2. 六条の名前
六条家は式神使いの名門である。現当主の蒼也は十二神将を従える天才式神使いとして有名だ。その娘の蒼衣も一人前の式神使いになるために修行中なのだ。
放課後、蒼衣と香織は小学校の空き教室にいた。事前に蒼衣が香織にここに来るように伝えたのだ。
「桃野さん……中津宮のことを知りたいらしいけど……歴史研究クラブもあるけどどうして私に聞いたの?」
蒼衣は香織に問いただした。
「実は六条さんじゃないと駄目なんだ……六条さんって退魔師の一族なんでしょ?」
「……どうしてそれを知っているの?」
蒼衣と香織の間に剣呑な空気が包まれた。
「だって六条家は式神使いの名門っていう話は有名でしょ?」
「そのことを知っている桃野香織は一体何者だと言っているの」
その時、窓からコツコツと音がした。
蒼衣は窓に向かうとそのまま、窓を開けた。するとツバメのような鳥が教室に入ってきた。
香織は突然の出来事に面食らった表情をした。
「飛燕、学校に来ちゃ駄目って言ったでしょう」
「蒼衣お嬢様……お知らせしたいことがあってここに来たのです」
ツバメはそうつぶやくとボフンと煙が上がり女子高生ぐらいの身長の少女に姿に変えた。
「これが六条さんの式神?」
「……蒼衣お嬢様のご友人ですか?」
蒼衣は飛燕と香織を交互に見てため息を付いた。
「……違うわよ」
蒼衣は弱々しく答えた。
「コホン……もう一度聞くわ。桃野香織……あなたは何者なの?」
「……えっと、私はとある調査機関から派遣された忍者です」
「どこの調査機関がなんの目的で中津宮を調査するのよ」
「中津宮に張り巡らされた龍脈について調べているの」
「龍脈?」
「龍脈のデータが必要らしい……詳しいことは聞いてないけど」
「はぁ……龍脈について調べてることはわかったわ」
「それで協力してくれますか?」
香織は上目遣いで蒼衣を見た。
「龍脈の調査ね……まぁ龍脈の流れを見るぐらいなら手伝ってあげてもいいけど」
蒼衣は渋々といった評定をした。
「蒼衣お嬢様……話はもういいですか?」
「桃野さんに関する話はだいたい終わったわね……飛燕、話があるって聞いたけど要件は何かしら」
「実はご当主様がしばらく出張で中津宮を離れることになりました」
「お父様が出張で離れるのはいつものことじゃない」
「その出張なのですが関西で強力な妖魔が出てまして数ヶ月はその対応に追われることになりました」
「……わかったわ」
蒼衣は寂しげな表情をした。
「六条さん……毎日六条さんの屋敷に遊びに行ってもいい」
「……厚かましいわね」
「別に構いませんよ」
「飛燕!?」
「では、そういうことで」
「待って! 私抜きで話を進めないで!」
蒼衣の叫びが虚しく空き教室に響くのだった。