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普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。  作者: 水鳥川倫理
第2章

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第14話、互いに正体を知らない。

午前2時。

千葉の街は、深い眠りの中に沈んでいた。


俺、目黒碧は、三時間半に及ぶ配信を終え、エプロンを外して深く息を吐いた。

『【椎崎】至高の深夜食堂 ― 今夜はスパイスから作るダークカレー』。

そんなタイトルの配信は、同接続10万人を超える大盛況だった。だが、俺にとっての「本番」は、その後のキッチンの片付けだ。


シンクを磨き、スパイスの瓶を整列させる。それが終わってようやく、俺は自分の「聖域」である自室へと戻った。


「……さて、あいつら、今頃何してるかな。本当に塾や生徒会、進路の話なのか?」


ベッドに倒れ込み、スマホを手に取る。俺の脳裏には、夕方、各々の理由をつけて去っていった三人の顔が浮かんでいた。進路相談に、予算会合に、塾の特訓。みんな、俺がいないところでは案外、忙しく、そして真面目にやっているらしい。


何気なくSNSを開くと、トレンド欄は阿鼻叫喚の嵐だった。

1位:#神志名鈴香_マスター昇格

2位:#神楽坂遥_1000盛達成

3位:#雲雀川美桜_伝説の狙撃

4位:#椎崎のカレー


「……おいおい、今夜はなんて日だ。VTuber界の三傑が同時にランクマしてたのかよ。祭りも大会もない時期なのに、この熱量は異常だな」


俺は、すぐ隣や向かいの家に住む幼馴染たちが、今この瞬間、世界中の視線を釘付けにしている張本人だとは、1ミリも疑わなかった。あまりに「日常」の彼女たちと、「画面の中」の彼女たちのイメージが乖離しすぎていたからだ。


それどころか、俺は「プロの配信者・椎崎」としての職業病で、彼女たちの配信アーカイブをザッピングし始める。


「……神志名鈴香。このエイム、どっかで見たことあるんだよな。近接戦での右へのフリックの仕方が、どうも七瀬に似てる気がする。……神楽坂遥。この立ち回り、昨日俺が話したバグ技の応用そのものじゃないか。……雲雀川美桜。この狙撃の精度、そして集中した時の独特の呼吸音……。はは、俺も疲れてんのかな。みんな知り合いに似てる気がしてくる」


俺は苦笑して椅子を回転させ、天井を見上げた。


「自意識過剰もいいところだ。あいつらがこんな世界的な有名人なわけがない」


しかし、同じ時刻。

配信を終えた七瀬、椎名、美波の三人もまた、それぞれの部屋でモニターを閉じ、一つのチャンネルをチェックしていた。

そこには、さきほど俺が配信したばかりのアーカイブがあった。


『【椎崎】特製ダークスパイスカレー、作ってみた』


「あ、椎崎さん、また料理してる……。……このカレー、すごく美味しそう。……っていうか、このお皿。碧の家にあったやつに似てない……?」


七瀬がスマホを凝視する。進路の話なんて上の空だった。


「この椎崎という男、やはり興味深いわ。この包丁の捌き方、そしてこの隠し味にシナモンを隠すタイミング……。何かしら、この奇妙な親近感は。まるでお腹の底を見透かされているような……。会合どころではないわね」


椎名が眼鏡をクイと押し上げる。予算案の書類は白紙のままだ。


「椎崎さんの声……。落ち着く。……でも、私の知っている碧にぃとは、違う。……違うはずなのに、どうしてこんなに懐かしいの……? 」


美波が毛布にくるまり、画面の中の「椎崎」にそっと手を伸ばす。塾のテキストは開かれることもなかった。


四つの秘密。四つの仮面。

お互いがお互いを「ただの幼馴染」や「普通の高校生」だと思い込んでいるからこそ、その「まさか」という否定は鉄壁だった。

だが、その鉄壁の防壁に、月明かりの下で静かに、しかし着実に亀裂が走り始めていた。


「「「「まさか、あいつ(あの子)に限って、それはない」」」」


重なり合う四人の独白。

その確信に近い「否定」こそが、彼女たちの、そして俺の仮面を辛うじて繋ぎ止めていた。だが、その仮面には既に、目に見えないほどの小さな亀裂が入っている。否定すればするほど、その亀裂から真実の光が漏れ出していることに、まだ誰も気づいていない。


明日。学校で俺が彼女たちと顔を合わせたとき、彼女たちの目はどんな光を宿しているだろうか。

自分の秘密を隠そうとする焦燥か、それとも俺への不審か。


そして、俺が「椎崎」として次に配信を始めたとき、コメント欄に彼女たちが「匿名」で現れ、俺を翻弄する日は、そう遠くない。


目黒碧は、再び襲ってきた心地よい睡魔に身を任せ、眠りについた。

明日もまた、いつも通りの、しかし一歩ずつ真実へと近づいていく一日が始まる。

俺たちの二重生活ダブル・ライブは、まだ始まったばかりだ。


「……ふふ、明日の朝食、何を作ってやろうかな」


俺の最後の独り言は、誰にも届かぬまま、深夜の静寂に溶けていった。

明日、彼女たちがどんな顔をして「昨日は疲れた」と言ってくるのか、今から少しだけ楽しみだった。

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