第20話、完璧すぎる歯車。
キャラクター選択画面に移る。
事前の打ち合わせなどない。だが、4人のカーソルは迷いなく動いた。
『わたくし、今回は後方支援に回りますねっ! みんなが傷ついたら、すぐ治してあげるから!』
神志名鈴香が即座に選んだのは、ヒーラー兼バッファーのサポーターキャラ『ルミナス』。
『では、わたくしは戦場を整えましょうか。……視界を遮り、敵を撹乱するのは得意ですの』
神楽坂遥が選んだのは、スモークと毒ガスを操るコントローラーキャラ『ヴァイス』。
『……前は、任せて。……頭は、全部私が撃ち抜く』
雲雀川美桜が選んだのは、高機動アサルトキャラ『ゲイル』。スナイパーライフルを持たせれば最強と言われるキャラだ。
そして俺、椎崎は、前線の突破口を開くアサルトキャラ『ブレイズ』を選択した。
「……完璧な構成だな。バランスが良すぎる」
試合開始のカウントダウンが始まる。
輸送機から飛び降りる直前、俺はふと思った。
(……なんか、妙に落ち着くな。初めて組むはずなのに、背中を預けることに何の不安もない)
『降下地点、指示をくださいな、椎崎様』
『どこでもいいよー! 椎崎さんについてく!』
『……ん。リーダーは、任せる』
3人から当然のように指揮権を委ねられる。
俺はマップピンを刺した。
「……激戦区『オメガ・プラント』に行く。初動で敵を潰して、装備を奪うぞ」
『『『了解!』』』
地上に降り立った瞬間、戦いの火蓋が切って落とされた。
敵は3部隊。乱戦必至の状況。
だが、そこからの展開は、まさに「魔法」のようだった。
「右から1パ! 足音2つ!」
俺の報告と同時に、神楽坂遥のスモークが右通路を塞ぐ。
『視界、遮断しましたわ。……椎崎様、左は?』
「左はクリアだ。雲雀川、屋上取れるか?」
『……もう、取った。……1枚、割った』
パァン!
乾いた銃声と共に、敵の一人がダウンする。
『ナイスキルですわ! 神志名様、わたくしのカバーを!』
『はいはいっ! シールド展開! ……あ、そっちにグレネード来てるよ、気をつけて!』
神志名鈴香の的確なシールドが、爆風から神楽坂を守る。その隙に、俺がスモークの中から飛び出し、混乱している敵の懐に潜り込む。
「悪いな、終わりだ」
ズダダダダッ!
至近距離からのフルオート射撃で、敵の残存戦力を一掃する。
『わぁっ! 椎崎さん強すぎっ!』
『見事ですわ。……それにしても、皆様……』
神楽坂遥が、少し息を弾ませながら言った。
『初めて合わせたとは思えませんわね。……まるで、長年連れ添った家族のような……そんな連携ですわ』
ドキリとした。
俺も同じことを感じていたからだ。
雲雀川がどのタイミングで撃つか、神楽坂がどこにスモークを焚くか、神志名がいつ回復を投げてくるか。
言葉にしなくても、手に取るようにわかる。
それはまるで、夕食の支度をしている時のようだった。俺が肉を切れば、椎名が野菜を洗い、七瀬が皿を並べ、美波が箸を置く。あの一切無駄のないルーティンワークが、そのまま戦場に持ち込まれているような錯覚。
「……そうだな。これなら、チャンピオンも余裕かもしれない」
試合は一方的な蹂躙劇となった。
椎崎と雲雀川美桜のダブルアサルトが敵をなぎ倒し、神楽坂遥のスモークが不利な射線を消し、神志名鈴香のヒールが部隊の体力を常に満タンに保つ。
最終アンチ。残り5部隊。
狭まったエリアで、激しい銃撃戦が始まる。
『きゃあっ! 別の部隊からも撃たれてる!』
神志名が悲鳴を上げる。
「慌てるな。神楽坂、後ろにスモークだ! 射線を切れ!」
『承知しましたわ! ……展開!』
「雲雀川、高台の敵、抑えられるか?」
『……任せて。……見えた。……終わり』
ドォン!
重い銃声と共に、厄介な高台のスナイパーが沈黙する。
「よし、今だ! 突っ込むぞ!」
『イェッサー!』
俺たちは雪崩のように敵陣へとなだれ込んだ。
最後の敵部隊も、我々の圧倒的な火力の前に為す術もなく崩れ落ちる。
『CHAMPION』
画面に大きく表示された勝利の文字。
キルログには、俺たち4人の名前がずらりと並んでいた。
『やったあああああ! チャンピオンだああああ!』
神志名鈴香が歓喜の声を上げる。
『ふふ、素晴らしい戦いでしたわ。……これほどストレスのない試合は初めてです』
神楽坂遥が優雅に称賛する。
『……ん。楽しかった。……また、やりたい』
雲雀川美桜が、珍しく感情の乗った声で呟く。
俺はヘッドセットの位置を直し、深く息を吐いた。
「……ああ、ありがとう。最高のチームだった。……今後、どこかでまたゲームをやることになったら、その時はよろしく頼むよ。……それでは!」
『ありがとうございましたーっ!』
『ごきげんよう』
『……おつ』
ロビーに戻り、接続を切る。
その瞬間、俺は椅子に深くもたれかかった。
「……すげえ。なんだあの試合。夢か?」
スマホを見ると、通知が止まらないことになっていた。
Twitter(X)のトレンドは、もはやお祭り騒ぎだ。
1位:#奇跡のカルテット
2位:#椎崎最強
3位:#神志名_神楽坂_雲雀川
4位:#伝説のチャンピオン
『4人の連携ヤバすぎ』『これもう公式大会出ろよ』『アーカイブ永久保存版確定』『会話のテンポ良すぎw』
称賛の嵐。
俺はニヤリと笑った。
「……あいつらとゲームしたら、こんなに楽しいのか」
無意識に、「あいつら」という言葉が出た。
だが、俺はまだ気づかない。画面の向こうの彼女たちが、まさに「あいつら」そのものであることに。
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