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普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。  作者: 水鳥川倫理
第2章

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第13話、隣の家の神様(ストリーマー)たち。

その頃。

千葉の閑静な住宅街。夜の帳が降り、街灯がオレンジ色の光を点々と落とす中、目黒碧の家を中心に、まるで結界を張るように隣接、あるいは向かい合って建つ三つの邸宅があった。外から見れば、どこにでもある静かな夜の風景に過ぎない。しかし、その厚い壁の向こう側では、三人の少女たちがそれぞれの「聖域」である自室に引きこもり、現実世界の自分を脱ぎ捨てていた。


彼女たちは、一刻も早く機材を立ち上げ、仮想世界の最前線――今まさに過熱している「ランクマッチ」の戦場へ繰り出さなければならなかった。


1. 神志名鈴香(習志野七瀬):熱狂のインファイト


「はーい! 皆おっつー! 神志名鈴香だよーっ! 今日はガチでマスターランク昇格戦、最後までやり抜くから! 全人類、最後まで応援よろしくねっ!」


習志野七瀬の部屋は、普段の彼女の「がさつな女子高生」というイメージからは想像もつかないほど、異常な重厚さを放っている。防音材が敷き詰められた壁、紫色のLEDが怪しく光るPCケース、そして彼女を包囲するように鎮座する三台のハイエンド・ゲーミングモニター。


登録者数85万人の人気VTuber「神志名鈴香」の正体は、放課後、碧に「ごめんね! 今日は……ちょっと、用事があるの! クラスの女子と、その、進路の話とか……とにかく、緊急事態なんだから!」と顔を真っ赤にして嘘をついた七瀬その人だ。


彼女は、自分がVTuberとしてこれほどまでの支持を得ていることを、碧には絶対に知られたくないと思っていた。もしバレたら、あのクズな幼馴染に何を言われるか分かったものではない。


「今日は新作FPS『Crisis Sector』、ソロランクで絶対負けないんだからねっ!」


配信開始を告げるツイートを放流した直後から、同接続数は一気に5万人を突破。コメント欄は秒速で流れていく。七瀬は愛用の超軽量マウスを握りしめた瞬間、その愛らしい猫のような瞳からハイライトが消え、捕食者のそれに変貌した。


「右、足音一つ。レイスかな。……いや、この重量感はタンク系か。……そこっ! 隠れててもマズルフラッシュで見えてるんだよっ!」


ババババン、と耳を劈く銃声。彼女の手首はミリ単位の狂いもなく動き、正確なリコイル制御で敵の頭部を撃ち抜く。そのキャラコンは、もはや努力だけで到達できる域を超えた、天賦の才を感じさせるものだった。


「ふぅ……。今の、結構危なかったかな。……あ、そうだ。今の立ち回り、実は……」


ふと、昨夜、碧が夕飯を食べている時に何気なく言っていたアドバイスが脳裏をよぎる。

『七瀬、お前はエイムはいいけど猪突猛進すぎる。FPSは一歩引いて、遮蔽物の「角」を意識しろ。生存率が劇的に上がるぞ』


その時は「うるさいな、あんたに言われなくてもわかってるわよ!」と突っぱねたが、指は勝手にその理論をトレースしていた。


「……今のね、実は知り合いの凄腕の人に教わったことを意識してみたんだ。やっぱり、基礎って大事だよね! その人はクズだけど、言うことだけは正しいんだよね!」


その瞬間、チャット欄は「誰だよその知り合い!」「男か!?」「鈴香を指導できる奴なんてプロか?」と阿鼻叫喚の地獄と化した。七瀬は一瞬だけ素の顔に戻り、顔を真っ赤にして叫ぶ。


「ただの、ちょっとゲームが上手いだけのクズな幼馴染なんだから! 変な勘違いしないでよね! さあ、次行くよ、次!」


彼女は動揺を隠すようにトリガーを引き、再び血生臭い戦場へと没入していった。彼女は知らない。その「クズな幼馴染」が、今この瞬間に自分以上の熱狂をネットの海で生み出している「椎崎」であることを。


