3. 六条屋敷にて
「はぁ……なんか今日はすごく疲れた」
自分と飛燕以外誰もいない屋敷に戻ってきた蒼衣はそのまま床の上にぐったりと座った。今日は桃野香織の転校から始まり、父親である蒼也の関西出張の知らせが届く大変な一日だった。疲れからかただでさえ広い屋敷がさらに広く感じていた。
「蒼衣お嬢様……今日は大変疲れたでしょう。ゆっくり休みましょう」
飛燕は蒼衣を優しく気遣った。
「ありがとう」
そう言って蒼衣はソファに横になって眠りについた。
◆◆◆◆◆
「蒼衣……この中津宮の街には龍脈が張り巡らされている」
蒼也の声が聞こえてくる。随分懐かしい時間の夢だ。
「龍脈に眠る莫大な霊力に惹かれて妖魔たちは集まってくるんだ」
「お父様……妖魔から人々を守るのが退魔師の使命ですよね?」
「その通りだ」
蒼也は微笑み蒼衣の頭を撫でた。手のひらから伝わる温もりが心地よい。
「お父様……私は立派な退魔師になります」
蒼衣は蒼也の前でそう誓った。
ゴチンと音がして蒼衣は夢から覚めた。
「随分と懐かしい夢を見たわね……龍脈の話を聞かされたせいかしら?」
蒼衣は頭を振りながら夢の内容を反芻するのだった。
◆◆◆◆◆
翌朝、いつも通りに蒼衣は朝の支度をしていた。しばらくは両親のいない日々を過ごすことを考えると若干の寂しさを感じるが、それを振り払うように蒼衣は頭を振った。
「これから頑張るぞ!」
蒼衣は決意を新たにした。
ピンポーン、屋敷の呼び鈴の音が鳴った。
「どちら様ですか?」
飛燕が猛スピードで玄関に向かった。
こんな早朝に来客とは何者だろうか。蒼衣は訝しんだ。
「六条さん! 一緒に学校に行こう!」
「あら、桃野さん、蒼衣お嬢様は朝食を食べてるところです」
来客は香織のようだ。蒼衣は微妙な表情をした。
「じゃあ中で待ってようかな」
「どうぞゆっくりしていってください」
飛燕は香織を屋敷の中に入ることを促した。
「……本当に有言実行するとは」
蒼衣は香織にジト目で見つめた。
「今日から龍脈の調査をやっていくよ!」
「はいはい……龍脈の調査ね」
蒼衣は心底面倒くさそうに返事をした。
「龍脈の調査も私もお手伝いしますよ!蒼衣お嬢様の式神ですから♪」
「飛燕さんもよろしくお願いします!」
香織は元気よく挨拶した!
「……はぁ」
蒼衣はため息をついた。
(……今日はどんな一日になるのだろう)
龍脈の調査が無事に終わることをただ祈る蒼衣だった。