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普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。  作者: 水鳥川倫理
第2章

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12/25

第11話、158万人の共犯者。

午前2時15分。都市の喧騒が完全に死に絶え、夜の静寂が物理的な重さを持って街を覆う時間帯。千葉県郊外、平凡な住宅街の一角にある目黒碧めぐろ あおの自室は、その静寂とは無縁の、異常な「熱」と「光」に支配されていた。


窓を覆うのは、一筋の光も漏らさぬ特注の完全遮光カーテン。それは単なる家具ではなく、外の世界――「昼間の、さえない遅刻常習犯の高校生としての目黒碧」と、この部屋の主との境界線、いわば世界の断層だった。


デスクの上には、三枚の大型4Kモニターが扇状に鎮座し、それぞれが異なる情報を濁流のように吐き出している。左側にはシステム負荷を監視するタスクマネージャーと配信ソフトのOBS、中央には次世代FPSゲーム『Crisis Sector』の極彩色の戦場、そして右側には、人間が視認できる限界を超えた速度で流れる、数万人のコメントの滝。モニターが放つ冷徹な電子の光が、デスクに座る「俺」の姿を、まるで宗教画の逆光のように照らし出していた。


黒い布マスクで口元を覆い、レンズの暗いティアドロップ型のサングラスをかけた姿。それが、チャンネル登録者数158万人を誇り、配信界の「生ける伝説」と称されるストリーマー『椎崎しいざき』の正体だ。


「……はい、やっほー。椎崎でーす。今夜はFPSの手を休めて、のんびり雑談していこうか」


俺は、数十万円する高級コンデンサーマイクに向かって、少しだけ声を低く沈ませた。オーディオインターフェースを通し、リアルタイムでかけられたわずかな歪みと、胸に響くような低音強調のエフェクト。それが俺の声を、冴えない「目黒碧」から、どこか神秘的で色気のある、そして底知れない知性を感じさせる「椎崎」へと変貌させる魔法の触媒だった。


右側のモニターで、コメントの流れる速度がさらに一段階上がった。


『椎崎さん、待ってた! 今夜は雑談回か、助かる』


『その黒マスク姿、今日もミステリアスで最高。サングラスの奥が見たい』


『最近の配信界隈のトレンドについて語って! 椎崎さんの鋭い考察が聞きたい』


俺はゲーミングチェアの背もたれに深く体重を預けた。手元のコースターの上で、氷が溶けかかったエナジードリンクが結露し、デスクを濡らしている。


「最近の流行り、か。やっぱり新作FPSの競技シーンは外せないよね。各タイトルの調整が極まってきて、今はどこも『ランクマッチ』が修羅の国になってる。俺もさっきまでソロで回してたけど、あんなの心臓がいくつあっても足りないよ。でもさ……」


俺は一口ドリンクを飲み、喉を湿らせてから続けた。


「動画サイトのショート動画……特に最近流行りのVTuberさんの切り抜き。あれは毒だよ。俺もつい作業中に見ちゃうんだけどさ。普段は無敵のエイムを誇って冷徹に敵を屠る子が、不意の操作ミスで『あわわっ』て取り乱したり、驚いて変な声出したりするのは……正直、同じ配信者として、いや、一人の男として、何ていうか、こう……『くるもの』があるよね」


その瞬間、コメント欄は狂喜乱舞の様相を呈した。


『椎崎もVTuber見るのかよ! 親近感わくわw』


『誰推しだよ! 言えよ!』


『今の椎崎さんの「くるものがある」って言い方、色気ありすぎて草。誰に言ってるんだ?』


俺はサングラスの奥で苦笑を浮かべ、核心を巧みに避ける。


「特定の誰かってわけじゃないけどさ。でも、最近のVTuberはレベルが高すぎるだろ? ゲームもプロ級、歌も上手い、挙句の果てには料理が得意なことを公言してる子までいる。俺も一応、自炊はするからさ、そういう『日常の延長線上にある特技』を隠し持ってる配信者には、どこかシンパシーを感じるんだ。……まあ、俺の場合は、ただの『根暗な高校生』が夜な夜な厨房で玉ねぎ刻んでるだけなんだけどさ」


自嘲気味な笑いを混ぜながら、俺は次世代ゲームエンジンの物理演算の欠陥や、最近ハマっているクミンとコリアンダーの黄金比率、あるいは17世紀の帆船の構造について、脈絡のない、しかし異常に深い博識を披露していく。視聴者は、椎崎の底知れない知識量と、時折見せる等身大の少年らしい危うい感性に熱狂している。


だが、この画面の向こう側にいる数万人のうち、誰一人として。


俺が昼間、三人の強烈な幼馴染に翻弄され、学校では「やる気のないゴミ」として教師から目を付けられている目黒碧だとは、夢にも思っていないだろう。


夜が深まるにつれ、俺のボルテージは上がっていく。「椎崎」という仮面を被っているときだけが、俺が「俺」でいられる、本当の意味での解放の時間だった。

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