら、碧。……いえね、食後のコーヒーをどうしようかと思って。この『ブルーマウンテン・ブレンド』か、それとも深煎りの『フレンチ・ロースト』か……」
彼女はパッケージの裏面を熟読している。その横顔は、美術館の彫像のように美しい。
「ハンバーグの後なら、口の中をさっぱりさせる深煎りの方が合うんじゃないか?」
「……そうね。貴方の言う通りだわ。さすが碧、私の好みを理解しているわね」
椎名は嬉しそうに『フレンチ・ロースト』をカゴに入れた。
その後、お菓子を抱えた七瀬と美波(七瀬はポテトチップス、美波はチョコレート)と合流し、レジへ向かう。
「碧、これ買っていい?」
「一個までだぞ」
「えー、ケチー」
「……碧、これ」
「美波も一個な」
「そろそろ行くぞー!」と俺が声をかけると、三人は「はーい!」と声を揃えた。
レジで会計を済ませ、四人で手分けしてエコバッグに商品を詰める。この光景だけ切り取れば、俺たちはまるでシェアハウスをしている仲良しグループか、あるいは少し歪な家族のようにも見えたかもしれない。
帰宅後。 リビングに入ると、私服から部屋着と言っても、七瀬はショートパンツ、椎名はロングスカート、美波はジャージだがにくつろいだ三人が動き出す。
「碧と椎名が準備してる間に、ひと勝負しよ! 美波!」 「……負けないよ、七瀬」
俺と椎名はキッチンに立ち、手を洗ってエプロンをつける。
「じゃあ椎名、玉ねぎのみじん切り頼めるか? 俺はパン粉を牛乳に浸しておく」
「ええ、任せて。……ふふ、こうして二人でキッチンに立つのって、なんだか……新婚さんみたいね」
椎名が頬を染めて俺を見る。包丁を持つ手が軽やかだ。
リビングからは、格闘ゲームの激しい効果音と、二人の叫び声が聞こえてくる。
「そこっ! 必殺技!」
「……甘い。ガードからの、カウンター」
30分ほどして下準備が終わり、タネを寝かせる時間になった。
「よし、少し肉を寝かせるか。休憩しよう」
俺と椎名が手を拭いてリビングに戻ると、七瀬が悔しそうにクッションを叩いていた。
「もー! 美波強すぎ! そのコンボ、ハメ技じゃない!?」 「……仕様だよ、七瀬」
美波は涼しい顔でコントローラーを操っている。画面には『K.O.』の文字。
プレイしているのは、今大人気の格闘ゲーム『アルティメット・ブレイカー』だ。
「碧! 敵討ちしてよ! こてんぱんにして!」
「はいはい。じゃあ俺もやるか」
俺たちは四人で対戦モードを始めた。
七瀬が選んだのは、スピード重視の忍者キャラ。
椎名は、優雅に舞う扇使いの女性キャラ。
美波は、重厚なアーマーを纏ったパワーファイター。
そして俺は、見た目が貧弱そうな「ジャージ姿の青年」という隠しキャラを選んだ。
「行くわよ、碧! 覚悟しなさい!」
椎名の扇が画面を舞う。しかし、俺はそのすべてを「パリィ」で弾き、一瞬の隙をついて懐に潜り込む。
「甘いな、椎名。そこは下段ガードだ」
俺のキャラが、椎名のキャラを足払いで転ばせる。そこへ七瀬が横から突っ込んできた。
「もらったー! 秘奥義!」
「おっと」
俺は空中で軌道を変え、七瀬の攻撃を回避しつつ、空中投げを決める。
「うそっ!? なんでそこで吸い込まれるの!?」
「……碧にぃ、後ろ」
美波のパワーファイターが背後から俺を掴もうとする。だが、俺はそれを予測していたかのようにバックステップで回避し、逆に美波をステージ端へと追い込んだ。
「……っ、読まれてた」
俺の指先は、まるでピアノを弾くように正確かつ高速でコマンドを入力していく。画面の中のジャージ青年は、三人の美少女キャラを相手に、舞うように圧倒していた。
もちろん、俺が「椎崎」としての実力を本気で出せば瞬殺だが、ここはあくまで「ゲームが得意な幼馴染」の範疇で楽しむ。適度に攻撃を食らい、接戦を演出しつつ、最後は華麗に勝利する。
「「「あーっ! 負けたー!!」」」
三人の悔しそうな、しかし楽しそうな声がリビングに響いた。
「よし、いい汗かいたな。ハンバーグ焼くぞ!」
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