2. 神楽坂遥(幕張椎名):冷徹なる支配


「皆様、ごきげんよう。神楽坂遥かぐらざか はるかです。今夜も、この複雑な戦場を、理知的に支配してまいりましょう」


幕張椎名の自室は、彼女の性格を反映したかのように完璧に整理整頓されていた。デスクの上には不必要なものは一切なく、アロマディフューザーから漂う白檀の香りが、精密機械が発する熱気をわずかに和らげている。


登録者数75万人。VTuber界の「知性の象徴」と称される彼女の正体は、放課後、碧に「私もよ。今日は生徒会の急な予算会合が入ってしまったの。副会長として、放り出すわけにはいかないわ」と眼鏡を押し上げて嘘をついた、生徒会副会長の椎名だ。


彼女にとって、この配信活動は完璧な自分を維持するための裏の努力であり、厳格な自分を演じ続ける現実世界とのバランスを取るための不可欠な要素だった。そして何より、これを周囲に、特に碧に知られることは死を意味するほど恥ずかしいことだと思い込んでいた。


「今夜の目標は、ポイントを1000盛ることです。私の計算によれば、現在のマッチングレートと平均生存時間を考慮すれば、三時間で達成可能ですわ。……ふふ、私にかかれば、この程度のチェスボード、計算通りに運べば容易いことですわ」


彼女のプレイは、七瀬の直感型とは対極にある、冷徹なまでの合理的思考に貫かれていた。

マップの全構造を暗記し、最短ルートで敵の背後を取り、まるでギミックを解体するように淡々とキルを重ねていく。


「このポジション取り……高低差を利用した射線の遮断は、昨夜、ある方に教わった理論に基づいています。……ええ、彼はいつもだらしないけれど、その戦術的な洞察力だけは認めてあげてもいいわ。あくまで、美味しいお弁当を作ってくれることへの、ほんのお礼として、ね」


椎名は、マイクが拾わないほどの微かな声で呟き、冷ややかな、しかしどこか満足げな微笑を浮かべてマウスをクリックした。画面の中の「神楽坂遥」が華麗な扇子を投じ、敵を罠へと誘い込む。


彼女は誰にも負けない自信があった。だが、彼女もまた知らない。自分が「だらしない」と評した碧こそが、全配信者が畏怖と敬意を抱く伝説の配信者「椎崎」であることを。


3. 雲雀川美桜(検見川浜美波):静寂の狙撃手


「……こんばんは。雲雀川美桜ひばりがわみおです。今夜も……静かに、一人で敵を排除していきます。ランク、上げなきゃ」


検見川浜美波は、カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中で、モニターの青白い光にその美しい紫色の髪を透かせていた。


登録者数100万人。VTuber界の頂点の一角。その正確無比な狙撃スキルで神格化されている美桜の正体は、今朝、碧に「ごめんね。私も、塾の集中特訓があるから……。遅くなりそうだから、先に帰ってて」とはかない声で嘘をついた美波だ。


彼女にとって、碧は唯一の理解者であり、絶対に失いたくない太陽のような存在だった。自分がネットで「狙撃の女神」などと呼ばれていることを知られたら、碧は自分を怖がるのではないか。あるいは、今のままの「守られるべき妹分」という関係が壊れてしまうのではないか。その恐怖が、彼女に重い口を閉ざさせていた。


「敵が見えた。……逃がさない。絶対に」


画面の中の美桜は、巨大な対物ライフルを構え、微動だにしない。一分、二分……普通の配信者なら耐えられないほどの沈黙。しかし、視聴者は彼女の「呼吸」すら感じるほどの緊張感に固唾を呑んで見守っている。


ズドン――!


1キロ以上先を走るジープの運転手の頭を、一撃で貫通させた。


「……守るべき場所があるから、私は強くなれる。……あ、今のは、独り言です」


美波の脳裏に、今朝、登校中に碧が「頑張れよ」と頭を撫でてくれた時の手の温もりが蘇る。彼女は、画面上のレティクルを、あたかも碧を外敵から守るための防壁であるかのように、より一層強く見据えた。


彼女もまた、碧が自分と同じ「こちら側」の人間であることなど、夢にも思っていなかった。

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